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第347話 おっさん、目覚める

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挿絵(By みてみん)


「うっ」


 瞼を開くと、光が目に雪崩れ込んできた。

 ヴォルフは慌てて瞼を閉じる。

 今度は慎重に開くと、まず梢が見えた。

 視界が徐々に広がっていくとともに、音が聞こえる。


 鳥の囀り。

 虫の羽音。

 風が梢を揺らす音。


 随分と久しぶりに聞いたような気がして、思わず口が緩んだ。


 ヴォルフは腰を上げようとした時、なかなか動かない。

 自分の身体にツルなどの植物が絡まっていたからだ。

 同時に自分が大きな樹木の根に挟まれているように寝ていたことに気づく。


 ゆっくりと起き上がり、空を見上げた。

 大木が空を突くように伸び上がり、さらに青々とした葉をつけた樹木が光を隠すように遮っている。


 思わず圧倒される光景だが、ヴォルフには見覚えのある光景だった。


「エミルリアに似ているな」


 そう呟いたヴォルフの頭に、これまでのことが思い浮かぶ。

 ガダルフとの決着。

 神狐(しんこ)との戦い。

 ガーファリアとの決闘。

 そして、ストラバールに接近するエミルリア。


 思い出すだけで、息が詰まる激闘だった。


「俺、生きているのか?」


 だからなのか、生の実感がない。

 果たしてヴォルフ・ミッドレスは死んだのか、あるいは生きているのか。

 神の理すらはね除けた、【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】ですらわからない。

 まるで神の園を思わせる緑の庭は、何も答えてくれなかった。


「よっ!」


 ヴォルフは大きな根から飛び降りる。

 改めて巨木を見ながら、ヴォルフは首を捻った。


「もしかして聖樹リヴァラスか?」


 ストラバールに生える世界最大の樹木にして、聖樹。

 その正体は巨大な賢者の石(エクサリー)だった。

 しかし、ガダルフとの戦いで、聖樹リヴァラスはすべての力を使い切った。

 その新しい芽は芽吹いてこそいたが、これほど成長するのは難しい。


「いや、そもそもどれぐらい時間がかかったんだ。それに娘は? レミニアは? ハシリー! エミリー! クロエ! アンリ!」


 知ってる人間の名前を片っ端から叫ぶ。

 しかし、反応はない。


「まさか俺だけ生き残った……。いや、あり得ない」


 ガーファリアと最後に戦った時、彼はこう言っていた。

 これは神の試練だと……。


「試練をクリアすれば、世界は救われるんじゃなかったのか?」


 言ってみたものの、ヴォルフにも自信はない。

 確信的な言葉があったかどうか……。

 そもそもガーファリアと戦ったことさえ、夢ではないかと思えてしまう。


 じっとしていても埒がない。

 娘を、そして仲間たちを捜すためヴォルフは歩き始める。


『ヴォルフ……』


 不意の声に、ヴォルフはドキリとした。

 振り返ると、誰もいない。

 あるのは、城のようにそびえ立つ巨樹だけだ。


「まさか……」


 ヴォルフは顔を上げる。

 すると、梢が揺れた。潮騒のような音とともに、人の声が聞こえてくる。


『聞こえますか、ヴォルフ』


「もしかして聖樹リヴァラスか」


 強い抱擁感を感じる声には覚えがある。


『そうです。聖樹リヴァラスです』


「良かった。お前、生きていたんだな」


 梢が横に揺れる。

 まるで首でも振るかのように……。


『少し違います。私は確かに死んだ。聖樹リヴァラスは確かにその生命の活動を止めたはずでした』


「なら、なんで……」


『信じがたいことですが、どうやら私は復活した(ヽヽヽヽ)ようです。おそらく世界を再構築する際、私が必要だったかと……。まあ、これでも1万年以上――』


「ちょっと待ってくれ。話がついていけない。世界が再構築って……」


 光に包まれる前に、レミニアが似たようなことを言っていた気がする。

 確か2つの世界を分解し(ひきはなし)、そして再び構築する(ひきよせる)みたいなことを……。

 そのために賢者の石(エクサリー)と、愚者の石(アンチ・エクサリー)が必要だと……。


 あまりに難しすぎて、ヴォルフは半分も理解できなかった。

 いや、ある程度理解はしていたつもりなのだが、あまりに荒唐無稽すぎて、娘であるレミニアの思考に追いつけなかったというほうが正しいかもしれない。


「そうです。世界は再構築されました。崩壊寸前だった2つの世界――すなわちストラバールとエミルリアは1つになったのです」


「ストラバールと、エミルリアが!!」


 言われてみれば、そんな気配を感じる。

 目覚めた時、エミルリアで見た風景に似ていると思った。

 しかし、一方でエミルリアではないことも、頭ではわかっていた。


 2つの世界の気配を感じるまったく別の世界……。


 崩壊する世界を救うには、そうするしかなかったのだ。


「みんなは? まさか俺だけ生き残って……」


 ヴォルフが質問した時、聖樹リヴァラスの上のほうで何かが光った。


『ごしゅじぃぃぃぃいいいいいいいんんんんんんん!!』


「み、ミケ!!」


 隕石のように飛来したミケを、ヴォルフは受け止める。

 通常の猫よりも一回りも大きな雷獣は、大好きなご主人の顔面に飛びつくと、ペロペロとなめ回す。


『良かったにゃ~! 生きてたにゃ~! ご主人にゃ~!』


「ちょ、ちょっ! ミケ、落ち着け! くすぐ……あははは……。くすぐったいって!!」


 ヴォルフは頼むのだが、当の相棒は興奮しているのか、舐めるのをやめない。

 ひとしきり感動の再会を果たしたあと、落ち着いたミケに尋ねた。


「良かった。ミケが生きてて。俺はもうてっきり……」


 ガダルフとの戦いの時、すべての力を使い果たしてしまったようにヴォルフには見えた。今生の別れかと思ったが、こうして元気な姿を見て、ヴォルフは心底ホッとした。


『いや、あっちもそうじゃないかって覚悟したにゃ。実際、あっちは爪一本動かせなかった。でも、気づいたら』


 ミケは巨樹を見上げる。

 どうやらヴォルフが根の中で寝ていたのに対して、ミケは枝の中で寝ていたらしい。


 死んだと思っていた聖樹リヴァラス、さらにはミケが復活した。


「これも再構築に何か関係があるのか?」


『はい。レミニア・ミッドレスが成したことは、神すら驚かせた超神技でした。世界を再構築するなど、人の成せる技ではない。それに比べれば、我々の復活などおまけのようなものかもしれません』


「リヴァラス……。レミニアは俺の娘だ。まるで化け物みたいに言わないでくれないか?」


『失礼しました。今のは失言でしたね』


「教えてくれ。……それで俺の娘はどこにいる」


『……わかりました。というよりは、すでにご存知なのですね』


 ヴォルフは目を細め、聖樹リヴァラスを睨んだ。


「さっきから胸騒ぎがする。声が聞こえるんだ。『この木から離れるな』って。俺に訴えかけてくるんだ」


『わかりました。お見せしましょう』


 聖樹リヴァラスはそう言うと、突然巨大な幹が割れ始める。

 正確には、巨樹を支える幹は1本だけではなく、何本もあって、それがロープのように絡まっていた。その1本1本がほどかれていく。


 現れたのは、大きな緑色の鉱石だった。


 賢者の石(エクサリー)の赤でも、愚者の石(アンチ・エクサリー)の青でもない。金剛石や、サファイアといった宝石とも何か違う。

 強い光を放ち、かつ膨大な魔力を帯びていた。


『なんにゃ? あの石は? ご主人?』


 ミケは主人に質問しようとして、顔を上げる。

 しかし、ヴォルフはまた別のものを見ていた。


「レミニア……」


 ヴォルフが呟いた言葉が合図であったかのように、光が収まっていく。


 光の中にあったものを見て、ミケもまた息を飲む。


 炎のように広がった豊かな髪。

 アメジストを思わせる紫の瞳。

 小さな背丈とは正対するような大きな胸。


 間違いない。


 鉱石の中で眠っていたのは、ヴォルフの娘……。


 レミニア・ミッドレスだった。


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