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第43話 若き騎士の純粋なる魂

タイトル略称につきまして、たくさんの感想ありがとうございます。

活動報告にも書きましたが、皆様それぞれで楽しんでいただければ何よりです。

 3回目の競技会が終わった。

 今回の決勝もヴォルフとウィラスだったが、ヴォルフの圧勝だった。

 槍の対応とウィラスの速さに慣れてきたのが勝因らしい。

 だが、ウィラスもただ黙ってやられているわけではない。

 戦うたびに、戦術や攻撃の種類を変えて、ヴォルフに挑んできている。

 結果、彼もまた最初の頃より強くなってきていた。


 こういうライバル関係は、騎士団のあちこちで生まれていた。


 今回で3度目だが、徐々に周りと自分の強さが計れるようになってきたのだ。

 自分と同じだけの強さの人間を自然とライバル視するようになり、その相手よりも強くなりたいという気持ちが、日頃の鍛錬にも表れていた。


 競技会の提案は大成功かと思いきや、その影でこうした実力主義についてこれない人間が、騎士をやめたり、給料の低い衛兵や辺境騎士への転属を願い出ることが多くなった。

 主に新米や貴族出身者だ。

 特に後者はやはり実力による階級制度に馴染めないらしい。


 結果としてだが、騎士団は補充されたにも関わらず、その補充人員よりも人が出ていくこととなった。


 さすがに申し訳ないとヴォルフは思ったが、ウィラスは続行を支持した。


「騎士団は数あわせの衛兵とは違う。最前線でガチンコで戦う精鋭部隊じゃなけりゃあ意味がねぇ。足手まといは、他の兵を殺すことになる」


「しかし、ツェヘス将軍から預かっている手前……。さすがに申し訳なくてな」


「気にすんなよ。それにあんたは客将。実質の責任者は俺だ。それに大将だって、この競技会には賛同してくれるさ」


 とはいうものの、やはり何か手を打たなければならない。

 ヴォルフは首を傾げながら官舎を出て、練兵場へと向かった。


 辺りはもう暗い。

 王宮は篝火や魔法鉱石による明かりに彩られていた。

 反対の王都もまた宝石のように輝いている。

 革命直後は、まだ少なかった明かりだが、随分と人が戻ってきているらしい。


 その夜道を歩く道すがら、ヴォルフは人を見かける。


 セラネだ。


 練兵場とは逆。

 王宮の方へと向かっていた。

 辺りをキョロキョロと見回している


「なんだ? もしかして逢い引きか?」


 だが、そんな浮ついた感じではない。

 そもそも普段から無表情な彼女の感情は、なかなかに読みづらい。


 時折、尖塔を見上げたり、城壁に手をついて何か調べていた。


 セラネの後をついていくと、ふと横合いから大きな影が現れる。


「……っと」


 ヴォルフは寸前で足を止める。

 現れたのは、エルナンスだった。

 手には角材を握っている。


「わわわわわ……。すいません、ヴォルフ様」


 大きな腰を折り、ヴォルフに謝る。

 またマダローに痛めつけられたらしい。

 身体には痣が出来ていた。


「エルナンス、お前、また――」


「あ。え? ああ! すいません。申し訳ない」


 ペコペコと謝る。

 もう頭を下げることが癖になっているらしい。


「ぼく、もうこれで――。はい、すいません」


 ヴォルフの脇を抜け、走り去る。

 何か声をかけても、巨体が振り返ることはなかった。


 はたと気付き、セラネを探す。

 気付けば少女の姿はどこにもなかった。


(全く……。新人が2人してこんな夜に何をやってるんだ?)


 ヴォルフは頭を掻きながら、練兵場の方へと戻っていった。



 ◇◇◇◇◇



 練兵場の中にある森へと足を踏み込む。

 そこで空を切る音と、人の息づかいが聞こえてきた。

 ヴォルフが覗くと、エルナンスが1人鍛錬をしていた。

 今日、ウィラスが新兵の教練で教えていた動作をひたすら繰り返している。


 エルナンスの額は汗でびっしょりになり、角材を持つ手にはうっすらと血が滲んでいた。


「よう。エルナンス、精が出るな」


「ヴ、ヴォルフ様!!」


 エルナンスは驚いて、尻餅をついた。

 それを笑いながら、ヴォルフは手を伸ばし、引き起こす。


「“様”はいいって……。お前、もしかしていつもここで鍛錬をしているのか」


 よく観察してみると、鍛錬する場だけ綺麗に雑草や繁みが刈り取られている。

 おそらくエルナンスが手を入れたのだろう。


「す、すいません。勝手に官舎を――」


「別に咎めているわけじゃない。自主練は大いに結構だ。むしろ感心してるんだよ」


「感心……?」


 褒めてもらえたのが嬉しいのか。

 エルナンスは少し頬を染め、ムズムズと唇を動かした。

 それだけを見ると、まだまだ田舎の青年だ。


「なあ、エルナンス。今、騎士団の団員が辞めていってるのは知ってるな。お前の同期も何人か辞めている。お前は、辞めたいって思わないのか?」


「も、もももももしかして、ぼく! 馘ですか?」


「いや、そういうことをいってるわけじゃないんだ。ただ……質問してるだけで」


 すると、エルナンスは胸に手を置き、息を吐いた。

 心底ホッとしたらしい。

 そしてポツリと呟いた。


「僕……。強くなりたいんです」


 エルナンスは自分が騎士団に入った志望動機を明らかにした。


 農奴の子供だった彼は、自分たちの耕作地を荒らす魔獣に困り果てていた。

 地主に何度も魔獣を倒してほしいと願い出たが、彼らからすれば農奴は使い捨ての駒のようなものだったらしい。

 魔獣に襲われ、死ねばどこからか買って連れてくる。

 そんなことを平気でやる地主だった。


 だが、ある時騎士団が農地の近くを横切った。

 エルナンスは思い切って騎士たちに頼み込んだ。

 その1人がグラーフだった。

 彼自ら事情を聞き、急遽魔獣の討伐を行うことを決定した。


 大人がまるで歯が立たなかった魔獣をあっという間に倒してしまったグラーフを見て、エルナンスは騎士になることを誓う。


 それからエルナンスは懸命に働き、土地を開墾し、作物を育てた。

 甲斐あって、地主から土地を買い取ったエルナンスは、そのタイミングで両親の許可を得て、騎士になるために王都にやってきたという。


「でも、すぐには騎士になれなくて、入団試験に3回も落ちてしまって……。でも、今回の大量募集に引っかかって…………って、ヴォルフ様聞いてますか?」


「あ、いや、すまん」


 エルナンスではなく、ヴォルフが頭を下げる。

 思わず感心してしまった。

 生い立ちにではなく、こんなにもよく喋るエルナンスにである。


「マダローさんに負けてばかりだし。競技会ではいつも最下位だけど……。僕は絶対騎士団をやめません! やめたくありません!!」


 エルナンスはきっぱりと言い切った。

 純粋な灰色の瞳をヴォルフに向ける。

 いまだ自分が解雇されると思っているのだろう。


「(馬鹿だな、俺は……。こういう熱い気持ちをもってもらいたくて、競技会を開いたんじゃないか)」


 危なく騎士の強い魂を摘むところだった。


 ヴォルフ自身、リタイヤした経験があるからだろう。

 去る側の気持ちがわかるから、制度を変えようとした。

 でも、それは今の制度を支持する人間の意見を無視することでもある。


 出ていった者には申し訳なく思うが、それでも今一番大切なのは、残ってくれている騎士たちの方なのだ。


「あの……。やっぱり、僕……。馘ですか? はっきりいって下さい。僕、才能ないし。槍だって、こんなに練習してるのに、全然うまくならなくて」


「才能ならあるぞ」


 エルナンスの腹を軽く叩く。

 肩から真っ直ぐ拳を伸ばすと、比較的大柄なヴォルフでも、エルナンスの腹に当てることになる。つまり、それだけ新米騎士の背丈が高いのだ。


「この背丈の以上の才能はないよ」


 ヴォルフはニヤリと笑う。


 エルナンスは目を剥いて驚いた。

 ふと懐かしい土の匂いを嗅ぐ。

 ある人の言葉が脳裏に蘇った。




『あの……。僕、騎士団に入りたいんです! どうしたらなれますか?』


『坊主……。貴様今、何歳だ?』


『な、7歳です』


『ほう……。その割には背が高いな。それは貴様の長所になるだろう。それを忘れるな』




 その時、馬上からエルナンスの頭をくしゃくしゃにしたのは、グラーフ・ツェヘス――その人だった。


 あの時と全く同じ言葉を贈られたことに、エルナンスは感動をしていた。


「エルナンス……。お前、懐に入られるのが苦手だろ?」


「え? あ、はい……。中に入られると、人が近いので。うまく攻撃できなくて、慌てて、その……すいません」


 指摘されると、今まで輝いていた表情は急にシュンとなった。

 肩を落とし、項垂れる。

 最後には例の謝る癖まで出てきてしまった


 ヴォルフはエルナンスを元気付けるかのように二の腕を叩く。


「もし、俺にうまい対処の考えがあるといったら、お前どうする?」


「え? 本当ですか?」


「俺は嘘はつかん。ただお前には少し辛い目にあってもらうぞ」


「構わないです! 僕、勝ちたいんです!!」


 再び灰色の瞳に、闘志が宿った。



 ◇◇◇◇◇



「0勝19敗か……。見事な数字だな」


 ウィラスは肩を竦めた。

 眺めていた資料を横から覗き込む副長を軽く目で咎める。

 やがて持っていた資料にヴォルフは再び目を落とした。


 19戦0勝19敗。

 この惨憺たる戦績の持ち主が、エルナンス・ウィットだ。


 ページをめくる。

 すると、出てきたのはマダロー・ウォード・バラガムの戦績だった。


 こちらは15戦3勝12敗。

 この3勝は、エルナンスに2勝と新米騎士に1勝したものだ。

 ちなみに戦歴に差があるのは、負けが込むと経験を積ませるために試合が多く組まれる制度になっているからだった。


「なんだ。あれだけ威張っておいて、マダローって大したことないんだな」


「まあな。……ここんところ、鍛錬にも熱心じゃないし。あの魔石が付いたハルバードも取り上げたしな」


 だが、入団当初のマダローはもっと熱心な男だったらしい。

 彼が変わったのは、グラーフが謹慎してからだ。

 騎士団の中には、今回の将軍の謹慎が王によって強制されたと思うものも少なくない。

 ウィラスから見れば、マダローなりのサボタージュなのだと考えていた。

 やり方としては、とてもひねくれてはいるが……。


 話を聞きながら、ヴォルフはエルナンスとマダローの資料を見比べる。


「でも……。この2人って。戦績だけみれば、いいライバルなんだけどな」


 ニヤリと笑う。

 次の競技会が待ち遠しくて仕方なかった。


次回「最高の最下位戦」。

エルナンスvsマダロー。


ヴォルフは戦いませんが、

最高の最下位決定戦になっているので、

どうぞお楽しみに!

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