角角鹿鹿
いやぁ本当に兄貴が話のわかる人間で良かったよ!司も殺されずに住んだし!私もお金めっちゃ使ったのは咎められなかったし!美味しい料理は食べられるしで万々歳だね!
「おはよう!司!いい朝だね!こんな日は運動したくなっちゃうよ〜」
私は最高に機嫌がいいのだ!
「スレイブさん… 昨日とキャラ違くね?」
おぉん?!朝の挨拶も何しかこのやろう!眠そうな顔しやがって!
「おはよう二人共、もう飯は作ってあるから適当に食べていいよ」
エプロン姿の兄貴登場により更に私のテンションは上がる!いい匂い♪
「ひゃほ〜♪兄貴のごっはん〜♪」
「あ、おはようございますお兄さん」
やっぱ朝は納豆掛けご飯だよな〜うまうま
「で、君どうすんの?家出してるんだろ、親御さん心配してるぞ」
「はは、そう…すね」
おおん?司元気ないなぁそんな枯れた笑い声なんか出して!私が元気付けてやる!
「はぁ…、別に無理に帰れって訳じゃない!とりま飯でもk――」
「よしよし司元気になれ♪」
そう言って私は司の頭を優しく抱き締めてやる。俯いてたせいで反応が遅れた司は、なすすべなく私の腕の中に収まる。
「――ちょちょ!離れろ!マジ!ちょ!ほんと!」
ジタバタと暴れよって、元気が出て来たのか?もうちょい抱き締めてやるか!
「ち、力強、てかマジ、柔らかいのが当たって――」
「オイゴラ、何朝っぱら俺の弟にくっ付いてやがる?」
「ひゃう」
相変わらず兄貴は強い…ぐぬぬ
「海堂君?ちょっと話そうか?」
兄貴の目が怖い、私はとりまリビングに戻ろ。
「えっ?!今の俺せい?!てかどう考えてもスレイブさんが元凶では!?」
「黙れ…」
私はそっと扉を閉めた。閉める時、司が兄貴のアイアンクローを喰らってたる様に見えたけど気のせい気のせい。
ふぅ〜今日は良い天気だ!いい感じに暗雲が立ち込めてる、おっと雷が鳴ったか!これは雷雨になる予感!
リビングの窓から見える東京、大っきいビルが一杯建ち並んでる。ふと風に乗って美味しそうな匂いが運ばれて来た。それは本当に微かで、気のせいかと思ってしまうほどだ、後ろにある兄貴の料理の方がよっぽど美味しそうな匂いがするよ。
「でも、どうせ暇だし行ってみようかな♪」
今日は最高に絶好調なのだ!私は窓から乗り出し空に向って飛び出す、一瞬の浮遊感、でも直ぐにこの世界の重力に引きずり落とされる。
あぁ、落ちる。落ちる、世界が私を掴んで離さない、そんなに私が欲しいのかな?それもそうか、だって私は……
「でもあげない♪」
◆少女は悪戯に微笑んで地に触れる寸前、掻き消えた。
都内にある、建設中の工事現場。地元住民と揉めた事で工事がストップし何か月も放置され、警備員すら居ない。そんな人っ子一人居ない筈の場所で、淡い光に照らされ影が二つ現れる、一つは長身でもう一つは小柄。
「なぁバグ」
淡い光が収束し二つの影は形を潜める。
「なぁにフェアリー?」
眼帯を着け手提げ鞄を持った少女はココアシガレットをタバコの様に咥えた青年に返事を返す。
「昨日の支部長、どう思う?」
「?」
少女は質問の意図が読めず首を傾げる。
「つまり、何か変じゃなかったかって事」
なるほど、と少女は手をポンッとする。
「不可解な点は、あった。でもいつものこと」
「まぁ、俺もそう思うんだが… 平田さんも何かおかしいって言ってたから、バグならなんかわかるんじゃないかと思ってな」
「フェアリーは平田の言葉、信頼し過ぎ。」
「はっ!あったりまえだろ!あの人の勘は全班長一だぞ?」
「むぅ、確かに?何か言われてみれば。いつも以上に変かも?」
少女は目を瞑り必死に支部長の顔を思い出す。
「な!バグなら何なのか分かるだろ?」
「むむ~」
少女は鞄から飴を取り出し口に頬張る。
「んむんむ。あっ」
少女は何かを思い出したかのように声を洩らす。
「本部から、厄介事。来た時と同じ反応、してた」
その言葉に青年の眉がピクリと動いた。
「厄介事?」
「うん、エイボン潰せって。無茶振りされた時と同じ。疲れてる感じ、だった?」
その言葉にフェアリーの手が止まる。
「エイボン?あのエイボンか?」
術式を構成中にも関わらずフェアリーはバグの方を振り返る。それを見てバグはムスッと眉を寄せる。
「フェアリー、集中する。まだ術終わってない」
バグ渾身の叱咤。
「おっと!危ね危ね。」
効果は今一つの様だ。
「なぁバグ、つまりは今回の事件ザインだけじゃねぇって事か?平田さんにも連絡取った方が良くね?」
「ん〜、どうだろう。支部長がまだ、テンパってないし。平気?」
ガシャン! ガラスが割れた様な不快な音が響き術が完成する。
「うぅ、その音嫌い。だからフェアリーだけって言ったのに。ぐすん」
両手で耳を押さえ少女は涙目になって青年を見つめる。
「うぐ、だがそれだと護衛の意味なくない?あぁごめんて、泣くなって」
効果は抜群の様だ。フェアリーは慰める様にバグの頭を撫でる。
「♪」
「くそ、ほんとバグ相手は調子狂う」
フェアリーは頭を掻きながら次の目的地のメモを出す。
「残り一つか…まさか3つも空振りとはな」
「次も、居ない。かも?」
その言葉にフェアリーは苦笑する。
「おいおいそれだけは勘弁してくれよ?もう一回一から探せって?頼むから次は居てくれる事を願うよ」
溜め息と共にそんな言葉がフェアリーから洩れる、その願う声が聞こえたのだろう。それは、空から降ってきた。
「?!フェアリーしゃがんで!」
真っ先に気づいたのはバグだった、遅れてフェアリーも気づいた。
空から降ってきたそれをバグが透明な何かで受け止め、投げ飛ばす。
ドンッ!ガラガラガラ!! それは大量に積まれた鉄パイプに投げ出され、辺りにけたたましい金属音を響かせる。完全に戦闘態勢に入った悪夢は油断なく構え、その赤黒く染まった瞳で相手の次の動きを予測する。
そいつは鉄パイプを押し退け出てくる。鏡の様に磨き上げられた金属のボディー、赤く光る球体を頭部に乗せ、二メートルを優に超える体躯を持つそれは。現代の魔術師、特に地系統に特化した者が愛用する――
「メタル、ゴレム?」
「その様なセンスの欠片も無い俗称で我が君を呼ばないでくれ給え?」
いつの間にかメタルゴレムの背後に一人の初老の男が現れる。男は片方にだけ丸眼鏡を掛け紺のスーツを纏い、手には杖を握っている。バグは男に既視感を抱き、直ぐに思い当たる。
「ザインの。幹部、ビル・ローゲン」
名前を当てられた事に初老の男、ビルは少し驚く。
「いやはや、まさか異界の姫君に名を覚えられていようとは…吾輩も随分と有名になったものですな!ほっほっほ」
「率直に聞く、拠点と兵数を述べよ。そうすれば、命まで、奪わない」
その言葉を聞きビルは愉快そうに笑う。
「くかかか、何故我輩がここに来たと思っているのだ?態々命乞いに来たとでも?笑止!我輩はこそこそと嗅ぎ回る貴様らを始末しに来たのだ!!くかか!」
バッ!と大げさに手を広げ愉快に笑うビルは、隙きだらけに見えるが実際は油断なく周囲を警戒し、どの角度だろうと奇襲に対応出来るよう構えている。
が、そんな物は妖精の前では傲慢でしか無かった。メタルゴレムの奇襲と時を同じくして不可視化していたフェアリーがビルの後ろに現れる。
「?!!」
「じゃぁなじじぃ!」
フェアリーが手に持ったショットガンから術で強化された鉛の散弾が放たれる。ビルも咄嗟に防御魔法を使うも一瞬で砕かれる。そして散弾が直撃しキリモミ回転しながらビルは吹き飛び――ドシャッ
体の彼方此方が弾け内蔵が剥き出しになり関節が変な方向を向いた男の死体が完成する。
「うっし!いっちょ上がり、幹部とか言ってたがただの雑魚だったな。じゃぁこのまま残り一つも行くか」
何事もなかったかの様にフェアリーはバグの下まで歩いて行く、ついさっき殺した男などもう眼中にないと言った感じだ。
だがまだ戦闘は終わってはいなかった。
「っ!フェアリー!」
バグの叫び声が響く、危機を知らせるその声に当人も漸く気付いたようだ。
「なっ!こいつまだ動――」
本来術者が死ねば使役下にある傀儡や使い魔は消える。その概念と術者を殺したと思い込んだ思考が、フェアリーに油断を植え付けていた。
メタルゴレムの拳がフェアリーに迫る、先程の対比の様にフェアリーが防御術式を張る。が、障子でも破くかの如く割れ、巨人の拳がフェアリーに直撃する。
フェアリーは辛うじて急所を逃し、後ろに飛んで威力を殺そうと試みる。凄まじい衝撃で紙屑の様にフェアリーは吹き飛び建設中の建物の外壁に激突する。
「ガハッ…」
吐血、フェアリーの口から血が吐き出される。盾にしたショットガンは潰れて曲り、フェアリーの左腕も折れた。だがまだフェアリーは生きていた、それは彼が刹那の攻防で最適解を出した結果だ。どれか一つでも対処を間違えていたら死んでいただろう。
「いやはや、よもやまだ生きていますか。ですが――!」
何処からかビルの声が響くのとメタルゴレムが追撃を行うは同じだった。フェアリーは動けない、追撃がくれば今度こそ死ぬだろう。
「させない!」
無論この場にその少女が居る限り、追撃など出来ないが…
ガンッ! 追撃で繰り出されたメタルゴレムの拳が、何もない所で停止する。フェアリーの前には眼帯を外した少女が立ちはだかっていた。
「許さない…」
星の煌きを瞳に宿した少女は、怒りと共にそう呟く。
◆幾星霜の煌きを宿し瞳、胎動する少女の影、惨憺たる死の気配が…世界を蝕む。
次回!ビル死す!さぁ… 懺悔しろ