第334話 〝龍〟を飼う男
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
BookLiveにて『アラフォー冒険者、伝説となる』単話版47話が更新されました。
新章になるということで、扉絵が一新です。
この眼帯ヴォルフが、かっこよすぎない!?
中身も少しWEB版とは変わっていますので、是非読んでくださいね。
「前から底知れぬお方やと思っとったけど……。まさか神代のバケモノとやれるお方やったとは」
今戦っているヴォルフの姿を瞼の裏から見届けるクロエは、息を呑んだ。ヴォルフの復活は喜ぶべきことだろう。しかし、目が見えぬ剣士の表情に歓喜の色はない。むしろヴォルフが開放した、そのポテンシャルに震えてさえいた。おそらく目が見えない彼女だからこそ、ヴォルフの「気」を捉えることできたのだろう。
(まるで龍やな……)
クロエはワヒトに伝わる想像上の幻想種の名前を出して、ヴォルフの身体の中で暴れるものの正体を言い当てる。
「でもよ。ヴォルフ師匠の力は、ちょっと強すぎないか。なんというか、人間を超えてるつーか?」
イーニャは首を傾げる。
レミニアやハシリーなどの天上族のハーフや、天上族そのものならわかるが、ヴォルフの力は常軌を逸している。イーニャから見ても、おそらく現時点において人類最強なのは、ルーファスで間違いない。でも、ヴォルフの力はその上を軽くいく。
ルーファス以上となれば、それこそ人間の身体を持たない。転生するかあるいは似た方法で、別の身体になるしかない。
「私が思うに、隔世遺伝というヤツじゃないからしら」
ルネットがルーファスを担いで戻ってくる。ルーファスは傷を治療され、すでに意識が戻っていた。その視線は、ハッサルと戦うヴォルフへと向けられている。
その相棒であるルネットは説明を続けた。
「ヴォルフさんの力は人族や獣人のそれとは比較にならない。でも、何代も前に特殊な血筋の先祖がいたりすれば、話は変わってくる。そう例えば……」
ルネットはヴォルフの戦いを見守るレミニアの方を見つめる。
「レミニア……?」
「レミニアとヴォルフ殿に血縁関係があるわけではないのでござる」
「エミリ、ちょっと急ぎすぎ。あの親子に直接的な血縁関係はない。でも、それがもっと前であれば、どうかしら?」
「あ。そういうことか!」
ルネットが何を言いたいのか、最初に気づいたのは、アンリだった。
「ヴォルフ殿の先祖の中に天上族がいたのですね、ルネット様」
「その通りよ、アンリ姫」
「しかし、そんな都合良く天上族の先祖なんているものか?」
いまいち話についていけないヒナミが首を傾げた。
「いや、私たちはもう知ってしまっている。レミニアの母親――そう。オリジナルのレミニアよ」
『……!?』
「天上族っていっても、完璧じゃないことはもうみんな知っている。そして何より長生きよ。100年単位で生きていれば、人恋しくなることだってあるし、家族を持つことだってある。実際、レミニアちゃんは人族とのハーフなわけだし」
つまり、ヴォルフの先祖とはオリジナルのレミニアである可能性が高いということだ。
「それって……」
アンリの視線が、ヴォルフとレミニアを言ったり来たりする。
「アンリ殿。ヴォルフ殿とレミニア殿はルーツが同じだけあって、血縁関係が同じというわけではないでござろう」
「エミリの言う通りよ。そもそも私が言っていることはあくまで仮説……。真相はわからない。でも……」
確かにルネットの説明はあくまで仮説。もっといえば、妄想の類いに近い。
だが、ヴォルフとレミニアが近いところにあるからこそ、レミニアはヴォルフのポテンシャルに気づくことができたのかもしれない。
それはハッサルがいう因果……。
時空を超えて、本当に奇跡的にこの二人を引き合わせたというしかない。
「よく考えたら、あの2人って……。本来は血縁関係がないんですよね」
アンリの言葉に、ヴォルフを慕う者たちは密かに戦慄する。
レミニアはあくまでヴォルフの娘。いくら2人が近しく、慕っていたとしても、親子であることは間違いない。その年の差にとっても同じ……。
それでも、2人の運命的なものを考えた時、神がヴォルフとレミニアの縁を引き寄せ合おうとしているように思えてならなかった。
「今、祈るでござるよ。必勝を……」
「エミリ」
エミリが手を合わせるのを見て、アンリも手を組み、ヴォルフに向かって必勝を祈願する。
いつしかその場にいる全員が、神狐と戦う1人の英雄の勝利を祈った。
「ああああああああああああああ!!」
ハッサルは叫ぶ。
守勢に回り、そのヴォルフの圧倒的な力に苛ついているのではない。いや、それも1つの要因だろう。
ハッサルが今、懸念するのは覚醒したヴォルフの力というわけではなく、賢者の石だった。
「これ程の力とは……」
ヴォルフの中にあった真の賢者の石。その力が暴走しつつあったのだ。
「こんなものを身に宿していただと……。この男、一体何者だ!!」
「馬鹿ね、ハッサル」
「【大勇者】か!?」
「それはパパの中で育った賢者の石……。いわば、パパ専用の賢者の石なのよ。あなたに使いこなせるわけないじゃない、ケダモノ!」
「黙れ!!」
ハッサルは大きな尻尾(というよりは、巨大で鞭のような何か)を振り下ろす。しかし、それを弾いたのは、ヴォルフだった。
「娘を傷付けさせないぞ、ハッサル」
「パパッ!!」
「この親が……!」
「焦ってるな、ハッサルさん。いや、ハッサル……。初めて会った時は驚かされた。未来が見えると……。でもあんたには見えないものがある」
「黙れ……」
「ハッサル、あんたはこの展開になることを読めていたのか?」
「黙れぇぇええええええ!!」
ハッサルが咆哮する。
その身体はさらに異常に、異質に膨らんでいくのだった。








