第336話 決着と滅びの時間
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ストラバール全域に放たれた光は、大地を走り、一瞬にして一点に集約されていく。その点にいたのは、1人の冒険者で、1人の英雄で、娘にとっては勇者であった。
「おおおおおおおおおおおお!!」
中心にいたヴォルフは吠える。
狼のように雄々しく、猛々しく。
ハッサルから離れた9つの魔法でできた収束砲を徐々に押し返していく。
そこに7人の乙女たちの声が重なった。
うおおおおおおおおおおおおおお!!!!
大地の咆哮を思わせる叫びと力は確実に英雄の手を通して、発揮される。ストラバールを破壊しかねなかった九尾の狐の力は、ついに放たれ、そして元にあった場所へと返された。
黄金に染まった九尾狐の毛が白銀に覆われる。大口を開いた表情は、そのまま白の波に呑まれていき、轟音とともに光に包まれていった。
「ぎゃああああああああああああああ!!」
空中で大爆発が起こる。
その爆風は暴れていた大気をさらにかき混ぜ、地面を大きく震動させた。
「やったか……」
ヴォルフは膝に手をつきながら、息を整える。すべての力をヴォルフの手にのせた乙女たちも、腰砕けになり、その場で尻餅をついた。
皆が見上げたのは、空にできた巨大な爆煙だ。すると、煙から何かが落ちてくる。黒い影はそれ自体大きいものだったが、意外と軽い音を立てて、地面に墜落した。
見えたのは黒く煤けた肌と、若干残った黄金色の毛。鋭い牙が生える口と、この世のすべてを憎んだかのような瞳だった。
「ハッサル……さん……」
ヴォルフたちの前に現れたのは、もはや顔と首の一部だけになった痛々しい九尾狐の姿であった。
しばしヴォルフとハッサルの両者は睨み合っていたが、突然後者が苦しみ出す。何度か嘔吐いた後、ハッサルは吐き出した。現れたのは、黄金色に輝く水晶――完成系賢者の石だ。
「これは返してもらうわよ」
レミニアはたった今、ハッサルの口から吐き出された賢者の石を、ハンカチで掴む。
その行動をハッサルは忌々しげに見つめているだけだった。
「そんな顔をしてもダメよ、ハッサル。あなたの負け。あなたは待ちすぎたわ。わたしや、パパがいない世界だったら、あなたはちゃんと…………」
魔王になれたはずなのに……。
「ふふ……。アハハハハハハハハハ!!」
ハッサルは笑う。
全身はボロボロというよりは、すでになく、もはやどうやって生きているかすらわからない。その生存能力に脱帽を禁じ得ないが、今笑っている九尾狐には確かな余裕があった。
ハッサルはレミニアを、いやその場にいるすべての生きとし生けるもの、あるいは世界そのものを憎むかのように強く睨みつけた。
「確かに……。私は負けたわ。でも。自分のやりたかったことは達成できた」
ハッサルの首はごろりとその場で転がり、空を見つめる。すべてが真っ暗になった空には、荒廃した大地が広がっていた。生命の息吹はなく、まるで世界そのものが白骨化したかのようにすら映る。
「確かに私は魔王にはなれなかった。自分の意のままにできる世界は作れなかった。それは認める。だが、お前たちも同様だ。ヴォルフ・ミッドレス……。お前も世界を救えなかった」
ハッサルは空を見ながら満足そうに、しかし薄暗く笑みを浮かべる。
「英雄だと? 違うな。ヴォルフ・ミッドレス。お前は英雄などではないよ。結局、お前がやりたかったことは叶わなかった。やはりお前は偽りの英雄。……悲劇の中でしか躍ることしか許されぬ村人なのよ」
そしてハッサルの哄笑が高く高く響く。
ハッサルがいったことは単なる事実だった。ハッサルはこれまで悪あがきをしていたわけではない。確実にストラバールを滅ぼすために、己に注意を向けていた。すべてはこの世界を破壊するため、自分好みの、自分のわがままを押し通すために……。
「これでいいのよ。私が輝けない世界なんて滅んじゃえばいい」
「滅ばないわ」
力強くハッサルの言葉を否定したのは、レミニアだった。
「世界は……、ストラバールはまだ救える」
レミニアは先ほどハッサルから回収した賢者の石を見つめる。【大勇者】の言葉に、他の者たちは懐疑的だった。ヴォルフが育んだ賢者の石は確かに戦力になるだろう。だが、今ストラバールに降りかかろうとしているのは、大地の形をした愚者の石……。その力がどちらが強いかは、子どもでもわかる。
「強がりね、【大勇者】」
「そう。わたしは【大勇者】。皆からそう認められたからには、勇者として恥じない活躍をしないとね」
レミニアは片手に賢者の石を持ちながら、呪文を唱える。その瞬間、彼女の周りに魔法陣が広がった。単なる魔法陣ではない。それは地平線の彼方まで広がるような大規模な魔法陣だった。
「これは……!」
「いつの間にでござるか?」
エミリの疑問に答えるならば、ヴォルフがハッサルと戦っている時だ。いや、そもそもレミニアたちは賢者の石を大量に作って、エミルディアを弾き返そうとしていた。その時の魔法陣を書き換えたのだ。わずかな時間で……。
「何をする気だ、レミニア・ミッドレス」
「わからないわよね。それがあなたの【千里眼】の限界。あなたは自分が理解できないものを、予測できない。その未来を視ることができない。パパや、わたしの力、ルネットの読みの力を超えることはできない」
「ぐっ……」
「特別に教えてあげる、ハッサル。まさに天才レミニア・ミッドレスちゃんならではの発想よ。ママの二重世界論にも書かれていないことよ」
「教えろ、【大勇者】。貴様、何をするつもりだ」
「興奮しないでよ。単に賢者の石を反転させるだけ。そう……」
愚者の石を作るだけよ。








