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第344話 零の先

☆★☆★ 昨日発売 ☆★☆★


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『アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~』第9巻


挿絵(By みてみん)

「「がはっ!」」


 血反吐を吐いたのはガーファリアだけではない。

 攻撃したヴォルフもまた満身創痍だった。


 先ほどまで暴風のように苛烈に攻撃を仕掛けていた両者は、互いに膝を突く。

 荒い息を吐き出し、負荷をかけ続けた肉体をしばし労る。

 いや、というより、動けなかったのだ。2人とも。


「存外悪くない」


「何がですか?」


「全力を出すということがだ」


「俺は……、そうは思えません」


「お前らしいな」


「でも……」


「ん?」


「勝っても負けても、あなたと別れる結末にあることは悲しいです」


「…………」


「もう少しあなたと……。いや、あなたに追いついていれば結末は違ったかもしれない」


 2人が共闘していれば、ガダルフにもハッサルにも楽に勝てたかもしれない。

 そう思わないわけがない。


「あなたとは、生死や世界の行く末に関係なく全力で戦って勝ちたかった」


 それはヴォルフの心からの本心だった。

 思い出すのは、レクセニル騎士団に客将としていた時のこと。

 騎士団に導入されたランク戦は、確かに生死はなかった。

 だが、誰も手を抜いたことはない。

 そこでは、全力で強くなろうと騎士達が切磋琢磨していた。


 許されるのであれば、ガーファリアもあの場に引っ張りだし、そして戦いたかったと思った。


「ふん。もう勝った気でいるのか? 伝説……。いや英雄よ」


 ガーファリアは笑う。

 目の前に対する最大最強のアラフォー冒険者を見て。

 そして、その男の瞳からはすでに止めどなく涙が溢れていた。


「〝1人の殺害は犯罪者を生み、百万の殺害は英雄を生む〟。そうして英雄を皮肉る者がいる。しかし、それは本当のことだ。奪った命こそ価値を生む。しかし、誰もわからない。百万の命を奪った者の気持ちなど……。いや、ひと1人を奪った人間の気持ちすら人間は理解しようとしない。その者が何を背負って、何に苦しんでいるかすら知ろうとしない」


 だがな、ヴォルフよ……。


「お前は英雄で、そして仮にも勇者になろうとしたのだろう」


 受け止めろ……。


「そして支えてもらえ……。駆け足で走ってきた我と違って、1歩1歩、歩いてきたお前には、多くの仲間がいるのであろう」


 ヴォルフは涙を拭う。

 そして「はい」と短く返事した。


 ガーファリアは手を掲げる。

 生まれたのは、新しい曲剣だった。


 ヴォルフもまた同じく手を掲げる。

 現れた聖剣を握ると、刀とともに二刀を構えた。


 ガーファリアの表情には笑みが見えていた。

 神降ろしした身体を収縮し、肌の色味も元に戻っている。

 おそらく神降ろしをやめたわけではない。

 この短い時間に、ガーファリアの身体は適応したのだ。

 頭脳と才覚が卓越しているのであれば、その肉体もまた人波から外れていた。


 それでも身体がボロボロであることは間違いない。

 幾分目の焦点もあっていない。あれでは朧気にしか、ヴォルフを見えていないだろう。


 それはヴォルフも同じだった。


 両者の肉体はイーブン。

 得物の状態も等しいといっていい。

 才能も、そこに至るステータスもまた同じ。


 この一戦に賭ける気持ちもまた同じだった。


 互いに同等ならば、一体何が勝負を分けるのか。

 もはや、当事者でなければわからないことであった。


 勝つか負けるか。

 生か死か。

 存続か滅亡か。


 そしてついに決着する。


「ふう……。ようやく二刀に慣れてきた」


 それまで暴風のように振るうだけだったが、ヴォルフは少しコツを掴んできた。

 今までの腰を落とした構えではない。

 ほぼ自然体の状態で、握りは軽く、刃は下がったままだった。


「ほう……。ここに来て進化するのか?」


 この勝負――決着をつけるとしたら、今自分が立っている立ち位置からの進化であるかもしれない。


 そう思ったガーファリアもまた、力を込める。

 握っていた曲刀を細く、さらに長く持つ。

 刀身を長大にし、間合いの外からヴォルフを斬ろうと企てる。


 2人は走らず、ゆっくりと間合いを詰めていく。

 状況は一合目と似ていたが、2人から漏れ出る気迫はまったく違う。

 互いに肚を決める。世界の命運もあるだろうが、その前にお互い命がかかっていた。


 ガーファリアは曲刀を鞘に納めて進む。

 対して、ヴォルフは剣先を下げたままだった。


 言葉で説明するなら、ヴォルフは極限まで脱力していた。

 ヴォルフの膂力からすれば、二刀を持ち上げ、振るうことはさほど難しくない。 しかし、身体の連動のことを考えれば、どうしても力みができてしまう。

 一刀を振り下ろせば、続けて下ろした刀にまた力が入ってしまうという問題が起こっていた。


 解消するには、また長い時間の修練が必要になる。

 何故なら、ヴォルフは才覚こそあっても、やはりそれをモノにするには長い努力の時間が必要だからだ。


 故に、ヴォルフは委ねることにした。

 身体の周りに流れる空気、気配……。

 ガーファリアから感じる殺気、あるいは覇気……。


 それを敏感に察知しながら、空気の中に水の如く潜り、委ねる。

 身体を自然と一体と化し、あるがまま受け入れた。


 嵐のようなガーファリアの斬撃が迫ってくる。

 まるで曲刀に濃い大気の層を纏わせたかのように、剛剣が唸り上げた。


 いよいよヴォルフの脳天に曲刀が落とされる。

 対してヴォルフは再び聖剣を掲げた。

 シチュエーションとしては、武器を破壊された時と同じ。


 でも、今度は違う。


 ガーファリアから生み出された空気の流れ、戦いの流れに今度は逆らわない。

 振り下ろされる曲刀に対して、まともに取り合わず、まるで相手の得物をそっと横にどけるように優しく、軌道を変える。それはヴォルフが先ほど見せた【捌き(パリィ)】と似た技術だが、やっていることはそれ以上に高度なことであった。


 実際目撃したガーファリアも瞠目していた。

 だが、それ以上に驚いたのは、ヴォルフが自分に向かって迫ってきたことだ。

 最短最速の抜刀術である【無業】が、零距離からの攻撃ならば、今ガーファリアが感じたことは、零の向こう――――マイナスの距離といえばいいだろうか。


 そのヴォルフの気配が纏わり付いた瞬間、ガーファリアは光を見る。


 黄金色でも、真っ白でもない。

 いくつもの色の束が合わさったような虹色の光。

 黄金の先にある光を見て、ガーファリアは笑う。


「見事……」



 【無業】――マイナスの型――。



 気が付けば、ガーファリアは2つの牙に斬られていた。


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