表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

371/371

第346話 最期の出撃

☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★


先日、BookLiveより54話が更新されています。

原作者描き下ろしの新章となっています。

WEBと違う展開になっていますが、こちらもかっこいいので、ぜひ読んでください。


挿絵(By みてみん)

 草花が生い茂り、山の峰に光が差す……。


 朝がやってきた。

 それは当たり前のことだが、つい1日前はそうではなかった。

 山は崩れ、地面は隆起し、海や暴風とともに空へと舞い上がる。


 もはやそれは地獄であり、世界の滅びの前兆であった。


 そんな苦難をくぐり抜け、今は世界はある。

 ストラバールと、エミルディア両世界の植物が生える森は、地平の彼方まで広がり、大きな平原では背の低い草花たちが揺れている。


 北の山肌には雪が残り、南の海では色とりどりの魚たちで溢れ返っていた。


 世界は「生気」に萌えていた。

 一言でいえば、救われたのだ。


(なんて親子なの……)


 そんな世界を見ながら、毒づいたのは1匹の狐であった。

 大きな尾をヒラヒラと動かしながら、まさしく再生された森を駆け抜ける。

 彼女の名前はハッサルと呼んだ。


(でも、あたしにもまだ芽は残っている。ヤツらはあたしのすべての尾を消滅させたと思っていたけど、まだ残っていたのよ)


 元々ハッサルは神狐(しんこ)と呼ばれる古代の神獣であった。

 その尾の数は、9尾ではなく10尾。

 常に1つを余所に置くことで、彼女はずっと生き延びてきたのだ。


(また一からになってしまったけど、あたしは諦めないわ。今度こそ必ず、あたしが唯一の神に……)


「ここにいたか、神狐(しんこ)


「お前は――――」


 神狐(しんこ)と古い名で呼ばれたハッサルの顔が引きつる。


 砂銀のように流れる髪。

 真っ白な肌はサテン生地のように薄く輝き、黄金色の瞳はやや愉快げに歪んでいた。一見すると、絶世な美女である。

 しかし、その身体のあちこちに傷があり、元は白かったドレスは血に濡れていた。


「カラミティ…………エンド…………」


 不夜の女王……。

 【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】……。

 真祖の吸血鬼……。


 そして、太古からの宿敵……。


 思えば、ハッサルの歴史は、このカラミティとの争いでもあった。


「お前は……」


「死んだ、か? 舐められたものだ。よもや我の2つ名を忘れたわけではあるまい。【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】……。我以上の不死の存在はなく、我以上に死なぬ者はいない」


「自分の姿を見なさい。よく言えるわね」


「当たり前だ。それがカラミティ・エンドだからな。それに己の姿というなら、そなたも同じではないか。随分と可愛い。本体と比べると、まるで童のような姿だな」


「黙れ!」


 ハッサルは牙を剥き出す。

 すると、身体がムクムクと大きくなる。

 ヴォルフと相対した時と比べるまでもないが、それでも人一人驚かすには十分なサイズとなる。


 しかし、相手が悪かった。


 カラミティ・エンドは、少なくとも顔を上げなければならないほどには大きくなったハッサルを見上げる。


「まだそんな力を持っていたか。したたかな狐だ。しかし、すでに未来予知はできないと見える。我がここに来るとわかれば、そなたはここに来なかったであろうからな」


 カラミティの予想は正しい。

 ハッサルはヴォルフとの対決に賭けていた。

 そして負けると微塵も考えていなかった。

 何故なら、負ける未来など見えなかったからだ。


 この姿は言わば保険の保険である。

 ただ自分が生き残るだけの……。

 ハッサルは次なるチャンスといったが、すでにヴォルフが本体を殺してしまった以上、未来を視ることすらできなかった。


「あはははははは!」


 それでもハッサルは笑った。

 強がりではない。

 まるで天啓のように現れた宿敵を見て、心から歓喜していた。


「何がおかしい」


「おかしいさ。『我がここに来るとわかれば、そなたはここに来なかったであろうからな』ですって。違うわよ、真祖(カラミティ)。私が、あなたがここ(ヽヽヽヽヽヽ)に来るってわ(ヽヽヽヽヽヽ)かっていたか(ヽヽヽヽヽヽ)らよ(ヽヽ)


「…………」


「強がりと思っているのでしょ? 違う。私はあなたを喰らう(ヽヽヽ)。半死半生でも、あなたを食べることができれば、私はかつての力を取り戻せる〝芽〟が出てくる。あははははは! 残念でした! ここで死ぬのは、私じゃない」



 カラミティ、あなたよ!!



 ハッサルは牙を剥き出す。

 今まで様々な権謀術数、あるいは戦略・戦術を立ててきた老獪な狐の姿はない。

 まるで獣の本能でも思い出したかのように獣臭を漂わせて、ハッサルはカラミティに襲いかかった。


 そんな宿敵の姿を、カラミティは物憂げな顔で見つめるだけだった。


「ハッサルよ……」



 さらばだ!



 カラミティの手には骸骨の柄がついた銀剣が握られていた。

 まるで地面に埋まった銀砂をかけるように剣線が閃く。

 次の瞬間、ハッサルの巨躯は真っ二つになっていた。


「ハッサルよ。お前の敗因は未来だけ見て、現実(いま)を見なかったことだ」


「く…………ぉ………………」


 断末魔の悲鳴というには、あまりに小さく意味のない言葉であった。

 ハッサルはそのまま消滅する。小さな結晶が生まれると、それはすぐに黒炭となって消えてしまった。


 ストラバールより太古からいた化け物の命運は、ついに尽きたのだ。


「ふう……」


 カラミティは一息を吐く。

 安心した瞬間、持っていた銀剣を取り落としてしまった。


「まったく……。最期の最期まで厄介な奴だった」


 カラミティは血だらけになった自分の手を見る。

 一瞬笑みを浮かべたが、すぐに悲しげに目を細めた。


「こんな姿ではヴォルフの元にはいけぬな」


 空を見上げる。


 木漏れ日の間から、(レク)――エミルディアが消えた空を仰ぐ。


「寂しいな。1人は……」


 カラミティの身体が斜めに傾く。

 倒れそうになった身体を受け止めた者がいた。

 色素の抜けた白髪に、厳格に引き締まった四角い顔。

 つり上がった瞳は鋭く、人というより狼を思わせる。

 赤い瞳は超然としていて、かつ真摯にカラミティに向けられていた。


「ゼッペリン……。そうか。お前がいたな」


「いえ。わたくしだけではありません、カラミティ様」


 カラミティがゼッペリンと呼んだ紳士は、顔を上げる。

 彼女もまたその視線を追った。


「…………!」


 思わず息を呑む。

 森に揃っていたのは、ゾンビやスケルトンといった不死の軍団であった。

 その軍団の中から、8本の腕と3つの首を持つスケルトンが進み出る。

 カラミティの姿を見つけると、まるで田舎にいる好々爺のように笑った。


「そうか。我にはそなたらがいたな」


 かつてカラミティが率いていたドラ・アグマ王国軍の全軍が頷く。

 それまで意気消沈としていたカラミティの中に、再び気高さが戻ってくる。

 ゼッペリンから離れると、自ら立ち上がり、全軍に発した。


「行くぞ、皆の者」


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 怒号のような鬨の声が、カラミティの耳朶を打つ。


 カラミティは輿に身体を預けると、不死の軍団とともに深い森の中に消えた。


☆★☆★ 「おっさん勇者鍛冶屋」4巻 本日発売 ☆★☆★


もはや「アラフォー冒険者、伝説となる」の兄弟作品でもある

『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』4巻が、本日メテオコミックスより発売されます。今回は魔族編に加えて、次章黒王竜編の序章まで網羅しております。

ぜひ買ってくださいね。


挿絵(By みてみん)




※ 「アラフォー冒険者、伝説となる」今後の更新

ラストをちょっとどうしようか迷っております。

更新不定期になりますが、コミカライズの情報などは逐次SNSのほうで連絡しておりますので、

そちらもチェックいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シリーズ大重版中! 第6巻が3月18日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本6巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large





今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


好評発売中!Webから大幅に改稿しました。
↓※タイトルをクリックすると、アース・スター ルナの公式ページに飛ぶことが出来ます↓
『王宮錬金術師の私は、隣国の王子に拾われる ~調理魔導具でもふもふおいしい時短レシピ~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




アラフォー冒険者、伝説になる 書籍版も好評発売中!
シリーズ最クライマックス【伝説】vs【勇者】の詳細はこちらをクリック


DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



ツギクルバナー

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます。 流石に不死の中の不死、かっこいい あと、誤字なのかな? ここで死ぬのは、私じゃない」 この神狐ハッサルよ!!←ちょっと矛盾してるかと まるで獣の本能でも思い出したかの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ