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第82話 おっさん、人魚の美声に驚く

改めまして、

『アラフォー冒険者、伝説になる ~SSランクの娘に強化されてSSSランクになりました~』を

よろしくお願いしますm(_ _)m

 皆が洞窟に入った後、少し時間をおいてヴォルフも入っていった。


 ほんのりと明るい。

 炎獣の火に引き寄せられた火の精霊が、うようよしているからだ。

 さらに奥へ行けばいくほど明るくなっていく。

 この先に源泉となる炎があるのだろう。


「やっぱり後を追うんだにゃ」


「このまま引き下がれないよ。アローラのことが心配だ」


 洞窟の中は当然熱い。

 何もしてなくても、額に汗が噴き出てくる。

 火に弱い彼女にとっては、この環境は拷問に等しい。


 今さらだが、やはり無理矢理でも引き留めるべきだった。


「あのアローラってお嬢ちゃん。ご主人様とそっくりにゃ」


「ん? どういうところが?」


「気付いてにゃいか? 自分の命を省みず、お節介を焼いてしまうところなんてそっくりにゃ?」


 ヴォルフは顎に手をやった。


 いわれてみれば、その通りだ。


 主人が今気付いたことに、ミケは大きく落胆した。

「少しは心配する人間の身にもなってほしいにゃ」と付け加える。


「大丈夫だよ、ミケ」


 ヴォルフは愛獣の背中をさすった。

 ミケはゴロゴロと喉を鳴らす。


 その主人の足が止まった。

 ミケもピンと九尾を立て、耳をそばだてる。


 戦の音が聞こえた。


 炎を逆巻く音。

 地を踏み、駆ける足音が。

 戦士たちの気勢が!


 戦っているのだ。

 アローラたちが……。



 ◇◇◇◇◇



「早速というわけですか……」


 華やかなベードキアの口調が変わる。

 目を細め、口元には微笑を浮かべた。

 余裕というよりは、戦場(いくさば)における彼女のスタイルなのだろう。


 リックも盾を荒々しく回し、前面に展開する。

 その背後にはアローラがいて、長柄のハンドアクスを握った。


 眼前には炎獣が並んでいた。

 大小、その形も様々だ。

 そのすべてに火が灯り、紅蓮の炎が揺らいでいる。


 幅こそ広いが一本道。

 退路は後ろしかないが、すでに半包囲されていた。

 当然熱はこもり続ける。

 ヴォルフからもらった薬によって、かなり熱の軽減に成功しているとはいえ、アローラの顔にはすでに玉のような汗が浮かんでいた。


 上司の消耗が激しい。

 それを悟ったリックは、なんとか短期戦をしかけることが出来ないか考える。


「ベードキア殿。一瞬で片づけることはできませんか?」


「殲滅魔法ですか。少しお時間をもらうことになりますが……」


「かまいません。時間稼ぎは得意です」


 リックは大きく盾を掲げた。


【武侠の陣】!


 裂帛の気合いを洞窟内に轟かせると、勢いよく振り下ろす。

 地面に盾が突き刺さった瞬間、戦気が光り、広がった。

 光は亀の甲羅のように3人を覆う。


 炎獣たちは炎を吐き出した。

 リックが作り上げた光の陣地は、そのすべてを跳ね返す。

 炎が効果無いとみるや、次に魔獣たちは体当たりを仕掛けてきた。

 だが、その攻撃すら完封し、炎獣たちの侵攻を阻む。


「(なかなかやりますね、リックくんは)」


 殲滅魔法を練るため集中していたベードキアは密かに賞賛を送る。


 【武侠の陣】は【盾騎士(ガーター)】の固有スキルの1つだ。


 一定範囲内の物理、魔法を無力化するスキル。

 使用経験値によって無力化できる上限が上がっていき、熟練者となればあのグランドドラゴンの厄介なスキルすら無力化してしまう。

 難度レベル4と比較的覚えやすく、パーティーに所属する【盾騎士】なら、真っ先に覚えるよう奨められるスキルでもある。


 炎獣のクラス難度は低い。

 これぐらいの攻撃ではびくともしない。


 だが、このスキルには弱点がある。

 時間が決められているのだ。


「ベードキアさん! まだですか!」


「もう少し……。もう少し待って下さい」


 ベードキアは集中を解かず、少し抑えた声で返す。


 炎獣のクラスが低いといえど、数が多い。

 それにもし【武侠の陣】が解ければ、たちまちピンチに陥る。

 そんな危機感がリックを焦らせた。


「リック……。援護します!」


 背後から強い意志が籠もった声が聞こえる。


 すると、アローラは手を広げた。

 酸素の薄い洞窟の中で、胸一杯になるほど息を吸う。

 次いで胸の宝石が赤く光り輝いた。


 やがて口から放たれたものは、一瞬戦場であることも忘れるような美声だった。



「聞けよ、愚かなるものたちよ。


 時が求めた足音を。


 おもてをあげた英雄の声を。


 そして、紡がれるその物語……」



【英雄運命叙事詩】!



 周囲が黄金に染まった。


 力が溢れる。

 リックの顔つきが代わり、ベードキアも目の色を変えた。


 いける!


 危機的状況の中で、2人は確信を持って叫ぶ。


「おおおおおおおおお!!」


 リックは猛る。

 【武侠の陣】が先ほどよりも分厚くなった。

 陣に浸食を始めていた炎獣たちを再び弾く。

 その堅固さはレクセニルの城壁を思わせた。


 同時にベードキアも呪唱に入る。


「我が傅きもの。冬の女王シグドゥワよ。天河すら凍てつかせる氷の吐息。我が手に宿り、夜の帳の中にあるものを支配せよ。魂すら握れ!」



女王の氷息吹アイシル・フリージェンド】!



 術者を中心に氷の波が広がる。

 紅蓮の色が揺らぐ洞窟が、一瞬にして氷窟に変わった。


 津波のように襲いかかってきた氷に、炎獣たちはなす術がない。

 炎ごと飲み込まれ、オブジェと化した。

 すると、わずかに空気が震えただけで、霧散する。


 炎獣は消滅した。



 ◇◇◇◇◇



 少し遠くの方で気配を断ち、戦闘を見守っていたヴォルフは、胸を撫で下ろす。


 囲まれているのを見た時は、さすがに加勢をしなければならないかと思った。

 だが、お互いの長所がうまくかみ合い、窮地を脱した。

 リックが盾役になり、アローラが援護。ベードキアがとどめをさす。

 案外バランスが取れたパーティなのかもしれない。

 炎獣討伐に限ったことだが……。


 それにしても驚いたのはアローラだった。


 おそらく彼女の職業は【聖歌手(ホーリー・ソング)】。

 歌の力によって仲間を援護したり、あるいは魔獣に攻撃を加えることが出来る職業だ。


 誰でもなれるわけではなく、声に魔力が籠もる体質ではないと難しい。


 なり手が少ない職業ではあるが、単に不人気というのもある。

 歌で発動するよりは、魔法やスキルを使う方がタイムラグは少ない。

 効果こそ魔法に比べて強いが、歌の種類も限られているため、汎用性も低い。


 アローラはその不利を、胸に付けた魔鉱石によって歌の振幅を増大させ、効果効率を上げることによって、クリアしていた。

 可愛い顔をしているが、場数も積んでいるのだろう。

 フォローの決断とタイミングも良かった。


 もし歌がなければ、全滅していたかもしれない。


「人のことよりも、こっちの方を気にした方がいいにゃ」


 ミケはたしなめる。

 ヴォルフはゆっくりと振り向いた。


 眼前にいたのは、炎獣たちだ。

 ヴォルフとミケを取り囲み、踊るように近付いてくる。


 まだ洞窟に戻ってきていなかった別の群だろう。

 どうやらこっちが炎獣の本隊らしい。

 アローラたちを取り囲んだ魔獣よりも、数が多い。


「大丈夫か?」


「任せておけ。秘策があるといったろ?」


 すると、ヴォルフがやったことといえば、柄に手をかけることだった。


 炎獣は他の魔獣とは違って、魔力の塊だ。

 その性質は聖樹の森にいた幽霊系と似ている。

 魔法付与のない剣で切れるはずもなかった。


「まさか……。嬢ちゃんの強化魔法に期待してるんじゃ」


「まあ、見てろ」


 おそらくレミニアならなんらかの対策を考えているかもしれない。

 そもそも熱い洞窟に入ってから、ヴォルフは涼しげな顔をしていた。

 娘が施した炎熱耐性の強化によって守られているからだ。


 だが、攻撃となるとそうもいかない。

 聖樹の森の時のように強力な聖属性耐性で葬れるほど甘い相手ではなかった。


 ヴォルフは身を低くする。

【居合い】の構えを取った。

 近付いてくる炎獣との距離を測り、やがて剣を抜き放つ。


【居合い】!!


 剣線が閃く!

 大きく横に薙いだ刃の線は炎獣を真っ二つにする。

 それでは消滅しない。


 効果なし。


 そう思われた時、それは起こった。


「ひぃぃいぃいいいいいい!」


 炎獣たちは悲鳴を上げる。

 瞬間、消し飛んでいた。


 斬った後、半瞬遅れて炎獣が消滅したのだ。


 不思議な出来事に、【雷王(エレギル)】ミケは目を丸くする。


 しかし、その正体をすでに見抜いていた。


「剣圧だけで、炎獣を消し飛ばしやがった!」


 相棒の解答を聞いて、ヴォルフはにやりと笑う。

 再び納剣した後、2撃目の【居合い】を放った。

 また消し飛ばされる。

 突風に煽られた時の山火事のように炎が消滅していった。


 さらに3、4撃目と放つ。

 気が付けば、炎獣は全滅していた。


「すげぇ……」


 思わず声が漏れる。

 主人の化け物っぷりは、何度も拝見してる。

 だが、炎獣を剣圧と風圧だけで消し飛ばすとは思わなかった。


 いとも簡単にやっているが、決して容易ではない。


 そもそも【居合い】の際、極力空気の抵抗を抑えるため、風圧は巻き起こりにくいはずだ。


 が、ヴォルフの【居合い】はあまりにも速すぎる。

 そのため瞬間的に発生する真空が広く、元に戻ろうとする空気が殺到して風圧が起こり、結果魔獣の身体を弾くように消し飛ばしていた。


 かの【英雄】ルーハスですら、可能かどうかわからない。


 そもそも剣圧と風圧だけで、炎獣を斬ろうと考えるものなど皆無だろう。


 ヴォルフは事も無げに剣を鞘に納める。

 行こう、と先行するアローラたちの背を追いかけるのだった。


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