第333話 語られる真実
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
『アラフォー冒険者、伝説となる』単話版46話が更新されました。
今月発売されました第8巻の続きとなります。
8巻最後に見えた激おこレミニアを見ることができますので、
是非読んでくださいね。
ヴォルフの秘密に最初に気づいたのは、やはりレミニアだった。
きっかけは彼女が5歳の時だ。
村がベイウルフに襲われ、そして父ヴォルフがそのベイウルフ撃退のために戦った時である。
なんとかベイウルフを倒すことができたものの、ヴォルフは重傷を負った。レミニアは必死に覚えている限りの魔法を使って、ヴォルフを治療したが、その時才女はヴォルフの身体を診て、初めて気付いた。
「なに……。この人の身体……」
元はDランクの冒険者で、最近ようやく30歳を超えた男が、ベイウルフに勝てることは異常と言ってもいい。しかもベイウルフもただのベイウルフではなかった。所謂、異常種といわれる突発性強化魔獣だったのだ。
ランクはS。ヴォルフはそれに勝ったのである。
しかし、レミニアが驚いたのは、それだけではない。
「どうして、こうなったの? この人の身体……バラバラじゃない。いや、そもそもよくこんな身体で普通の生活をしていたわね」
有り体に言うと、ヴォルフの身体は死にかけていた。
いや、たった今ベイウルフとの激闘を制し、辛くも勝利したばかりだ。あちこちに裂傷があり、爪の傷は内臓付近まで届き、折れた骨が心臓に突き刺さっている。誰から見ても、半死半生の状態だ。
だが、それ以上に深刻だったのが、ヴォルフの身体があまりにバランスが悪いことだった。
筋肉の発達の仕方、骨の強さ、魔力を蓄える器官である魔力回路……。それらがヴォルフが持っている本来のポテンシャルに、まったくそぐわないのである。
人間のポテンシャルというのは、必ずしも肉体の強さとイコールではないことは、レミニアは知っていた。人間の強さとは、魔力でも筋力でもなく、言わば空気のようで見えないものだ。レミニアはそれを「気」と名付けていたが、ヴォルフのそれはあまりに膨大だった。
本来、その「気」の出力はやはり人間の筋肉や骨格の限界によって、強さが決まる。おそらくだが、ヴォルフはベイウルフとの戦いにて、その限界を超えたのだろう。おかげでベイウルフ討伐という望外の奇跡に至ったわけだが、「気」の方から無理やり間口が広がり、身体が今にも弾ける寸前だったのだ。
「回復魔法が効かないはずだわ。むしろ回復魔法は破裂しそうになっている間口を広げかねない……でも――――」
このままではヴォルフ・ミッドレスは死ぬ……。
それだけは絶対にできない。
これほどの才能を……。
自分を守ってくれた英雄……。
なにより……!
自分を娘として大事に育ててくれている父を見殺しにできない!!
「考えなさい、レミニア・ミッドレス! 何かあるはずよ。この……いや、わたしのパパを助ける方法が……。だって、そうでしょう。わたしは天才なんだから! パパが認めてくれた!!」
レミニアは考えに考えた末、1つの結論づける。
「『気』の暴走はもう止められない。なら間口自体を再建するしかない。今より頑丈に……。 強化するしかない!」
レミニアは自分の知る限りの魔法で、まずヴォルフの身体を強化した。身体に空いた無数の穴すべてに、蓋をするように多くの強化系魔法をかけた。
だが、それでもヴォルフの身体の暴走は止まらなかった。
そしてレミニアは最終手段を下す。
「頼んだわよ」
レミニアはSランクのベイウルフから賢者の石を、母親が残した本から見よう見まねで作り上げる。未熟な賢者の石は、その後ヴォルフと一緒に成長したことは、ガダルフ戦で証明されたが、本来の目的はヴォルフの身体を強化するためであった。
埋め込みは成功。
「あとは、パパ次第……。お願い。戻ってきて、わたしの勇者様……」
レミニアは祈った。
◆◇◆◇◆
祈りは天に通じた。
そして今、ヴォルフは災厄の敵たるハッサルと戦っている。もはやどう形容していいかわからぬ異形、そして異形……。
そのハッサルを前にして、ヴォルフは善戦していた。
賢者の石もなければ、娘の強化魔法すら存在しない。
しかし、その動きは鋭く、その剣は力強い。
圧倒するヴォルフを見て、レミニアは思わず鳥肌が立った。
「懐かしいわね。あれは【勇者】様との戦いだったかしら?」
今の戦いはあの時と似ている。
ヴォルフは強化魔法が切れた状態で、当時最強と謳われていた【勇者】ルーファス・セヴァットと戦った。
本来であれば、強化魔法が切れたヴォルフは動くこともままならないはずだ。それどころか、いつかのように身体がバラバラになっていてもおかしくなかった。
だが、ヴォルフはルーファスに勝つ。
すでにこの時から、ヴォルフには自身の「気」を受け止めるだけの肉体が備わりつつあった。
「パパは冒険者の時、平凡だったのも頷けるわ。おそらく身体と『気』のバランスがあまりに悪くて、成長できなかったのよ」
当人はそれなりに努力しただろうが、それは逆効果でしかなかった。結局身体がその「気」の力を受け止めきれず、空回りするばかりだったはずだ。
うまく身体を動かせない自分に、ヴォルフは次第に自身の才能に自信をなくして、ついに冒険者を廃業する。仮にその冒険者を続け、40を超え、60、70という年まで続けていれば、ヴォルフは大成していたかもしれない。
だが、それはあまりに非現実な選択肢だった。
そのヴォルフは羽が生えたかのように動き回っている。
「強化がなく、ずっと身体に栓をしていた賢者の石もなくなった。馬鹿ね、ハッサル。パパを強くしたのは、今のあなたよ」
「れ、【大勇者】めぇぇえええええええええええええええええ!!」
ハッサルの悲鳴が響く。
レミニアを狙おうとしたが、そこにヴォルフは躍り出た。
「よそ見をしている場合か、ハッサル。ようやくだ……」
やっと身体が温まってきたな……。
ヴォルフの瞳が狼のように閃いた。








