第342話 才能という壁
☆★☆★ 明日発売 ☆★☆★
ついに明日5月15日単行本9巻発売!
『アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~』
書店に見かけましたらよろしくお願いします。
ヴォルフの人生において、『才能』とは最大の敵だったのかもしれない。
若くし冒険者となり、一山当てることを夢見た青年ヴォルフは、才能に敗れ去った。それでも若い頃は、強い反発心を持って、他人の評価を覆そうと躍起になって仕事をした。そのため死にかけたこともあった。
時は流れ、なんとかDランク冒険者になったものの、同じスタートラインから走り始めた仲間たちは先に行き、自分に教えた新人たちですら遥か彼方へと前に行ってしまった。
気が付けば、ヴォルフの周りにはたくさんの才気溢れる者たちがいた。
しかし、いつまでも同じところに立っていたのは、自分だけだった。
鋭く剣を振りたい……。
大地を割るような一撃を穿ちたい……。
魔力がほしい、大きな魔法を使いたい……。
ひと目見れば、相手の動きが読める目がほしい……。
そんな当たり前の欲望を思わなかったわけではない。
どれだけ自分を納得させたところで、才能という言葉を別の意味に置き換えたところで、恋い焦がれなかった日々はない。
埋めがたい差の中に、どうしても『才能』という言葉がちらついてしまうからだ。
ヴォルフは今でこそ彼は自他ともに認める才能の持ち主であった。
『才能』という呪いに苛まれつつも、それでもひたむきに男は己を信じ続けた結果、アラフォーにして芽生えたものだった。
でも、それは多分才能がほしかったからではない。
ひとえに『負けたくない』という、彼が生来から持ち合わせた気質によるものだった。
ヴォルフは何度も負けた。
それでも、今伝説へと至ろうとしている。
常人なら誰でも諦めていたであろうことを、彼は成して世界を救おうとしている。
ある意味、それは常軌を逸していた。
「来い! 聖剣よ」
ヴォルフは手を掲げる。
その瞬間、天が割れ、薄い膜のような光が差し込む。
隙間から現れたのは、一振りの剣だ。
ロングソードとクレイモアの中間にあるようなサイズの剣を、ヴォルフは手に取る。いや、まるで吸い込まれるようにその手に収まった。
ヴォルフは軽く振ると、剣は星の瞬きがごとく閃く。
懐かしさのあまり、少し目を細めた。
それはいつぞやヴォルフがマザーバーンを討伐した折、レミニアが贈った聖剣と相違なかった。
もう片方の手にカグヅチを握る。
(盗賊団を倒した時は、妙に馴染むと思ったが……)
二刀は【灰食の熊殺し】と戦ってから、1度やっていない。あの時、妙にしっくりくる感覚があったが、今再び試してみると、やはり悪くない。
(二刀の方があってるのか?)
不思議な感覚を感じながら、前を向く。
神を降ろしたガーファリアは、愉快げに笑っていた。
「聖剣か。それは恐らく娘の力だな。二刀となり随分と勇ましくなったものだが、お前に使いこなせるのか? あるいは二刀となり力が二倍になったと阿呆なことを考えているのではおるまいな」
「使いこなせるさ」
ヴォルフは聖剣と刀を掲げる。
「これは俺が愛する者と、そして愛してくれた者が作ってくれた武器だ」
そう。ヴォルフを側で支え、その力を認め、ヴォルフのために拵えてくれたもの。
使いこなせないわけがない。
もはや、これはヴォルフの手足そのものなのだから……。
「行くぞ、ガーファリア。いや、この世の神そのものよ」
ヴォルフは再び戦場を走り出す。
二刀にするには、少々不慣れな形状の二振りの得物。
しかし、ヴォルフの動きは水を得たように速い。
気が付けば、ガーファリアの動体視力を超えて、その背後に回る。
ガーファリアは動物的な本能で、一刀目の攻撃を防御した。
だが、今ヴォルフにはもう1本の牙がある。
ヴォルフはさらに踏み込む。
残っていた聖剣をガーファリアの方に叩き落とした。
斬ることこそまだ叶わなかったが、衝撃は凄まじい。
ガーファリアはたまらず肩を押さえながら、呻き、ついに仰け反る。
その好機を逃すヴォルフではない。
後ろに下がったガーファリアを追い詰める。
今度は刀を振り下ろした。
まだ攻撃は終わらない。
次に聖剣の横薙ぎ。また刀の切り上げ、聖剣の右切り下げ。
まさに縦横無尽に一回り大きくなったガーファリアの身体を切り刻んでいく。
その速さは神の理解を超えていた。まさに超神速であった。
調子よく斬っていたが、ガーファリアもただ黙って斬られていたわけではない。
ヴォルフの斬撃を読むと、カウンターを用意する。
「調子に乗るでないわ」
指先をヴォルフに向ける。
踏み込んできたタイミングに合わせて、ヴォルフの額にデコピンを見舞った。
凄まじい膂力に、あっさりとヴォルフはひっくり返る。
さらにガーファリアは追撃のストンプを食らわそうとするが、ヴォルフは転がりながら横に避けた。
一旦立て直しを図るヴォルフは、距離を取り、ガーファリアを見つめる。
あれだけの連撃を加えても、ガーファリアの肉体に致命傷は出ていなかった。
血こそ派手に出ているが、やはり肌を薄く切った程度である。
今、神を降ろしたガーファリアに出血多量による死を望むことができるのかと言われれば、否だろう。
(一撃だ……。やはり一撃にかけるしかない)
ヴォルフは覚悟を決める。
集中し、そしてあの感覚を呼び覚ます。
黄金の――――勝利の道をたぐり寄せた。