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第5話 最強勇者の娘

ちょっと長めです。

 Aクラス――超越者(コマンドマスター)


 年間100件以上のクエストの消化。Aクラスクエスト20件、Sクラスクエスト3回以上の参加。さらには高難度級(Lv6)の魔法及びスキルを2つ以上、超級(Lv5)の魔法およびスキルが10個以上の保有が求められる。


 高難度級は魔法適性があるベテランのエルフ魔導士でも習得が難しいといわれており、それを2つ以上ともなれば、途方もない努力と少しの才能が必要になる。


 ハシリーも、ツェヘスも、ギルドが発行するクエストに参加していないため、Aクラス相当(ヽヽ)とされているが、保有している魔法とスキルは十分条件を満たしていた。


 レミニアはそのさらにさらに上をいく【大勇者(レジェンド)】だ。


 災害クラス――Lv9の魔法およびスキルの保有。天界級(Lv8)の魔法およびスキルを10個以上の保有を満たしているのは、いまだレミニアと他1人しかいない。

 さらに神域(サングリア)と呼ばれた神話級(Lv10)を扱えるのは、レミニアにおいて他にいなかった。


「つまり、ツェヘス閣下は面白くないんですよ。軍を率い、猛将と呼ばれる自分が、若冠15歳の娘より力は下だといわれてるんです。プライドを傷つけたのは、想像にあまりあります」


 ハシリーは部屋の中を右往左往しながら、講釈を垂れる。

 横でレミニアはドレスを脱ぎ、身体を絞め続けたコルセットをソファに叩きつけた。

 腰の辺りを見ると、肋の下辺りに痣が出来ている。


(2度とドレスなんて絶対に着ないわ!)


 心に誓った。


「聞いてますか、レミニア」


「聞いてるわよ。でも、将軍のプライドとか別よ。あの男はパパを詐欺師呼ばわりした。ぎったんぎったんにしてやらないと気が済まないわ」


「(日常会話でぎったんぎったんって言葉、初めて聞きました……)」


「何か言った?」


「いえ。別に……。ところで勝算はあるんですか。いくらあなたの方がクラスは上でも、ツェヘス将軍は今でも現役バリバリです。あなたが産まれた頃には、もう戦場に出て戦ってますから。戦闘経験は圧倒的に向こうの方が上ですよ」


「問題ないんじゃない」


 レミニアはあっけらかんとしていた。

 着慣れた私服に着替えはじめる。どうやら洗ってくれたらしい。ブラウスはパリッと糊が利いていた。袖を通すと、同じものとは思えないほど着心地がいい。


 何気ないことに感動する少女を見て、ハシリーは頭を抱える。


「まあ……。あなたの実力なら、魔法で1発なんでしょうけど」


「そんなことしないわよ。フェアじゃないし。魔法は使わないわ」


「はっ!!?」


 ハシリーは慌てた。

 当然だ。先ほどもいったが、経験の差は歴然としている。

 レミニアが勝つには得意の魔法で押し切るしかない。

 フェア精神に乗っ取るなら、魔法を使わないことの方がフェアではない。


「正確には攻撃魔法と、Lv6以上の魔法は使わないわ」


 それでもツェヘスが有利であることに変わりはない。


「それよりもハシリー。教えてほしんだけど」


「今度はなんですか?」


 ハシリーは頭を抱える。

 なんだか頭痛がしてきた。

 勝敗などどうでもいいので、家に帰ってゆっくり眠りたい。


「ツェヘスの得意なことを教えて」



 ◇◇◇◇◇



 ヴォルフは農作業に精を出していた。

 今日はキーナの畑で(かぶ)の収穫を手伝っている。

 今年はまずまずといったところだ。

 拳大ぐらいの蕪は、どこか赤子の顔を思わせた。


 つと遠い空を見つめる。

 側で収穫していたキーナに目撃された。


「レミニアちゃん、都で元気にしてるかねぇ……」


「あの子なら大丈夫です。我が子をこういうのもなんですが、賢い子ですよ。自分の立場を弁えて行動してると思います」


「レミニアちゃんはいつも一生懸命だからね。きっとうまくいってるさ」


 そう。

 レミニアはとても一生懸命だ。

 彼女の強味とは、人一倍賢いことでも、物覚えがいいことでもない。


 努力家であることだ。


 それが類い希な才能と結びつき、神の領域にまで到達した。

 【大勇者(レジェンド)】に選ばれたのも、当然の帰結だった。


「(レミニア、がんばれよ)」


 心の声を遙か遠くにいる娘に飛ばした。



 ◇◇◇◇◇



 レミニアは振り返る。

 少年のような容姿を持つハシリーが、落ち着きのない様子で立っている。


「(パパの声が聞こえたような気がしたけど)」


 周りを見るが、あの大きな背中はどこにも見当たらない。


「どうしました?」


「なんでもないわ。行きましょう」


 音楽隊の楽器が鳴り響く。

 レミニアは前に進んだ。

 黄緑色の芝生が広がる王宮の中庭には、家臣や貴族が取り囲むようにして、即席の闘技場が出来上がっていた。


 中心に、グラーフ・ツェヘスが立っている。

 得意の槍を持ち、軽装を巻いていた。


「おお……」

「おい。あれ」

「将軍閣下に、接近戦を挑むつもりか?」


 観衆がレミニアを指さす。

 手には、木刀が握られていた。


 ツェヘスは目を細める。


「どういうことだ? 貴様は魔導士だろう。何故、剣を持つ」


「閣下が気に病むことではないでしょう。ご心配なく。これも戦術です」


「こざかしい。あとで本気ではなかった、とつまらん言い訳だけはするなよ」


 鼻息を荒くし、太い腕を組んだ。


 衛兵の発声の後、ムラド王が到着した。

 一段高いテラスにて、御前試合を見守る。

 お互い位置に着く。

 王は手を振った。


「はじめよ」


 タン……。


 地を蹴ったのは、レミニアだった。

 一気に間合いを詰める。

 木刀を持った魔導士を前に。様子見と考えていたツェヘスは、完全に虚を突かれた。すぐに姿勢を変え、レミニアの初撃を受ける。


 少女はすぐに戦法を変える。

 左脇腹に潜り込むと、木刀を突いた。

 これもツェヘスは捌く。

 取って返し、薙ぎ払ったが、すでにレミニアは後方へと退いた後だった。


「ぬぅ……」


 隈取りを塗った眉間に深く皺が刻まれる。


 思ったよりも重い。

 いや、それよりも速い。

 魔法で強化していることは明白だが、魔導士が身体強化したところで、ああも動けない。少なくとも素人の体さばきではなかった。


「小癪な」


 ツェヘスはスイッチを入れ直す。

 こちらから行く、と決めると、槍の穂先を前に突進した。


「(速ッ!)」


 今度、驚いたのはレミニアだった。

 巨体の割に、ツェヘスの動きは速い。

 気がつけば、すぐ前にいた。

 槍が大砲のように打ち出される。


 赤い髪がいくつか切れ、吹き飛ぶ。


 レミニアはかろうじて躱していた。

 前へ出ようとする。

 が、槍の引きが速い。

 まるでジャブのように連撃を打ち出した。

 それをレミニアは的確にうち払い、迎撃する。


「おお……!」


 歓声が上がる。

 Aクラスの将軍と、【大勇者(レジェンド)】になったばかりの若い魔導士。

 一方的と思われた試合は、いつの間にか名勝負に変わっていた。

 ムラド王ですら、革張りの椅子から腰を上げ、食い入るように見つめている。


「がんばれ、レミニア!」


 拳を強く握り、声をあげたのはハシリーだ。

 しかし、その喉が凍てつく。

 ツェヘスが一旦後退したのだ。

 巨躯を出来るだけ低くし、片手を地に載せ、もう片方で槍を強く握り込む。


「レミニア、来ます!!」


 ハシリーが叫んだ瞬間、それはやってきた。

 ツェヘスは弾丸のように飛んでくる。

 一気にレミニアとの間合いを詰めると。カッと黒色の目を輝かせた。



 絶対死連無槍ッッ!!



 高速の3連撃で相手の退路を断ち、その残像が消える前に、最短最速で相手の背後へと回り込み、隠し槍と言われる死撃を突く。

 レベル6に認定されたツェヘスの独自スキルだ。


 4方向からの同時攻撃。

 回避不可と思われた。


「なッッ!!」


 しかし、ツェヘスの槍の先は、レミニアの脇の横を通り抜けていた。

 ギリギリ紙一重。

 先ほどまでコルセットで絞め上げていなかったら、かすり傷ぐらいは負っていたかもしれない。


 両者間合いを取る。

 ツェヘスは動揺を隠せなかった。

 必殺のスキルがかわされたのだ。

 魔導士――しかも小娘に。


 レクセニルの猛将の動揺が収まる前に、地を駆ったのはレミニアだった。


 深く沈み込む。

 一瞬で間合いを詰める。

 木刀の先を前に出し、突きの姿勢を見せる。

 ツェヘスは漠然と防御姿勢を取った。


 瞬間、高速の三段突きが飛んでくる。


「(これは!!)」


 ツェヘスは驚く。

 数瞬硬直するほどに。

 だが、それが命取りだった。

 突きの軌道が目に残るうちに、レミニアの姿が消える。

 気がつけば、背後に立っていた。


 絶対死連無槍!


 躊躇なく、レミニアは隠し槍を放った。

 ツェヘスの巨体は突き飛ばされる。

 柔らかな芝生の上に、顔面から倒れた。


「そこまでだ!!」


 王の声が試合を止める。

 数秒の沈黙は、のちに大歓声へと変わった。

 割れんばかりの拍手の中、王自ら闘技場の中心へとやってくる。

 皆、一斉に傅いた。

 レミニアも同じ姿勢を取る。


「見事だ。レミニア・ミッドレス。これからも余と余の国のため、励むがよい」


「有り難きお言葉。粉骨砕身――レクセニルのために研究に邁進して参ります」


 うむ、とムラド王は大きく頷き、お付きのものを従え下がっていく。

 王が見えなくなると、レミニアを祝福する輪は一気に縮んでいった。

 ハシリーも駆け寄り、思わす勝者に抱きつく。


「すごいわ、レミニア。びっくりした」


「ちょっとハシリー。興奮し過ぎよ。でも、ありがとう。あなたの合図がなかったら、負けていたわ」


「いいえ。それを実行できるあなたも、十分化け物よ」


「ちょっと。女の子に化け物はないでしょ!」


 簡単ではなかった。

 ハシリーからツェヘスのレベル6のスキルについてレクチャーされていなかったら、おそらく倒れていたのはレミニアの方だっただろう。


 そのツェヘスが、部下に抱えられながら、レミニアの方にやって来た。

 憮然としていて、まるで敗者の顔ではない。


 最初に声をかけたのは、レミニアの方だった。


「あのスキル……。もっと工夫すれば、4連撃を5連撃に出来るんじゃない」


「――――ッ!」


「踏み込みを半歩、いえ半々歩でも退いたら、あと1撃分加えることが出来ると思うわ。それが可能なら、負けていたのはわたしの方だったかもね」


 話を聞いていた人間は、すべてみな凍り付いた。


 レベル6に認定された独自スキルをあっさりと複写するだけでも異常なのに、レミニアはさらに工夫を加えようというのである。


 ツェヘスは何もいわなかった。

 明らかにショックを受けている。

 おそらくそれは、レミニアの意見が正鵠を射た指摘であったからだろう。


 天才……。


 その言葉が全員の脳裏に横切る。


「わたしが教えて差し上げましょうか?」


 小さな勇者は、腰に手を当て、自分よりも倍近い将軍を見上げた。


 ふん、とツェヘスは鼻息だけでレミニアの好意を一蹴する。

 そしてようやく口を開いた。


「誰に剣を習った?」


「わたしの父親よ」


 正確には習ったわけではない。

 ただ日々鍛錬する父の姿と、こっそり見守ったベイウルフとの戦いによって、レミニアは見取り稽古を続け、Aクラスの武人と互角に渡りあえる力を持ったのだ。


「もう1度、名前を教えろ」


「ニカラスのヴォルフよ。以後お見知りおきを、閣下」


「……よかろう」


 ツェヘスは反転する。

 それ以上何もいわず、王宮内にある自分の家へと戻っていった。


「いいんですか? ぎったんぎったんにするのでは?」


「いいのよ。一応、パパのことを認めてくれたみたいだし。わたしとしては、かの猛将グラーフ・ツェヘスの頭に、パパの名前が刻まれたというだけで十分よ」


「本当にレミニアはお父上のことが好きなんですね」


「うん! 大好き!!」


 満面の笑みを無垢に輝かせた。


今回はレミニアのお話でしたが、いかがだったでしょうか?


ブクマ・評価よろしくお願いします!

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[気になる点] 年間100件クエストの条件は難易度よりも準備と時間が厳しそうですね。移動が馬車なのに、討伐なら索敵から野宿で数日必須でしょうから体力も超越者ですね
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