第331話 神に至りし者
☆★☆★ 第8巻 本日発売!! ☆★☆★
『アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~』
単行本8巻、本日発売です。
あまり原作者の自分がこういうのもなんなのですが、
この8巻のゲラを読んだ後に、「自分史上の中で最高8巻だな」と素直に思いました。
多分ここまで読んでいただいてる読者の中には、1巻から応援いただいてる方がいると思いますが、是非この8巻だけでもいいので、布教いただけると嬉しいです(勿論1巻からでも可!)
タッ公先生の渾身の8巻をよろしくお願いします。
ハッサルの太い首から鮮血が飛び散る。普通の人間であれば、それだけの血が飛べば、死に至るだろう。しかし、ハッサルの目は死んでいない。舐めるな、とばかりに九尾を振った。
ルーハスを打ち倒すかと思ったが、横手から影が現れる。
「妾らを忘れておらんか?」
「うちも忘れてるで!」
「私も忘れてもらっては困りますね」
「助太刀いたす!!」
ヒナミ、クロエ、アンリ、エミリーが飛び出す。さらに続いたのはルネットたち――五英傑だ。
「あたしたちもお忘れなく」
「おらぁああああああああああ!!」
「うららららららららら!!」
8人はルーハスを打ち倒そうとしてた9本の尾に向かって行くと、それぞれの得意技を以て弾いて見せた。ルーハス自身も最後に残った1本を切り裂く。
カウンターを食らったのは、結局ハッサルの方だった。
「くぞっ! 貴様ら!!」
溜まらず、ハッサルは逃げの一手を取る。 その顔には珍しく焦りが浮かんでいた。
「なんでだ? どうして私の予測が外れる? こうもことごとく……」
「ふん。決まっている」
ルーハスは刀の先をハッサルに向けた。
「お前は人間を舐めすぎた」
「人間を……なめ…………」
「人の人生などままならぬものだ。それが当然のこと。自他問わず、予測どおりに行く道など、どこにもないのだ」
「実感こもってるわねぇ、ルーハス」
ルネットは腕を組みながら、ニヤニヤと笑う。小さく「黙れ」と怒られていた。
しかし、もっとも怒りを示していたのはハッサルだ。巨体を揺らし、傷付いた尾をバタバタと動かしながら、つり上がった瞳をルーハスたちに向ける。
「黙りなさい。私の予測はね。あなたたちのような夢や希望といった甘いものではない。決定的な未来の情報なのよ」
「そう思うなら、人間を倒してみろ!!」
ルーハスを先頭にして、8人の戦士たちは飛び出していく。かつての英雄たち。【剣聖】と呼ばれる少女。復讐に身を焦がした刀士。公爵家の令嬢。天才と謳われる刀匠……。
それぞれの想いは今1つだけだが、今ここで得物を振るっているのは、1人の男との出会いがきっかけだった。
ヴォルフ・ミッドレス……。
それぞれが彼を出発点として、世界を救う戦いに身を投じていた。
「ぎゃあああああああああ!」
8人の戦士による同時攻撃。
断続的に続く攻撃に、ハッサルが強奪した完全体の賢者の石の効果も追いつかない。治しても、傷付けられ、さらに身体を大きくしても、より大きな力で圧倒される。
「何故だ!? 私が何故!?」」
ハッサルは叫ぶ。
そこに迫ったのは、ルーハスだった。
「予測はできてもわからないか。あるいは認めたくないのか? 答えは簡単だ……」
お前が弱いからだ。
ルーハスの剣から渦を巻いた暴風が立ち上る。すべての魔力を注ぎ込んだ一撃を、ルーハスの頭から叩きつけた。
「ぎぃぃいぃいやあぁあぁああぁああ!!」
ハッサルの末期の悲鳴が響き渡った。
まさしく一刀両断された九尾の狐は、暴風に切り裂かれながら咆哮を上げる。巨躯は真っ二つとなり、荒野に沈んだ。
『おおおおおおおおおおおおおおお!!』
どこからともなく歓声が上がる。
戦況を見つめていた世界中の強者たちは拍手を送り、8人の戦士を讃えた。しかし、その戦士の顔は浮かない。それぞれの視線は倒れたヴォルフ・ミッドレスに向けられた。
「ヴォルフ殿……」
いの一番に駆けつけたのは、エミリーだ。恋人ととなったヴォルフを心配する。外傷はレミニアによって塞がれているが、憔悴しきっているのか、その目は硬く閉じられていた。
「エミリー……」
「おお。ヴォルフ殿、意識が……。大丈夫。今、ルーハス殿が仇を討ったでござるよ」
「…………て」
「え?」
「気を付けて」
「それは……」
次の瞬間、ルーハスたちの背後で殺気が膨れ上がる。同時に大きな影が増殖していく。言葉通りの意味だ。何かが立ち上がったわけでも、伸びていったわけでもない。影が増殖していく。そのおぞましい光景に、ルーハスたちは一気に表情を引き締めた。得物を再び握り込み、その影の正体を見つめる。
ハッサルらしきものが増殖を繰り返していた。黄金色の毛は血や汚物でグロテスクに染まり、内臓が何個もできては、皮膚を貫いている。九本の尾は、50本どころか200本以上生まれ、さらに小さな尾が1000本生まれているような状況だった。
筋肉は肥大を続ける一方、それ以上溢れ続ける魔力を抑えきれず、膨張は続いていく。
美しさと妖艶さすら兼ね備えた妖狐の姿は消え、ただただ化け物が生まれようとしていた。
やがて狐の顔の下から生まれたのは、ヴォルフが良く知るハッサルの獣人としての姿だった。
「なんだ、ありゃ?」
イーニャが叫べば、クロエは口に手を置いた。
「なんやこの匂い……」
「おぞましい……。あれが神代の怪物か?」
「なんと面妖な……」
アンリとエミリーは目を細めるのだが、ハッサルは違う。狐の顔の下に生まれた表情は恍惚とし、己の姿と言うよりは開放的な力に酔っていた。
「ああ。なんと素晴らしい。復活と再生……。私は至った。これこそが神だと。そう私はついに得たのです。神の力を!!」
「馬鹿野郎! そんなもの神の力であって溜まるかよ」
イーニャの言葉に、横で聞いていたブランも大きく頷いた。
「わかっていませんね。こういうことですよ」
突然、ハッサルの巨躯が光り始める。すると背中に無数の穴が開いた瞬間、その奥底で充填された強烈な魔力を解き放つ。
それは火でも、雷でも、光属性の魔法でもない!
純粋な魔力が熱を持ち、光すら超える速さで撃ち放たれる。その標的はハッサルの前にいる戦士などではない。
エミルディアだ。
すでに地上に激突するまで2時間のところにあるエミルディアに真っ直ぐ向かって行くと、その地上を焼き払った。
エミルディアの4分の1の土地が真っ赤になり、焼き尽くす。その熱量は凄まじく、ややタイムラグがあってから、熱風がルーハスたちがいるストラバールを襲撃した。
熱風に加え、その突風が戦場を吹き荒れる。吹き飛ばされそうになったヴォルフを、エミリーが身を挺して守った。
しばらく立っていることすら難しく、ただ風が収まるのを待つ。やがて立ち上がったルーハスが見たのは、左側が真っ黒になったエミルディアの無残な姿だった。
「なんだよ、あれ……」
「一瞬で……。エミルディアを……」
イーニャとアンリが息を呑む。
今までバケモノと呼べる相手とは何度も対峙してきた。しかし、それらが可愛く見えるほど、ハッサルが見せた攻撃は凄まじいの一言であった。
「あはははは! これぞ神の怒り! わかりますか? 虫けらさんたち? 今のがストラバールに向けられたらどうなるか? まあ、そうでなくても、あなたたちはどうせ死ぬ運命ですけどね」
「黙れ!」
ハッサルが気づいた時には、ルーハスの姿はその顔の裏にあった。剣閃が狼の牙のように銀色に輝く。見事、その首を切り裂いたが、ハッサルはまだ生きていた。正確にいうなら、まだ動いていた。
「キャハハハハハ! 言ったでしょ。もう神様なんですよ、私」
ハッサルの手がルーハスに伸びていく。手といっても、それは手のように見えるだけだ。その手の先に穴が開くと、ドラゴンのブレスのように輝いた。
「ルーハス!!」
ルネットが防御魔法を張って、間に入る。
だが、ルーハスごと2人は光の中に消えた。
「ルーハス!! ルネット!!」
ブランが大声で叫ぶも、2人から返事はない。
「てめぇええええええええええ!!」
一方、イーニャは激昂し、得意の鎖を投げる。その先についた大きな鉄塊は確実にハッサルを狙ったが、あっさりと何かの手によって飲み込まれてしまう。
イーニャは一瞬何が起こったかわからず、「えっ?」と声を上げた。続けてその小さな身が吹き飛ばされる。イーニャを弾き飛ばしたのは、イーニャの鉄塊だった。
「イーニャ!!」
「ブランさん、落ち着いて」
「アンリ……!」
「そうじゃ。ここはも1度妾たちの力を結集する時ぞ」
最終的にヒナミがブランを制する。
だが、ハッサルの動きの方が早かった。
常に変態を続ける身体に、予測も予想もできない。身体中に穴が開いた瞬間、目が眩むほどの光が瞬いた。
「遅いですよ、虫けら!」
次の瞬間、真っ白な光がストラバールはおろか、落ちてくるエミルディアすら包むのだった。








