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第6話 姫騎士の告白

前日の5話の最後をちょっとだけ修正しました。

物語が大きく変わるわけではないのですが、レミニアの凄さを強調するように書き直しましたので、

気になる方は是非チェックして下さい。

 ヴォルフは汗を拭った。

 持ってきた麻袋には、たくさんの薬草が入っている。

 『リガン草』という野草で、青葉は傷口に貼れば炎症を防ぎ、煎じて飲めば胃薬にもなる。他の薬草との相性もいいため、薬学系のスキルを持つ薬師には大人気だ。


 ストラバールに広く繁茂する薬草だが、周辺では村の裏山が一番だった。

 春期にしか採れないため今が収穫の最盛期を迎えている。


「とりあえず、今日はこれぐらいにするか」


 いつもは麻袋一杯まで採らない。

 野草とはいえ、袋一杯にすると結構な重量だ。

 その状態で山を下りたくはない。


 だが、今はお金がいる。

 なるべく早く行商人にお金を工面して渡してやりたい。

 もらったからには、出来れば早く鋼の剣を使ってやりたかった。


 慎重に山を下りる。

 下山した時には、空が赤く滲んでいた。


「ん……?」


 村の方が騒がしい。

 誰か来ているようだ。

 行商人が来ているのだろうかと思ったが、どうも様子がおかしい。


 3頭の馬が見える。

 それぞれ人が騎乗していた。

 1人は以前ヴォルフが会った魔導士だ。

 他2人は知らない。

 うち1人は女性――しかも、絶世の美女だった。

 レミニアもたいそう美しい少女だが、また違った魅力がある。


 魔導士がヴォルフを見つけた。

 指をさすと、3人は馬を駆って近づいてくる。


 ちょっと嫌な予感がした。が、まだ銅の剣には手をかけない。

 魔導士が復讐に来たわけではなさそうだ。


「ヴォルフ・ミッドレスとはそなたのことか」


 芯のしっかりした声が頭上から降ってくる。

 手綱で馬を操りながら尋ねたのは、例の美女だった。

 近くに寄るとなお美しい。


 きっちりと真ん中で分けられた金髪。

 肌は真っ白で、人間離れしている。


 それもそのはず美女は、エルフだった。


 おそらく純粋ではないだろう。

 耳が普通のエルフよりも小さく、張り出していない。

 おそらく人族とのハーフだろう。


 線は細く、しかし引き締まったいい筋肉をしている。

 よほど剣を振るっているのだろう。

 馬背を絞める足腰もがっしりとしていた。


 ただどうしても目線が行くのは、胸だ。

 たわわに実った南方瓜を思わせるようにデカい。

 付け加えるなら、美女は薄着だった。

 最低限の防具と、最低限の衣服。

 乳房がせめぎ合うようにして谷間を作り、腰巻きから伸びる太股もむちむちしていた。


「ごく……」


 思わず息を呑んでしまう。


「どうした? 答えられよ」


「す、すまない。むねが――」


「は? むね?」


「いや、ななななんでもない」


 もう枯れる前とはいえ、ヴォルフもまだまだ男だった。

 改まり、自己紹介をする。


「如何にも……。ヴォルフ・ミッドレスだが」


「そうか」


 美女は下馬する。

 同時に後ろの魔導士ともう1人の騎士も、馬から下りた。

 顔を一層引き締め、ヴォルフに近づいてくる。


 やがて頭を垂れた。


「部下がご迷惑をおかけした。この通りだ。申し訳ない」


 謝罪の言葉を口にした。

 後ろの2人も頭を下げている。

 見るからに高貴な組み合わせ。

 それが、元Dクラスの平凡な冒険者に頭の裏を見せていた。


「ちょちょちょ……。やめてくれ。あの件はもう終わったんだ。そこの魔導士のおかげで結界も直ったし」


「いや、私の監督責任もある。謝罪させてくれ」


 ひたすら低身低頭を貫く。

 このまま何もいわなければ、死んで詫びると言い出しかねない。


「わかった。謝罪を受け入れる。だから、頭を上げてくれ」


 ようやく美女の頭が上がる。

 ヴォルフは息を吐き、安堵した。


「で? あんた、名前は?」


「申し遅れた。私は『葵の蜻蛉(ブルー・ブライ)』の団長をしているアンリ・ローグ・リファラスと申します」


「リファラス……? ――って、まさかリファラス大公家の親戚か何か?」


「その通りです」


 前に出たのは、3人目の最後。

 騎士だった。

 薄い草色の癖毛に、狐のように細い目。

 若いが傑物だろう。

 致命部分だけを保護する鉄の軽装には、全く傷が入っていない。


「アンリ様は、現レクセニル王国国王ムラド様の義兄ヘイリル様の長子に当たる方です」


「それって、お姫様ということか――いや、ことですか?」


 慌てて、ヴォルフは膝をついた。

 知らなかったとはいえ、まさか大公家の息女に頭を下げさせるなんて。

 まかり間違えば、こちらが罪に問われかねない。


 いや、それよりも不可思議だ。

 大公家の娘がなんでこんな辺境にいるのか。

 それも戦装束を着て……。


「畏まらなくても結構ですよ。……それよりも気になるのですが、ミッドレスというのは、どこか聞いたことがあるような。リーマット、覚えはないか?」


「確か……。今度、【大勇者(レジェンド)】の称号をもらった研究員の姓がミッドレスだったかと。この村の出身だったはずです」


 リーマットという名の若い騎士は、顎に手を当てながら答えた。

 それを聞いて、アンリは目を輝かせる。


「では、勇者様のお父上ということか」


「はい。レミニア・ミッドレスはおれ――いや、私の娘になります」


「そうでしたか。勇者様のお父上。どおりでダラスがかなわないわけだ」


 後ろの魔導士を見つめる。

 ダラスという名前らしい。今、初めて知った。


 すると、アンリは平伏するヴォルフの手を取る。

 より一層、瞳を輝かせた。


「是非、一手ご教授願いたい!」



 ◇◇◇◇◇



 どうしてこうなった……。


 ヴォルフの手には木の棒が握られている。

 檜で作られた訓練用のものだ。

 いつも持ち歩いているものらしい。


 アンリが率いる『葵の蜻蛉(ブルー・ブライ)』は、辺境自警団なのだという。


 ニカラス村の周囲には、村々が点在している。

 ここと同じく、ほとんど男手は出稼ぎにいっていて、老人や女子供ばかりだ。

 そういう人間が街までいって、ギルドに依頼するのは難しい。


 そこでアンリは自分で自警団を立ち上げ、この周辺を周り、害になる魔獣を倒しているらしい。例のベイウルフもその1匹だ。


「遠慮は無用だぞ、ヴォルフ殿。私をうち負かす気持ちで、打ち込んできてくれ」


(うち負かすといわれても……)


 自警団の団長といえど、相手はお姫様だ。

 本気で打ち込むのは気が引ける。


(適当に流して、一本入れさせるか)


 はあ、と息を吐いた。


 審判に入ったのは、ダラスだった。

 正当にジャッジするのよ、とアンリから念を押されると、耳をピクピクと動かした。向こうもやりにくそうにしている。


「はじめ!」


 合図が鳴る。

 お互い隙を窺いながら、ゆっくりと円を描いていく。

 猪武者かと思えば、意外と慎重だ。


(これは俺が仕掛けなきゃならんかな)


 棒に握る力を込める。


 その気を捕らえられた。


 アンリは間合いを詰める。

 速い――。

 一気に左側面を制圧される。

 横に薙いだ。


 カンッ!


 気持ちよい音が鳴る。

 なんとか初撃を受けたが、手がビリビリと痺れた。

 速度、重さ――申し分ない。

 遊びではない。本物の騎士の打ち込みだ。


 アンリは足を止め、連続に打ち込む。

 まだ体勢が整わない相手を押し込んだ。


 激しい打ち込みに対して、ヴォルフは防戦一方だ。


(この子、強いぞ!!)


「ヴォルフ殿、言い忘れていましたが、姫はBクラスの冒険者です。女と侮っては痛い目を見ますよ」


 リーマットは今さら忠告する。

 早く言ってくれと、抗議したいがもはやそれどころではない。

 上のクラスであることは、数合でわかっていた。

 むしろ得心がいって、ヴォルフの頭はスッキリする。


 Dクラスの元冒険者もただ見てるわけではなかった。

 呼吸を整え、同時に相手の呼吸を見極める。


 そこだ――。


 連続する剣撃の隙間を狙う。

 アンリの手首を狙った。

 が、姫騎士は胸の方に手を引く。


 かわした――。


(誘い出された……!?)


 力技で打ち込んでいたわけではない。

 連撃はこちらの隙を作る布石。

 狙いは、ヴォルフの攻撃に転じる瞬間だった。


 アンリは側面を突く。

 体勢を整える暇は十分にあった。


「覚悟――!」


 勝負あり。

 その時、アンリも審判のダラスも思った。



 ◇◇◇◇◇



 いつだったか。

 まだレミニアが小さい時だ。

 ヴォルフは娘に請われ、剣を教えた事があった。

 飲み込みのいいレミニアは、次々とヴォルフの動きを吸収してしまった。

 幼子に、危なく1本を許してしまうこともあった。


 そんな時、レミニアは決まってこういうのだ。


「パパ、手を抜いたでしょ」


「そんなことはないよ。レミニアの実力さ」


「ダメ! パパは誰にも負けちゃダメなの」


「そんなこといってもなあ」


 ヴォルフは苦笑する。

 しかし、娘は本気でいっていることを理解はしていた。


「いーい。パパはわたしの勇者なんだから。誰にも負けちゃダメだよ」


 すると、何故かレミニアは泣き出した。

 ヴォルフは娘の赤い髪を撫でる。優しく。そっとだ。

 決まってそんな時、レミニアは抱っこを要求してくる。

 赤子の時と比べると随分重くなった娘は、相変わらず泣き虫だった。


「わかったよ。パパは負けない」


「うん。頑張って、パパ」


 涙を滲ませながら、幼き頃の【大勇者(レジェンド)】は笑うのだった。



 ◇◇◇◇◇



 キィンン!


 硬質な金属同士を打ち鳴らしたような音が響く。

 背を向け、肩越しにアンリの棒をヴォルフは受け止めていた。

 当然、体勢は充分ではない。

 手首の力だけで防いでいるような形だ。


 一同、言葉を失う。

 驚いていなかったのは、ヴォルフだけだ。


「おおおおおおおおおおおおお!」


 気勢を吐く。

 力任せに棒を弾いた。

 一瞬突風が吹いたかのように、姫騎士の金髪が舞い上がる。


 檜の棒がくるくると空中で回転した。

 アンリの背後にある地面に突き刺さる。


「そ、それまで!」


 ダラスが宣言する。

 アンリが振り返り、棒をとって応戦することも出来た。

 しかし、出鱈目なヴォルフの動きと膂力の前に、声を出さずにはいられなかった。


 アンリは放心していた。

 勝負に負けたことよりも、相手の能力に驚いたのだろう。


 一方、ヴォルフは大きく息を吐く。

 檜の棒を地面に突き刺した。


「お怪我はありませんか、アンリ姫」


 ヴォルフが声をかけるも反応なし。

 予想以上にショックだったらしい。

 何か良い言葉を掛けようとした瞬間、アンリは顔を上げた。


「ヴォルフ殿……。いや、ヴォルフ()――」


「な、なんですか……」


「私と――」



 結婚してください。



おかげさまで日間総合48位まで来ました。

ブクマ・評価いただいた方ありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします。


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