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番外編④ おっさん、荒野の決闘

番外編最終回です。

 ここにボブライムの一斉攻撃に出遅れたボブライムがいる。


 あてどなくテリネスの街を彷徨っていると、大きな影が覆った。

 視界は遮られ、闇の中に放り込まれる。

 どうやら籠の中に閉じこめられてしまったらしい。

 内側で暴れてみたが、ビクともしない。


『案外簡単に捕まるんだな』


 その籠の上に乗った幻獣ミケは呟く。

 側に立っていたのは、ジャンの娘シリルだった。


「でしょ? こいつら、前にしか目を向けることが出来ないの。だから、空の上は無防備ってわけ。ただ震動には敏感だから、上からゆっくりと被せば、この通りよ」


 ミケの言葉に、シリルは的確に答える。


 レミニアほどではないにしろ、彼女もまた天才魔導士だった。

 15歳にしてAクラス相当の判定をされており、数々のスキルと魔法を習得している。【動物会話】スキルも、すでに修めていた。


『そこまでボブライムに詳しくて、何で父親に教えなかったんだ?』


「パパが素直にいうことをきくと思う?」


『あー(激しく納得)』


「それにパパが一生懸命になっているとこが、素敵じゃない。ボブライムから逃げてるパパの必死の形相……。はあ……。惚れ直しちゃうわぁ」


 しなをつくりながら、シリルは悦に入った表情を浮かべる。

 ミケは籠の上でピクピクと髭を動かした。


『ところでご主人様は大丈夫かにゃ』


「大丈夫じゃない? お互い爆風と爆炎の耐性は強化されているし。それにあなたのご主人様はともかく。私のパパは私だけの正義の味方なのよ。こんな田舎町でフィナーレなんてことにはならないわ」


『そ、そんなもんにゃ?』


 ヴォルフの娘レミニアを思い出しながら、ミケはよく似ているかもと思うのだった。



 ◇◇◇◇◇



 テリネスの外で巻き起こった爆煙は、次第に収まりつつあった。


 風が黒煙を吹き飛ばし、火も消えていく。

 霞がかった爆心地の中心に、人影が見えた。

 しっかりと2本の足で立ち、向かいあっている。

 さらに充満した闘気は、周囲の煙を払い切った。


 現れたのは2人のおっさん。


 ヴォルフ・ミッドレスとジャン・ワインアープだった。


 ヴォルフは切れた鞘紐を、ジャンは首に巻いた赤いスカーフをなびかせている。

 夕日を横目に、2人は対峙した。


「くそッ! ボブライムがすべて吹っ飛んじまったじゃねぇか」


「シット! すべてお前のせいだ!」


「はあ!? お前だろ! お前があの時、足をくじいてなければなあ」


「もう我慢ならん!」


 ジャンは背中に背負った砲牛を取り出す。

 砲弾を込め、正対する男へと照準を向けた。


 ヴォルフもまた反応する。

 今一度【カムイ】を納めた。

 腰を落とし、やや前屈みになりながら、柄に手をかける。

 【居合い(いつもの)】の構えだ。


「どうやらお前とはこうなる運命だったようだな」


「どちらの正義が正しいか。ここで決着をつけてやる!」


 場の空気が張りつめていく。

 辺りは水を打ったかのように静かだ。

 なのに、おっさんたちから立ちこめる闘気は煮え湯のように熱かった。


 開戦の口火は前触れもなくやってくる。


 始めに仕掛けたのは、ジャンだった。

 砲身に付いた牛角のような部分が光る。

 瞬間、砲弾が飛び出した。


 ヴォルフは照準先を見て、かわした。


 娘によって強化された視力。

 さらには敏捷性。

 例え音速の砲弾だろうともなんなく回避が出来る。


 チャンスだ。


 ヴォルフは飛び出した。

 砲牛の弱点は、何といっても砲弾を砲身に込めなければいけないことだ。

 威力こそ第5階梯魔法を凌駕する。

 が、連射性能は明らかに通常の魔導士よりも劣る。

 距離を詰め、砲身をぶった切れば、勝負ありだ。


 だが――。


 ドォン!!


 さらに砲弾が降ってくる。

 ヴォルフは慌てて横へと回避した。

 無理矢理身体を捻ったため、体勢が不十分になる。

 そこに砲牛が火を吹いた。

 吹き飛ばされる。

 爆発の瞬間飛んだためダメージは少ない。

 【時限回復(リルミット・ヒール)】によって回復しながら、ヴォルフは地上に降り立つ。

 一旦距離を取った。


「連射できるのか?」


「そうだ。私の【娘に捧げる愛の砲牛(サーナバ・ガン)】は、普通の砲牛とは違う。私と常にともにあり、時にお茶を飲み、時に愛を語らう」


「砲牛が語るか!!」


「つまりは娘の愛の結晶ということだ!」


 よくわからないが、ジャンの娘が作ったものらしい。

 通常単発であるはずの砲牛が、どうして連射ができるのかは謎のままだが、ともかく想定して戦うしかない。


 ヴォルフは立ち上がる。

 再び柄に手をかけ、地を蹴った。


 馬鹿正直に真っ直ぐ向かってくる剣士に、砲牛使い(カウボーイ)はギリギリまで引きつける。

 にぃ、と奥歯を噛むと、引き金を引いた。


 どぅずん!!


 重音が鳴り響いた。

 砲弾がヴォルフの眉間に向かって吸い込まれていく。

 強化された視覚は、はっきりと砲弾を捉えていた。


 集中する。

 世界がスローになるのを感じた。

 色さえ失い、すべてセピアに染まり、ついは己と砲弾だけに収束する。

 自分だけが見える世界。

 ヴォルフは腰を切り、そして抜刀した。


 【居合い】!


 光が閃く。

 瞬間、砲弾は2つに割れた。

 残心のままのヴォルフの脇をかすめ、背後に着弾する。


「な――!」


 さしものジャンも呻いた。

 まさか砲弾を刀で斬るとは思ってもみなかった。


 巻き起こった爆煙に乗り、【竜殺し】【100人斬り】と恐れられた男は走った。


 ジャンとの距離を一気に潰す。

 【カムイ】を鞘に納めると、一瞬のタメの後再び抜き放った。


 再び光刃が閃く。


 狙いは砲牛。

 その着火点となる2本の角だ。


 「こぉん」と音が響いた。

 角が切り裂かれ、地面に突き刺さる。

 砲牛は壊れた。

 こうなれば砲牛使い(カウボーイ)など恐るるに足りない。


 ヴォルフはさらに踏み出す。


 勝った、と珍しく油断した。


 ジュッ!


 炎の光線が放たれる。

 ヴォルフの腕を貫いた。


 魔法……!

 忘れていた。

 砲牛使い(カウボーイ)は使う獲物の性質上、魔導士の亜種だ。

 砲牛自体も杖の延長上で扱われる。


 第3階梯の炎属性魔法だが、一応魔導士でもあるらしい。


 傷はすぐに【時限回復】で回復したが、持っていた【カムイ】を取り落とす。

 握り直そうとした瞬間、ジャンが目の前に躍り出た。


 大振りの鉤突きを目で捉える。

 反射的に頭を下げて回避した。

 だが、2撃目がすかさずやってくる。

 下がったヴォルフの顎を打ち抜いた。


 頭が打ち上がる。

 ヴォルフの意識が切れた。

 ほんの一瞬、川の向こうに翼を生やしたレミニアの姿が見える。


(はあ……。やっぱりレミニアは最高だ!)


 幸運かな。

 その恍惚感がヴォルフの意識を現実へと引き戻した。

 前を見る。ジャンの拳が大きく映っていた。

 慌てて顔を横に振る。

 ジャンの拳に沿うように、ヴォルフは近付いた。


 必殺の脇腹打ちをお見舞いする。


「おう……」


 胃液が飛び散る。

 たまらずジャンの膝が崩れた。

 ちょうど肩の辺りにきた長い鼻を、遠慮なく打ち抜く。


 直突き!


 ジャンは吹っ飛ぶ。

 だが、かろうじて堪えた。

 青い瞳には闘気が漲っている。

 そして、傷ついた鼻も、シリルに施された【時限回復】で治療された。


 半ば驚きつつ、ヴォルフは距離を詰める。

 ジャンも走った。

 拳を突き合わす。

 防御なし。

 ひたすら攻撃を繰り返した。

 回復は娘の愛(リルミット・ヒール)に任せ、超攻撃無酸素運動を繰り出す。

 回復しては攻撃し、攻撃しては回復する。


 このおっさん2人にしか出来ない肉弾戦だった。


 だが、いくら娘に強化されている男たちとて、限界はやってくる。


 いい年したおっさんなのだ。

 さすがに寄る年波には勝てない。

 それでも、若い冒険者の10倍ぐらいは死闘を演じてみせた。


「ふわ!」


 息が切れて、気勢も上げられない。

 しかし、執念に勝ったのはヴォルフだった。

 意地の一発を振るう。

 それは「ポコ」と間抜けな音を立て、ジャンの鼻を貫いた。


 まるで猫パンチのような柔らかな拳打。

 ジャンはよろける。

 1歩、2歩と後ろに下がった。


 すると、そこに生き残っていたボブライムが通りかかる。


 ジャンは何の意識もなく、それを踏んづけた。



 じゅどおおおおおおおぉぉぉぉぉんんんん!!



 爆煙が上がる。

 ジャンは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 勝負あったかと思われたが、煙の向こうに映ったシルエットが蠢く。


 胸の前に下がっていた赤いスカーフを指で弾き、後ろに回した。


 ヴォルフは再度構える。

 一方、近寄ってくるジャンに殺気はない。

 煙の中から表れた表情は、どことなくすっきりとしていた。


「私の負けだ」


「……は?」


「凄いパンチだった。あんな爆発的な娘への愛は初めてだった」


「はあ……」


「お前は父親の中の父親だ。私は父親にはなりきれなかった」


 ジャンは立ち止まる。

 被っていた帽子を脱いだ。

 祈るように胸の前に置く。


「今日限りで父親を引退しよう。これが本当の脱帽だ」


 帽子をヴォルフの頭に乗せた。

 愛馬を呼び、鐙に足をかけて乗馬する。

 歩き始めた男の後ろ姿を見ながら、ヴォルフは慌てて声をかけた。


「ちょ! 待て! 引退って。娘はどうするんだ?」


「そうよ、パパ!!」


 振り返ると、シリルが立っていた。

 おまけみたいにミケもちょこんと座っている。

 茶番めいた親子の会話に、興味なさげな様子で欠伸をかみ殺していた。


 一方、シリルは眼に涙を溜めている。


「私のパパは、パパだけなんだから!」


「おお……。シリル。私の娘よ」


 ジャンは馬から飛び降りる。

 走ってきた娘を受け止め、ひしと抱きしめた。


「どこにもいっちゃ駄目だよ」


「すまない。もう絶対に離さないからな」


 ラブラブっぷりを見せつける。


 親子の深い愛情に、ヴォルフとミケは呆気に取られていた。


 夕日を背景にした長い長い抱擁は終わりを告げる。

 呆然とする2人の観衆へと振り返った。


「前言撤回だ。まだ私はシリルの父親でいた方がいいらしい」


 1度はヴォルフの頭に乗せた帽子を、また自分の頭に戻した。


「また会おう、名もなき冒険者よ」


「またね。猫ちゃん」


 ワインアープ親子は仲良く馬に乗り込むと、夕日に向かって走り出した。


 広い平原に残されたヴォルフとミケは、ただただ背中を見送るしかない。


 やがてミケは主人に問うた。


「どうする、ご主人様」


「……とりあえず」



 酒でも飲むか……。


正直に告白すると、砲弾を斬るヴォルフを書いてみたいだけでしたw

お馬鹿な話を書きすぎたので、次回から真面目な話を書こうと思います。


次回から本編新章になります。

章タイトルは決まってないですが、明日も更新するのでお楽しみに!


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