第345話 レミニアの勇者
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
BookLiveで最新話更新されました。
先日発売された単行本からさらに2話先にあるお話です。
是非読んでくださいね。
大大大好評の最新9巻もよろしくお願いします。
ついに決着した。
神の座と呼ばれる空間に1人立っていたのは、ヴォルフだ。
荒い息をしながら、聖剣と刀を下げて、倒れたガーファリアを見つめている。
その皇帝の顔を覗き込むと、虫の息にもかかわらず、笑っていた。
「陛下……」
「皆まで言うな。最後の一撃、見事だったぞ」
「ありがとう…………ございます」
ヴォルフは勝利したにもかかわらず、無念そうに呟く。
その表情を見て、ガーファリアはまた笑う。
「そんな顔で感謝されてもな。それとも我が嘘を言っているように見えるか?」
「…………」
「……最期にいいものを見せてもらった。本来であれば、あの高みに到達できるのは、我の方が早いと思っていたのだが……。お前は、もうすでに我の先に行っていたのだな」
「陛下……」
「そんな顔をするな。お前は英雄だ。そしてお前は我と違って、孤高の英雄というわけではない。違うか?」
「はい」
「惜しむらくはもうそなたと剣を合わす機会がなかったことだ」
「俺も残念です」
ヴォルフがガーファリアとの別離を惜しむ中、空間が震える。
ゴロゴロと雷のような音を立てると、白い世界はついに崩れ始めた。
「これは……」
「どうやら、2つの世界の合成がうまくいってないようだな」
「え? でも、俺は……」
「神の不手際ではない。おそらく向こうの問題だ。お前の娘が何かしら計算をミスったのであろう」
「レミニアが……!?」
「行ってやれ、ヴォルフ。お前はかの【大勇者】の唯一勇者と名乗れる男だろう」
ヴォルフは熱くなった目頭を擦る。
できれば、もっとガーファリアとは戦っていたかった。
いや、もっと語り合いたかった。
ガーファリアの人生はヴォルフのそれとは全く違う。
それでも同じ高みを目指した同志であることがわかったから。
こんな風に別れる相手ではなかった。
でも、ヴォルフにとってレミニアの安否は何よりも優先される。
「行きます。俺はやっぱり娘の――レミニアの勇者だから」
「達者でな、伝説。本当に世界に飽いたのであれば、我のところに来い。いつでも相手になってやる」
「その時はよろしくお願いします。……こんな風にいうのもおかしいですが。陛下もお元気で」
ヴォルフは立ち上がり、いずこかへと走り出す。
その後ろ姿を見ながら、ガーファリアは終始笑っていた。
「ああ。1つ言い忘れていたわ。バロシュトラス魔法帝国をあやつにやろうと思ったが……。まあ、あの男の器はただ一国の君主に収まり切れぬだろう」
ガーファリアは手を差し出す。
眩い光が彼を覆った。そこに天使のような幻像が見える。
「子どもたちよ。子々孫々よ。バロシュトラスをそなたらに任せたぞ」
そして空間は完全に崩壊する。
ガーファリアは倒れていた地面は崩れ、暗い奈落へと落ちていった。
◆◇◆◇◆
如何に天才と呼ばれていても、さすがにない袖は振れなかった。
それがレミニアの結論だった。
エミルディアにある愚者の石。
自分の手元にある賢者の石を、愚者の石化したものを含めて、2つの世界を合成するにはまったく足りなかったのだ。
実は、最初からレミニアはこうなることがわかっていた。
しかし、奇跡を願った。
天才でも、もう奇跡に頼ることしかできなかったのだ。
それでも賭けに負けた。
一世一代の賭けであったが、レミニアは敗れた。
「天才レミニアちゃんの唯一弱いところは、勝負弱いところよ。ここぞというところで、負けてしまう」
そういいながらも、レミニアは奇跡を待ち続けていた。
だから、1人ずっと魔力を開放しながら、世界を1つにしようと躍起になっている。
(こういう往生際が悪いところ、一体誰に似たのかしら)
自分の本当のママなのか。
それとも……。
「パパ……。会いたいよ。どこ……。パパ……」
パパァァァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!
レミニアは叫んだ。
それでもドロドロに溶けた世界の中で……。
誰も聞いていない。もはやそこに生命はない。
相棒の秘書もとうの昔に自分の前から消えていた。
この世界の養分となって……。
「終わりかしら」
さすがのレミニアも敗北を認め、倒れそうになる。
それを受け止める者がいた。
すぐにわかった。匂いで、いやその前に気配で……。
いや、ずっと前からこうなることをわかっていたのかもしれない。
そう。その人はレミニアがピンチとなれば、必ず駆けつけてくれる勇者だから。
「パパ……」
顔を上げる。
そこには、やはり父が立っていた。
「よく頑張ったな、レミニア。ごめんな。お前ばかりに」
「ううん。きっとパパが来てくれるって信じてた」
「レミニア、俺がやれることはあるか?」
正直にいえば、ヴォルフの顔を見られただけでレミニアは十分だった。
だが、今はそういうわけにはいかない。
これから先、また父と暮らすためにも……。
「単純に魔力が足りないの。もうわたしだけじゃ……」
「わかった。魔力だな。俺のを使ってくれ」
「でも、パパ……」
「パパは魔法は苦手だけど……。けれど、レミニア。お前のことだ。パパの魔力だって強化して、成長させているんだろ」
ヴォルフは体力や膂力、そして成長だけではない。
レミニアはしっかり魔力の強化も、その成長の強化も怠っていなかった。
「さあ、やるぞ。この世界を……」
「ストラバールを戻しましょう」
2人は手を掲げる。
次の瞬間、足りてなかった魔力は補充され、レミニアが仕掛けていた魔法がついに発動する。
第10階梯ある、魔法のランク――その先にある世界融合の魔法。
まさしく一世一代の魔法はついに解き放たれる。
すると、白い光が2人に覆われるのだった。