うぇーい ただいまぁ
無事に家に辿り着いたぞ。因みに電車に乗ってる途中痴漢にあった、不快だったから心の中で死ねっ!て念じたら痴漢のおっさん泡吹いて倒れた、なんか持病でもあったのかな?
「ただいまぁ~」
合鍵で扉を開け靴を脱ぎ捨てずかずかと家に入る。色々考えたけど自然体が一番だと思うんだよ、口で何言ってもめんどくさいからね?16年一緒に居るんだから気付くだろ。
「t………」
ただいまの「た」すら言わずに兄貴が固まる。
「おいおいブラザー?かわいい弟が帰宅したって言うのにただいまの一つも言わないのか?」
あれ?僕こんなキャラだっけ?まぁいいか。片方のハイソックスを脱ぎ、リビングの扉を塞いだ状態で固まる兄貴に叩きつける。すると兄貴はよろけて道を譲ってくれた、僕は脇を抜けリビングにあるソファーに腰を掛けた。
「兄貴~お腹空いた~今日の夕飯なに?」
ギギギと音が鳴りそうなくらいぎこちなく僕の方を振り向く兄貴、口をぱくぱくさせて何かを言おうとしている様だ。
「夕飯は~?僕はカレーオムレツがいいな!」
兄貴は何故か顔を赤くしてもう一度固まる。
何故だろう?兄貴がおかしい、いつもはこんなじゃないのに…… そうか!夕飯の食材を買い忘れて僕になんて言い訳するか考えているんだな、さては!
「はっははっ~ん、さては夕飯の仕度をしていなかったんだな貴様~これは重罪だぞ~?一週間カレーオムレツの刑だぞ~?」
反応がない、これは図星だな。すると兄貴は大きく深呼吸をして息を整え始めた。?どうした?そのまま咳払いをして~、意を決した様にハイソックスを握り締め、僕を真っ直ぐ見る。
「まず、君は誰なんだ!?さっきから俺の事を兄貴兄貴と!俺に妹居ないから!新手の詐欺か何かか?!ていうか鍵は?どうやって入ったの?!てかマジで君誰?!!」
「あぁ~、まさか兄貴僕がわからないのか?」
僕は予想外の事態に陥ってしまった!嘘だろ!16年共に生きたのにまさかわからないとは……
僕が諦め混じりに問うた質問に予想道理の答えを兄貴は提示した。
「あぁ、おそらく君とは今日が初対面だぞ」
「ジーザス、こんなことが起きるなんて…」
僕はしゃがみこみ床に手を付く。面倒だけど口で説明するしか無いようだ、まぁそうと決まればさっさと立ち上がりもう一度ソファーに座る。
「いいか兄貴よ、まずは椅子に座って僕の話を聞き――」
「あっもしもし?警察の方ですか?」
僕は更に面倒な事が起こる予感がしたので、素早く兄貴からスマホを取り上げる。危ない、まさか父さんが怒った時の真似をしている間に警察に連絡するとは。兄貴、恐ろしい子…
『もしもし?大丈夫ですか?もしもしー』
「あっすいません、今兄が取り乱して掛けてしまっただけなので気にしないで下さい」
『どうかされたんですか?』
「はい家の中で不審者でも見た様な事を言っていて、多分酔ってるのかもしれませんね」
『あ~そんなんですかー、お体に気を付けて下さい』
「はい~」ピッ
ふ~危なかった、まぁこの程度僕には危機にすらならないけどね!そういえばさっきから兄貴が妙に静かな様な?
「兄貴~ちょっと説明するからさ~まずは話聞こ?ね?」
僕が優しく兄貴にそう促すが兄貴は相変わらず何も話さない。どうしたんだろ兄貴?あぁ、なんか黒くてブニブニした触手に全身がんじがらめにされてる。もしかしてこれ僕の?あっほどけた、やっぱ僕のだったみたい。
「どうしたの兄貴?まるでホラー映画24時間ぶっ通しで観た人みたいになってるよ?」
明らかに兄貴の目には恐怖の色が宿ってる、う~んこのまま説明していいのかなぁ?うんいいか。
そして僕は今日あった事を大体説明した。
兄貴は大体「あぁ、はぁ、???」を使い分けて聞いてくれた。そして出た結論が、
「もしかしなくてもTSじゃね?」
「TS?TASの略か何か?」
「TASじゃなくてTSはトランスセクシャルの略な、様は男が女になったり女が男になったりする話の事を言う」
「へぇ~てことは僕もそのTSになった訳だね!ていうか兄貴は僕が女になった事信じてくれるんだね」
「あぁ~その、まだ半信半疑だけどな?でもまぁ、さっきのあれ見たらそうとしか思えないしな~、あっそうだ!お前と俺しか知らない秘密話とかある?こういうの定番だしさ?」
ふむ、二人だけの秘密か、むむむ~そうだな~何かあったかな?
「あっ、暗黒しn――」ガシッ、兄貴に頬を押さえられる。
「オ~ケ~、貴様を我が弟と認めよう」
暗黒神スレイブさんが弟と認めてくれた、やった~。
「ふぁいふぁほぉほ」
「おっとすまん」
ちょっと顔を赤らめた暗黒神スレイブさんが僕のほっぺから手を離す。
「てかさーお前が女になった訳だけど、戸籍に学校そのた諸々どうすればいいんだ?」
「なんとかなるっしょっ!私最強だし!」
頭痛が痛いのポージングをする兄貴。
「弟よ、最初から思っていたんだがなんか性格違くない?それとさらっと流そうとしてるけど、さっきの触手何?なんか足元から生えてたけどさ、お前TSだけじゃなくて異能とか使える様になってない?大丈夫か?」
「あぁ僕もそれ思った、なんか触手出てきたよね?なんなんだろう」
異能、異能使い、なんかカッコいい。
「自覚無かったのかよ…… まぁなんだ、弟が妹になろうが異能に目覚めようがどんなことがあろうが、絶対に俺はお前の味方だからな!なんでも相談しろよ?」
ニコッと微笑む兄貴、きっと僕の事を安心させようとこんな事を言ってるんだろう。うぅ、なんて良い兄貴なんだ!
「兄貴ぃぃ」ひし
「ちょっおま、くっつくな!抱き締めんな!!ちょっ、まじはな、離せ!」
「いいじゃないか~兄弟なんだし~少しくらいさ~」
「普通兄弟で抱き着かないって!てかお前自分が今どんな姿してるか考えろ!」
そう言って力尽くで僕を引き剥がした兄貴、それはそれは真っ赤な顔をしていた。
「アッハうける」
「はぁ~疲れた。まじ」
どよ~ん、と聞こえて来るようだ。
「兄貴~大丈夫?」
「こいつ…!」
誰のせいだと思ってやがる!と顔に書かれた兄貴はめちゃくちゃ引き攣った笑みをする。きっとまだ僕の事で色々不安で落ち込んでるんだろう… 兄貴⋯
「ところで兄貴?ずっと僕のソックス握り締めてるけど欲しいの?」
「⋯⋯?」
頭に疑問符を浮かべる兄貴。
「⋯⋯⋯⋯⋯」
ソックスを握り締めた手を見て固まる兄貴。
「あげようか?」
「!!違うぞ!断じて!てか今の今まで気付かなかった!まじ!」
「あぁ、恥ずかしがらなくていいよ?」
「だーかーらー!!違うって!」
「今日色々あって疲れたから私もう寝るね」
わぁわぁと喚く兄貴を他所に、僕は自室に向かう。あ、そうだ。 ぬぎぬぎ
もう片方のソックスを兄貴の顔面に投げつける。
「ちょ― 「あげる脱ぎたてだよ?」
私が半笑いでそう言うとまたしても兄貴は固まってしまった。そうとう嬉しかったのだろう、私はソックスを二つ握り締めた兄貴を放置し自室のベッドで寝た。
「おやs―」くか~
◆少女は眠りについた、己が身を案じる様子は一切無く、それはそれは良き寝顔だったと後に兄は語った。