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登場人物さんたちの叫び

ヒロインは何やら悲しいことがあったようです

作者: あお

ヒロインさん短編第三弾です

「お、落ちたーーーーーッ!!」

ここは物語の舞台裏。白く広がるその空間で、1人の少女が紙を手に崩れ落ちた。


「うわっ、びっくりした。急に叫ばないでよ…」

紅茶を淹れていた優しげな青年が肩を跳ねさせる。そして少しテーブルクロスに溢れてしまった紅茶を慌てて拭き取った。


「ううぅ、嘘でしょ…この私が落ちるなんて!」

彼女の名前はレラ。異世界恋愛ものヒロインを演じ続けること数年、虐げられヒロインや悪役令嬢ヒロインの役をほしいままにしてきた。


「落ちる…まさかレラ、オーディションを受けたのかい?」

心底意外というように尋ねたのはロー。レラが演じる役のお相手役として活躍中だ。


「ええ、ほら私、前に散々自分が出させてもらった物語の愚痴言ったじゃない?でも文句ばっかりなのも良くないと思うし、別の系統にも挑戦してみたらいいかなって」

「そうだね、あそこまで言われたらみんな書く気無くすよ」


「…それにもう廃れてく一方でしょうし」

「ちょ、レラ!ボソッと本音を言うの禁止!!あああ、文字だから誤魔化せないじゃないか!」

最後に落とされた爆弾にローは冷や汗をかいたが、よく考えれば前に言ってた愚痴の方が数倍やばいことに気がつき、スッと真顔に戻った。


「それで、新作のオーディションを受けたんだけどね、なんと、まさか…」

「落ちたんだよね、バッチリ聞こえてたから。そこもったいつけなくていいから」


「そうよ、落ちたの!なんで!?この私よ!レラよ!」

「どんなヒロインだったんだ?確かに君が落ちるって珍しいけど」

興味を惹かれたらしいローは椅子に座りなおした。


「ええとね、精霊に愛された女騎士みたいな感じだったわ。私、脳筋ヒロインもやったことあるし、いけると思ったのに」

「全ての騎士が脳筋ってわけじゃないだろうに…やっぱり騎士に求められる品性が足りなかったと」

レラの刃物のような視線に気がついたローは慌てて口をつぐんだ。


「私は普段中世ヨーロッパ的な世界観で令嬢やってんのよ!品性なんか売るほどあるわ!」

ローは品性がある少女は雄叫びをあげたりしないんだよ、と教えてあげたくなったが、怖かったのでやめた。


「じゃあ、技術不足?ほら、あんまり剣を使う場面とか君やってないし」

「いや、今回の女騎士は精霊の力借りまくって敵ボコすイージーモードだからそれは大丈夫よ。そんなガチの剣技が必要なところに応募しないわよ、変に筋肉ついても嫌だし」

一瞬首をひねったローは、レラの握りしめた紙に目をやった。


「ああ、その紙になんか書いてないの?」

「え、これ?そういえば合格か不合格かしか見てなかったわ」

レラは少しシワのついた紙を広げなおした。


「…定型文しか書いてないわ」

「そっか、まぁそうだよね」

「待って!でも問い合わせ先は書いてあるわ!」

光明を見出したとばかりに嬉しそうなレラを見て、ローは嫌な予感がした。


そしてこの類の予感は大体当たる。奇跡的なタイミングでヒロインを助けるヒーローを演り続けているローの勘は中々いい確率で当たるのだ。

「よし、どうして私を落としたのか直接聞いてみるわ!」

「やっぱり…」


いそいそと電話を取り出したレラを止める気力を、ローは持ち合わせていなかった。

「もしもし、はい、この前オーディションを受けた…はい、レラです」


「はい、なんで私が落とされたのか知りたいんですけど、はい…え?はい、はい…あ、はーい、失礼しまーす」

明らかにテンションを下げて電話を切ったレラに、ローは恐る恐る尋ねた。


「で、なんでだったの?」

「…私がヒロインだと、地の文がうるさそうだって…」






「ぶっっっ!」

一拍遅れてローが吹き出した。

「ッなによ!笑わないで!」

「っく、は、ははははは!」

レラの抗議も腹を抱えて笑うローには届かない。


***


「はー、なるほどね、地の文が…ふふっ」

ようやく人心地ついたローが目尻に浮かんだ涙を拭いつつ納得の声をあげた。


「なんかー、結構冷静なヒロインにしたいので、だって!悪かったわね、感情的で!」

「レラって結構、地の文でボケたりつっこんだりするタイプだもんね」


「いいじゃない!需要あるでしょ、地の文がやかましい小説!私は結構上手いんだから」

「上手い下手とかあるの?」

胸を張るレラにローが疑問符を浮かべる。


「ええ、もちろん!やりすぎたら只の一人で盛り上がってる、さっっむい地の文になっちゃうもの。ローは地の文やる時に考えないの?」

「いやー、僕はヒロインがピンチの時に焦ってる場面か、ヒロインへの愛を語る場面ばっかりだから…」

「あー…」

ローの返答にレラが少し同情混じりの視線を送る。


「でもね、一番納得いかないのはそれじゃないの!」

「え?」

レラが思い出したように声をあげる。


「合格したの、レディさんらしいのよ!」

「……?別に妥当、って感じだけど…策略系ヒロインとかよくやってるし」

レディさんは内政や複雑なストーリーがあるもの、謀略を巡らせる冷静なヒロインを多く演じている。ローの疑問の声も当然のものだった。


「いやいやいや、あの人って、過剰なくらいコッテコテの令嬢言葉よ!?騎士とか似合わないわよ」

「そうなの?僕、あんまり知らないんだけど」

途端にハァァ?と睨まれたローは反射的にゴメンナサイと口走った。


「じゃあ今から真似するわ、見てて!」

「え、うん…」

そう言うとレラは扇子を取り出し、口元に当てた。


「あら、ロー様、本日もご機嫌麗しゅう。まぁ、その装いが大変お似合いですこと。わたくし、本日は妹君の方にお会いしたく馳せ参じましたの。…御機嫌よう、マリアさん。まぁ、そんなに睨まれたら恐ろしいわ。淑女たるものそのように人様を睨むものではありませんよ?困ったものですねぇ。それでは愛しの王太子様にすげなくされるのも仕方ないかしら…」

「あー、あー、はい、わかったわかった、もういい、ストップ」

ローがうんざりしたように手でレラを制した。


レラは扇子を放り投げ、ローにニヤリと笑ってみせた。

「ね、これが地の文なの、くどくない?」

「好きな人はいるかもしれないけど、僕はお腹いっぱい…」


「とにかく、これで合格って意味わからないわ!100歩、いや1000歩譲って私がうるさいとしても、どっちもどっちじゃない!」

「うーん、確かに…」

「レディのやつなんて、悪役の方がお似合いよーっ!ばーーーーーか!」


椅子に片足を乗せシャウトするレラを見て、ローは「どっちもどっちなら、そりゃ突然叫び出さないようにするよなぁ…」と密かに思ったのであった。


作中「前に言った愚痴」の内容は前回・前々回な短編で書いているので暇だったら読んでみてくださいませ

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