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第37話 おっさん、王に謁見する

ヴォルフにチョコを贈るのにはどうしたらいいのだろうか(錯乱)

「よくお似合いですよ、ヴォルフ殿」


 ハシリー・ウォードは賞賛した直後、何故か「ぷぷ」と笑った。

 ヴォルフは髪を掻こうとするが、寸前で止める。

 いつもは寝起きの頭のようにくしゃくしゃの癖毛は、髪油と給仕たちの膨大な労力によって、まとめられていた。


「そう思うなら笑わないでくれよ、ハシリー」


 髪を掻く代わりに、肩をすくめる。

 失礼しました、とハシリーは謝罪したが、口元はいまだ笑っていた。


 ヴォルフは今一度、姿見で己の姿を確認する。

 我ながら似合っていない。

 真っ新な白を基調とした生地に、袖や肩、襟元に金糸の細工が施されている。レクセニル王国の正装だ。


 白はレクセニルを象徴する色であり、国旗にも使われている。

 金は国章である獅子と鷹を合わせた幻想生物を表すものだ。


 同時にストラバールでは、「白」は清廉潔白を意味する。

 その下で、汚職が蔓延した事実はなんとも皮肉な話だった。


 ヴォルフはややキツくしまった襟元を伸ばす。

 自分のぼんやりとした顔を叩いてみたが、やはり着た服以上に中身が立派にならない。高名な芸術家の花瓶に、雑草を挿しているようなものだ。


 なんだかスースーする。

 正装の着心地がいいのもそうだが、支給されたサテン生地の下着がどうにも合わない。中で一物が滑らかな舌でなめられているかのようだ。とかく収まりが悪い。


 今、自分は恐悦至極な待遇を受けているのだろう。

 だが、普段と違うことすると、身体が変な拒否反応を示してしまう。


「レミニアは?」


「支度の準備の邪魔になるため、自室に鍵をかけて閉じ込めておきました。ああ、もちろん【魔封の霧】も一緒に放り込んでおいたので、ご安心を」


「な、なかなか過激だな……」


 ヴォルフは苦笑した。


 父親に久方ぶりの再会を果たしたレミニアは、もはや盛りのついた獣だった。

 片時もヴォルフから離れず、常に父の身の回りの世話をし、何度も愛の言葉を呟いた。


 ついには身を清めようとしていたヴォルフがいる湯殿に潜入まで果たす。父のため背中を流すところまでは良かったのだが、全裸となり「パパ一緒にお風呂に入ろ」と言い出した辺りで、あえなく御用となった。


「ヴォルフ殿、あまりこういう質問は失礼と思いますが、レミニアと一体何歳ぐらいまでお風呂に入っていたのですか?」


「うーん、うちには風呂はなかったからなあ。川で水浴びとかなら、王都に行く前日まで一緒に入っていたぞ」


 やっぱり、とハシリーは頭を抱えた。


 田舎の貞操観念なんてそんなものかもしれないが、さすがに情操教育に悪いだろう。レミニアの場合、「パパ限定」であったとしても、15歳のしかもよく育った胸をもつ少女と一緒に水浴びというのは、絵面としてまずい。

 それに、背丈の小さいレミニアと、四十を越えた男のツーショットは、何も知らない人間からすれば、犯罪臭しかしなかった。


「(これは1度、2人に情操教育というものを施しておかないとダメかもしれませんね。一線を越える前に)」


 そもそもレミニアはともかく、父の方がなんとも思わないのだろうか。

 娘とはいえ、血のつながっていない少女のことを……。


 すると、支度室の扉が突然開いた。


 現れたのは、レミニア――ではなく、給仕だ。

 その腕の中には大きな猫が抱かれていた。

 ひらりと腕から降りると、九つに別れた尾をヒラヒラと動かした。


「おお。ミケ、よく来たな」


 ヴォルフが振り返る。

 ミケは異色の両眼を大きく見開いた。

 うっと喉を詰まらせた後。


『ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! なんだ、その格好! 似合ってねぇぞ、ご主人様』


「う、うるせぇ! 笑うな、欲張り猫!!」


 突然猫と会話を始めたヴォルフを、ハシリーと給仕たちは戸惑いながら見つめるのだった。



 ◇◇◇◇◇



 後に「レクセニル内乱」と名付けられた革命は、一夜で終わりを告げた。

 首謀者であるルーハスをヴォルフが捕まえたことも早期解決に至った原因ではあるが、夜明け前にツェヘス率いる主力軍が急ぎ戻ってきたのも大きかった。


 王国側と冒険者を合わせた死亡者数は311名。重軽傷者は2000名以上に及んだ内乱は、建国始まっての人災であった。

 特に東区の被害はひどく、王国側は多くの家臣を失った。

 だが、そのほとんどが地位を利用し、私腹を肥やしていた汚職貴族であったため、国民の間では冒険者を英雄視する向きもあり、すでにルーハスの特赦を誓願する意見書が集まっているのだという。


 そんな中、今回の内乱鎮圧の最功労者であるヴォルフ・ミッドレスの王の謁見が始まろうとしていた。


 真っ直ぐ続く王宮の廊下を歩いていると、ヴォルフは足を止める。

 王都の方で鐘が鳴っていた。

 鎮魂の音にしばし耳を澄ます。

 おそらく、その下では1人の遺体が荼毘に付されているのだろう。


「ヴォルフ殿?」


 一時的にヴォルフの世話係を仰せつかったハシリーは、ぼんやりと外を眺める冒険者に声をかける。

 真剣な横顔は、先ほどまで困惑気味に正装に袖を通していた人物とは思えないほど、引き締まっていた。

 反射的に見入ってしまい、ハシリーは浮かんできた雑念を振り払う。


「ああ……。今、行く」


 ヴォルフは再び赤い絨毯の上を歩み始めた。



 ◇◇◇◇◇



 2匹の獅子が掘られた鉄の扉が開いていく。

 同時に楽器が鳴らされ、謁見の間に進み出た冒険者を祝福した。


 ヴォルフは大きく背筋を伸ばす。

 緊張気味に喉を鳴らした。


 その後ろには、ハシリーが控える。

 つい3月前にも同じような状況があったが、堂々としていた娘とは違って、ヴォルフは戸惑っていた。


 だが、前と様相が変わっているのは、案内する相手の違いだけではない。


 居並ぶ家臣の顔ぶれも、その数も変わっている。

 中には急に爵位待遇を与えられ、ヴォルフと同じく狼狽えているものもいた。

 謁見の間で、こうして王と対面するのが初めてというものもいるだろう。


 それほどレクセニルは人材を失ったのだ。


 ヴォルフはかちこちになりながら、家臣たちが居並ぶ中を進んでいく。

 おそらくこの中で緊張していないのは、笑顔と投げキッスを振りまき続け、いつの間にか謁見の列に加わったレミニアぐらいだろう。


「パパ、頑張ってぇ!」


 大きな声を上げて、声援を送る。

 田舎者を嘲笑する声が漏れたが、おかげで幾分空気が緩んだ。

 ヴォルフもレミニアの姿を見て、安心したらしい。

 軽く手を振る余裕を見せた。


 進み出た大臣の手によって、ヴォルフは歩みを止める。


 奥から衛兵が出てくると、玉体御入場の発声が行われた。

 一斉に皆が傅く。

 ヴォルフも一拍遅れ、膝を突いた。


 沈黙した謁見の間に、衣擦れの音が響く。

 ヴォルフは顔を伏せ、次の行動を待った。


「皆のもの、面をあげよ」


 顔を上げ、立ち上がる。

 ヴォルフも倣った。

 正面を見ると、鷹の翼を生やした獅子が描かれた大国旗のもと、レクセニル王国国王ムラド・セルゼビア・レクセニルが座っていた。


 傍らにはリーエル王妃が、一段下がった場所に椅子を置き座っている。


 ヴォルフは知らないが、王の謁見において王妃が同伴するのは、他国の王や王族を迎える時にしか行わない。

 家臣や、まして一冒険者の謁見で、王妃が同伴するのは異例中の異例だ。


 ムラド王はそれほどヴォルフのことを買っているという証に他ならなかった。


「ヴォルフ・ミッドレスだな」


 天井から降ってきたような野太い声が、謁見の間に響く。

 溜まらずヴォルフは深く頭を下げた。

 それは玉音を聞いたからというわけではなく、ムラド王が持つ圧力によるものだった。


「はっ! 陛下。この度は、謁見の栄誉を賜りありがとうございます」


 王の謁見はこうして始まった。


少し謁見シーンが長くなったので、

ここで切ります。

中途半端になりますが、明日の更新をお待ち下さいm(_ _)m


明日が王国革命篇の最終話となります。

ここまでお読みいただいた方に改めてお礼申し上げます。

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