第338話 Last Battle
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ハッとヴォルフは目を覚ました。
自分が何故寝ていたのか。そんな疑問の余地すらなく、己の視界に映り込んだ世界に驚く。
それは荒涼とした世界でも、破壊された世界でも、あるいは新世界を予感させる光景が広がっていた――わけではなかった。
ヴォルフの前にあったのは、ひたすら真っ白な世界だった。後ろを見ても、右を見ても、左を見て、天を仰いでも白。硬い石のような感触は感じるのに、立っている場所もまた真っ白だった。
「こ、ここは?」
「起きたか、伝説」
聞き覚えのある声に、ヴォルフは息を呑んだ。振り返ると、1人の男が胡座を掻いて座っていた。特徴的な黄金色の髪を見た時、ヴォルフは声を震わせる。
「ガー……ファリ……ア……殿下?」
「久しいな、伝説」
バロシュトラス魔法帝国皇帝にして、【大英雄】の異名を持つ名君。その力はSSクラスであり、唯一【大勇者】レミニアと対等に戦えるといわれた男だった。
「しかし、あなたは……」
「死んだか。……ああ。してやられた。まさか自分の秘書に首をかかれるとはな。何か裏がある女であることは知っていた。故に手元に置いていたのだが、少々見くびっておったわ」
「……」
「いや、お前の質問に答えていないな。その通り、余は死んだ。だが、またお前の前にこうして立っている」
「ここはどこですか、陛下?」
「まだ余を陛下と呼ぶか。律儀だな、お前は。あの時、余が勝っておれば、あの世界で余こそがハッサルである、神になっていたかもしれないというのに」
「あの……」
「ああ。すまぬ。またお前の質問に答えていなかったな。答えは知らぬだ。余も気が付けばここに立っていて、そして目の前に伝説――――お前がいた」
どうやらガーファリアもここがどこかわからぬらしい。しかも、己が何故生きているのかすら理解できていないようだ。
ヴォルフはもう1度周りを見渡すも、何も変化はない。ただただ真っ白な空間が永遠と続くだけだ。見ているだけで気が狂いそうになる。
1つ理解できることがあるとすれば、地獄でも天国でもないことだった。
「ただ余が何をすればいいのかは理解している」
そう言って、ガーファリアは突然腰に佩いていた刀を抜く。ヴォルフは驚く。皇帝陛下が刀を抜いたことよりも、いつの間にか腰に刀を下げていたのかわからなかったからだ。
(最初見た時、武器を持っていなかったはずだが……)
頭の中で己に確認するように呟くも、どうしてそうなったのかわからない。一方、戸惑うヴォルフを見て、ガーファリアは愉快げに笑い、言葉を続けた。
「立ち合え、伝説」
「え? どういうことですか?」
「そなたの娘――【大勇者】がしでかしたことは知っている」
「しでかしたこと? ストラバールとエミルディアの融合のことですか?」
「それよ。……世界を作り替える。随分と大それたことをしたものだ。顛末を見届けることができなくて、実に残念だ」
反応を見て、ヴォルフはガーファリア本人であることを確信した。深く知っているわけではないが、今の言い方は尊大でありながら童子のような心を身に帯びている皇帝陛下っぽい反応だったからである。
「だが、世界を作り替える。それはもはや神の所行だ。故に神は怒っている。所詮神に命を作られたもの程度が、神と同じ所行をなすとは何事か、と」
「お待ち下さい、ガーファリア殿下。レミニアの柔軟な発想がなければ、ストラバールもエミルディアも」
「知っていると言った。だが、神は怒っている。故に余を差し向けた」
「何故、ガーファリア」
「簡単だ。これは試練だ、伝説。そなたら、この神の所行を行って良いものか。余はその試験役と呼ばれたに過ぎぬ」
はっきり言って、ヴォルフは展開についていけていなかった。何故、人が生きるために試練を受けなければならないのか。何故、ガーファリアと立ち合わなければならぬのか。まるで理解できていなかった。
ただガーファリアが嘘をついていないことはわかっていた。
「傲慢ですね」
「余か。それとも神か?」
「どっちも……。いえ。神様の方でしょうか?」
「気を遣うな、伝説。余は怜悧にして、明晰である。故に余のことは誰よりも知っている」
「傲慢であることがですか?」
「その通りだ。だからこそ、余がこの試練を請け負う代わりに、余の願いを聞き届けてほしい、と。即ち――――」
余を神にしろ、と……。
ヴォルフは息を呑む。
それはガダルフが、そしてハッサルが望んできたことだったからだ。
ガダルフは世界を壊すために唯一神になろうとした。ハッサルは己の力を証明するために神になろうとした。
そして、またここに――いや、ヴォルフの前に神になろうとしている者がいる。
「神はあなたになんと答えたのですか?」
「ふん。勝ったら考えてやると抜かしおった。傲慢の極みのような存在だな。ヤツらの駒となって生きているのが馬鹿らしく思えるわ」
ヴォルフはまったく同感だった。
「ちなみに俺が勝てば、エミルディア……いや、みんなはどうなりますか?」
「知らぬ。だが、勝者にふさわしい対価が払えなければ、余に言うがいい。その時は一緒になって、神とやらに叛逆しようではないか」
「はは……」
ヴォルフは思わず笑った。
訳のわからない状況でも、今目の前にいるのは、ガーファリア陛下で間違いないことを確認できたからだ。
(それ故、やりにくい……。でも――――)
ヴォルフは腰に手を伸ばす。
スルスルと抜き身の獰猛な刃が白い世界で光る。
それを見て、ガーファリアは笑った。
「そうだ。ヴォルフよ。そうこなくては面白くない」
「あなたとの決着がまだでしたから」
「ああ。そうだ」
「俺が言うのもなんですが、強くなりましたよ」
「知っている。故に楽しみだ」
こい、【剣狼】……。その牙に己のすべてをかけるがよい!!








