第335話 千変万化
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
『アラフォー冒険者、伝説となる』単話版48話が更新されました。
47話を読まれた方は気づいたかと思われますが、
WEB版とは少し違った新シナリオとなっています(このために書き下ろしさせていただきました)。
いよいよ48話では、因縁のあいつと対峙します。
どうぞご期待ください。
「まだ変身しよるんかいな」
ハッサルの高まる魔力を敏感に感じながら、クロエは悲鳴を上げる。他の者も呆然と肥大していくハッサルの姿を見ていた。ヴォルフも愛刀を握りしめながら、その様子を伺う。
神妙な表情を浮かべたのは、人工的に賢者の石を生み出したレミニアも同じだった。
「パパと一緒よ。賢者の石に馴染んできているんだわ」
賢者の石は、もはや言うまでもなく巨大な力を秘めている。それを受け止めるには、ヴォルフのポテンシャルを以ても10年以上の歳月が必要だった。
ヴォルフですら10年かかった時間を、ハッサルはたった数秒で短縮しようとしている。
「そんなことができるのか?」
「【千里眼】よ」
ヒナミの質問に、レミニアは短く答えた。
「【千里眼】にはなんらかの制約があるといっても、その力は本物よ。……おそらくハッサルが見ているのは、未来の自分」
「未来の自分?」
「未来――――賢者の石に順応した自分の姿を参考にして、順応させている。おそらく、それがハッサルの本来の能力なのよ」
「変化する未来に対して、自分の身体を順応させる能力……でござるか。まさに――――」
「化け狐やな」
クロエが吐き捨てると、ハッサルの笑い声が響き渡った。
「アハハハハハ!! さすが【大勇者】……。私の能力を見破るとはね。そう。私の能力は1つじゃない。【千里眼】、そして【千変万化】。いくらあなたたちが、私が見た未来を書き換えようとも、この【千変万化】が必ずあなたの上を行く」
巨大な九尾狐となったハッサルは目を細める。
「言ったでしょ。もうあなたたちに未来はないのよ」
空中に浮いたまま、ハッサルは九尾を立てる。それぞれの尾に宿したのは、9つの魔力の性質。即ち火・水・風・土・雷・氷・光・闇・無の属性。その全てに10階梯以上の魔法の力が宿していた。
「食らいなさい。これは神からの罰よ」
一斉に地上に向かって解き放たれる。
9つの力は収束し、1本の光の束になる。その輝きはストラバールの大地を覆い、すべての生物、あるいは世界そのものを白く包んだ。
もはや人の終わりすら想起させるそれが、大地を穿った時、とてつもない衝撃が大地を割る――――はずだった。
パパ!!
レミニアですら一瞬死を覚悟した時、白銀の世界で1人、巨大な魔法の収束砲の前に立って、防いでる男の姿があった。
言うまでもない。それはヴォルフ・ミッドレス。レミニアの父だ。
「馬鹿な!!」
ハッサルもヴォルフの姿を見つけて、悲鳴じみた声を上げる。10階梯の魔法1つでも地平を焼くことができる威力。しかし、ヴォルフはその9つ束ねた光を防いでいた。
しかも、素手で……。
「ハッサルよ……」
「な、なに……」
「こんなものかお前の力は……」
「何を言っている」
「聞こえなかったのか」
お前が見た、未来の自分の力はこんなものかと言っている!!
ハッサルの顔が上がる。
光の中で、その表情はハッキリと赤くなっていた。
「調子に乗るな!! ロートル!!」
ハッサルはさらに力を搾り出す。
自分の中に埋め込んだ完成系の賢者の石に命じて、その力を限界まで引き上げた。
光が強く、大きくなる。
すでにストラバールは壊れる1歩手前まで来ていたが、地は割れ、風がさらに荒れ狂った。
しかし、ヴォルフは引かない。
1歩も……。その表情には余裕すらあった。
「ハッサル、あんたの敗因は未来を見えすぎたことだ」
「敗因……? まだ勝ってもいない癖に」
「自分の力に溺れ、あんたは自分が通れる場所を探して進んでてきた。それも、人の生き方だろう。俺は否定しない。でも、俺からすれば哀れだ」
「哀れ……?」
「人にはそれぞれの未来がある。いつかその未来が交差し、戦うこともあるだろう。どれだけ探しても、通れない道を通らなければならないことがある」
「千年、いや万年生きてきた私に説教するのか、ロートル冒険者が!」
「そこは称賛に値する。長い時の中で、必ず自分の欲しい未来を引き寄せたお前の執念には……。でも、それが過ちだ。お前が最初から通れない道を通る力を身につけていれば、とっくにお前は自分の掴みたい未来を掴んでいたはずだ」
ヴォルフ・ミッドレスという最悪の敵に出会わなく済んだのだ……。
「黙れ! 貴様とて娘に恵まれ、己の身体のポテンシャルに恵まれて、英雄をやっているくせに」
「それは――――」
「違うでござる!」
断言したのは、エミリだ。
そっとヴォルフの手を取りながら、ハッサルに訴えた。
「ヴォルフ殿はずっと努力していた」
「あんさんと違って、謙虚なお人やった」
「妾のワヒトを救ってくれた」
「ヴォルフさんは私にも、どんな人にも優しい人です」
「師匠はどんな時でも、あたしの面倒を見て、気にかけてくれた」
クロエ、ヒナミ、アンリ、イーニャがヴォルフの手を取る。最後にヴォルフの手にのったのは、誰よりも小さく、しかしヴォルフがよく知る手だった。
「パパはどんな時でもわたしのために立ち上がってくれた」
レミニアの手が重なる。
ヴォルフ・ミッドレスは英雄としての資質があった。しかし、本人すらその資質を知らずに、40歳を超えた。
だが、今ヴォルフは世界の命運を握った戦場に立っている。
今まさに伝説を作ろうとしていた。
「ハッサル、俺は生まれた時から英雄だったわけじゃない。冒険者になった時も、レミニアの父になった時でもない。今だ……。今やっと俺は――――」
英雄になれるのだ!!
「役立たず王子のおいしい経営術~幸せレシピでもふもふ国家再建します!!~」という作品という新作を書き下ろしました。第2章まで完結しているので、是非読んでくださいね。








