表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/374

第53話 おっさん、必殺技が不発に終わる

前話にて非常に不適切な表現がございました。

深く陳謝し、今後の戒めとして、あの話はそのままにしておこうと思いますw


2018/03/17 9:28現在

間違って、1話先行しておりました。

現在、正しい話に戻っております。

「いや! ご、誤解なんだ。別に俺はお前に何か……その……いたずら的なことは、何も考えていなくて……」


 下着を履き、身なりを整えたヴォルフは慌てて弁解した。


 唐突に下着を3日ほど履きかえていないことに気付いたこと。

 経緯はともかく、部屋に異性を連れ込んでしまった。

 ならば最低限身なりは整えておくべきだという結論にいたったこと。

 ところが、タイミング悪くセラネが目を覚まし、慌てて椅子の背もたれに下半身を隠したこと。


 聞く方にとってはどうでもいい勘違いだ。

 しかし、ヴォルフは浮気がばれた男のようにしどろもどろになりながら、言い訳を並べた。


 セラネは興味なさげに顔を背けていた。

 手足の拘束から抜け出そうとするも、かなり頑丈に結ばれている。

 驚いたのは声だ。

 一定以上の音量が出せないようになっていた。

 おそらく薬か何かだろう。


 このままでは大声を出して、騒ぎを引き出すこともできない。

 逆に、尋問には答えることが出来てしまう。


 セラネを拘束した手際。

 尋問のために作ったとしか思えない薬。


 とぼけた顔をしているが、【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】といわれる男は、侮れない存在だった。


 一通り言い訳を繰り返した後、ヴォルフは咳を払う。

 気を取り直し、改めて背もたれに身体を預けると、尋ねた。


「なあ……。セラネ、お前。王の寝所で何をしようとしていたんだ?」


 ヴォルフは詰問する。

 むろん、セラネは口を割らない。

 顔を背けたままだ。


 その後も、ヴォルフは独り言のように質問を繰り返した。

 彼女が持つ剣技。独特の歩法。

 魔法の制御方法。

 それらはどこで習ったのか。

 それとも独自に習得したものなのか。


 騎士団に来る前を何をしていたのか。

 獣人であることを隠していたことも尋ねられた。


 セラネは沈黙で返す。

 野生動物のように息を潜めていた。


「仕方ない……。じゃあ、お前と親しいマノルフさんに訊くか」


「マノルフ様は関係ない!」


 唐突にセラネは声を張り上げた。


 ヴォルフの薬によって、その音量はセーブされている。

 もし効果がなければ、悲鳴じみたものになっていただろう。


 彼女の態度は豹変していた。

 表情に怒りが滲み、小動物が威嚇するように歯をむき出す。


 一旦腰を上げたヴォルフは、また椅子に座り直した。


「そうか……」


 セラネは我に返った。

 慌てて顔をそらす。

 短めの髪からはみ出た耳は真っ赤になっていた。


「あなたは……。あなたは何をやっているんですか?」


「何をって、お前に質問しているんだが……」


「だったら、殴るなり蹴るなりして、拷問すればいいじゃないですか!?」


「拷問か……」


 ヴォルフはゆらりと立ち上がった。

 キュッとセラネは身を固まらせる。

 大柄な男の影が、小柄の少女に覆い被さった。

 ベッドに上がり、下腹部の辺りに尻を落とすと、馬乗りになる。

 そして口角を歪めた。


 きた……。


 同時に下劣だと思った。

 ヴォルフという男を理解する。

 きっと殴るよりも蹴るよりも、女の魂を削ることに快感を得る人間なのだと。

 温厚な方だと思っていたが、どこにでもいる低俗な野獣だったらしい。


(どうか……。聖天よ。私を導きください)


 心の中で祝詞を唱える。


 しかし、ヴォルフは服をぬぐわけでもなく、履いたばかりの真新しい下着をさげることもない。酒臭い口臭を、セラネの口に移してくるわけでもなかった。


 ただそっとセラネの脇の辺りを触る。

 すると……。



「コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ」



 まるで鋼琴(ベンガル)の鍵盤を叩くように、くすぐり始めた。


「ふふふ……。どうだ、セラネ。俺のテクニックは! どうだ。笑いすぎて、笑い死にしそうだろう。やめてほしかったら、事情を話すんだ!」


 ヴォルフは熱く叫んだ。

 だが、当の本人は。


「何をやっているんですか?」


 真顔だった。

 ヴォルフは手を止める。

 きょとんとした表情を浮かべ、首を傾げた。


「が、我慢しなくていいんだぞ」


「我慢なんてしてません。私、そういうの全然強いんで」


「な――――ッ!! そんな馬鹿な! うちのレミニアはこれをすると、すぐにどんな隠し事でも喋ったんだぞ!!」


 あの【大勇者】すら屈したヴォルフのくすぐり攻撃に、セラネは全くの無表情(むきず)だった。

 自信があった【剣狼】はがっくりと項垂れる。

 どうやら、くすぐる力は強化されていなかったらしい。

 きっとレミニアが嫌がるからだろう。


「あなたは何をしたいんですか? ふざけてるぐらいなら、私を憲兵に差し出して、縛り首でもなんでもすればいい!!」


 またしても、セラネは小さく叫んだ(ヽヽヽヽヽヽ)


 ヴォルフは寝具から降りた。

 椅子に座らず、側に立つ。

 【剣狼】の態度は常に穏やかだった。


「そんなことできるわけないだろ? お前は騎士団の一員で、仲間なんだから」


「な、仲間……?」


「お前はまだ何もしていない。容疑がかかっているだけだ。だったら、仲間として、お前を信じるのは当たり前だろう」


「わ、私は……まだここに来て、まだ日も浅い新米の騎士なんですよ」


「付き合いの長さなんて関係ない。俺とお前は、上司で部下だ。理由なんてそれで十分すぎる」



 たとえ、世界と戦うことになっても、俺はお前を信じるぞ。



 セラネの心は真っ白になった。

 相手が何を考えているか。

 そして自分が何を考えていいのかわからなくなる。


 なんと愚かな男なのだろう。


 最初出会った時、特に興味がなかった。

 初めて対峙した時、底知れぬ強さにおののいた。

 とぼけた男だと思った。下劣な男だとも思った。


 なのに、今――自分はこの男から目を離せないでいた。


「なあ……。セラネ。もう1度、お願いする。お前のことを聞かせてくれないか?」


 あ、とセラネが口を開きかけた瞬間、ヴォルフの部屋の扉が開く。


 現れたのは、司祭服を纏った優男だった。


「マノルフ大司祭……」


 ヴォルフは振り返る。

 ラムニラ教の司祭は、先が丸い祭靴を響かせ、部屋に踏み込んだ。

 鋭い視線を放つ。

 周りを確認した後、ベッドに拘束されたセラネを見つめた。


 やがて、出会った時と同じ温和な笑みを浮かべる。


「非礼を詫びますよ、ヴォルフ殿。ただ、これは少々看過できない光景ですね」


「こ、これは……」


「女性を部屋に連れ込むなとはいいません。しかし、男女の契りは、手足を拘束して行わなければならないものではないはずです」


「それは、ごもっともですが――いえ。そうではなくて……」


「セラネは我らが同志。申し訳ないですが、あなたに預けておけません。彼女の拘束を解き、落ち着いた時にあなたに弁解の機会を与えましょう」


 マノルフはさらに踏み込む。

 ベッドにいるセラネの拘束を外そうとしたが、それをヴォルフが阻んだ。


「待って下さい。彼女はラムニラ教の敬虔な信者であると同時に、我々騎士団の一員で――――」


「そうです。そして、その上司であるあなたが、彼女を部屋に連れ込み、拘束した。経緯はどうあれ、騎士団の客将が一女性団員を拘束していることは事実です。あまりこういうことはいいたくありませんが、あなたの人格を疑わざる得ません」


 さしものヴォルフも、次の言葉が出てこなかった。


 その脇を抜け、大司祭はセラネの拘束を解こうとする。


「マノルフ様……」


「もう大丈夫ですよ、セラネ。一緒に帰りましょう」


 優しげな声をかける。

 セラネはホッと息を吐いた。


 なかなか縄が解けないとみるや、マノルフは人を呼んだ。

 白銀の武装を纏った騎士が入ってくる。

 鎧にはラムニラ教の象徴が描かれていた。


 ヴォルフを一瞥し、威嚇する。

 漂ってくる圧力に、すぐに手強い相手だと気付いた。


 男はナイフを出して縄を解く。

 マノルフは少女の肩を抱き、部屋を後にしようとした。


 部下がすれ違う瞬間、ヴォルフは拳を強く握る。


「セラネ……。心配するな。きっとお前を助けてやる」


 セラネは顔を上げる。

 特徴的な獣人の瞳がわずかに潤んでいた。


 その時の表情を、ヴォルフは瞼の裏に焼き留めるのだった。


おっさん、それ普通にセクハラですよ(白目)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス10巻 11月14日発売!
90万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large





今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


好評発売中!Webから大幅に改稿しました。
↓※タイトルをクリックすると、アース・スター ルナの公式ページに飛ぶことが出来ます↓
『王宮錬金術師の私は、隣国の王子に拾われる ~調理魔導具でもふもふおいしい時短レシピ~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




アラフォー冒険者、伝説になる 書籍版も好評発売中!
シリーズ最クライマックス【伝説】vs【勇者】の詳細はこちらをクリック


DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



ツギクルバナー

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ