第330話 【勇者】ルーハス・セヴァット
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『アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~』
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8巻だけでも買ってほしいぐらい衝撃の無双回なので、1巻も買ったことがない人も是非よろしくお願いします。若干エッチなので、善良なお父様は「チ」と「キン〇ダム」の間に挟んでご購入ください。
(書店で見かけましたら、よろしくお願いします)
ルーハスがハッサルに刃を向ける一方、レミニアは父ヴォルフの介抱に追われていた。傷は修復できたが、肝心の完全体の賢者の石を奪われたことによって、先ほどからヴォルフの意識がはっきりしない。
「パパ?」
「大丈夫だ、レミニア。それよりも」
ヴォルフは空に目を向ける。いや、もう空と呼べるものはこの時なくなっていた。あるのは、エミルディアという世界そのものである。エミルディアが地上に衝突するまで、この時、すでに2時間を切っていた。
嵐は起こり、地面は割れ、海岸部では巨大な津波が船や人を呑み込んでいた。まさに世界が末期を迎えようとする中、ヴォルフはそれでも諦めていなかった。
「あれをなんとかしてくれ」
「でも……」
泣きそうになりながら、レミニアはヴォルフに呼びかける。目頭を熱くした愛娘の頬を、ヴォルフは優しく撫でた。
「レミニアならできる。だから諦めるな。パパも諦めないから」
「パパ……」
レミニアは涙を拭く。
顔を上げ、後ろに控えていたハシリーを見つめた。
「レミニア……?」
「部下たちを全員呼び戻して」
「何か方策があるんですか?」
「一か八かだけど……」
1つだけ方法を思いついたわ……。
◆◇◆◇◆
刀を持ったルーハスは、ハッサルに向かって走る。対するハッサルは尾を振るって、迎え討つのだが、ことごとく相手に回避されてしまった。あっさり間合いに入ってきたルーハスは再びハッサルを斬る。ハッサルも爪を使って、攻撃を弾いた。ハッサルが渾身の力を込めるも、ルーハスは怯まない。すぐに体勢を整えると、ハッサルに再び刃を振るった。
「ぐっ……。ちょこまかと!!」
ハッサルは魔法を打ち込む。
広範囲の雷撃魔法は周りの人間も巻き込んだが、ルーハスは眉1つ動かさず、戦場を駆け抜けた。やがてハッサルの前に戻ってくると、斬撃を振り下ろす。もう何度も打ち込んだ攻撃に、すでにハッサルの爪はボロボロになっていた。
「ルーハス、強ぇ……」
鬼神のように動き回るルーハスを見て、意識を取り戻したイーニャは立ち上がる。その後ろにはブランも見て、じっと【勇者】の戦いを見つめていた。
戦況を一番近くで見ていたのは、ルネットだ。腰に手をやって、ちょっと自慢げに笑っている。
「強いわよ、そりゃ。ルーハスは私が認めた【勇者】なんですもの」
ルーハスは英雄らしい性格ではない。民衆が喜ぶ【勇者】像とは、もっと人当たりがよく、誰しもが憧れるような強さと信念を持っていたりする。でも、ルーハスは全くそうした勇者像が離れている。実際、彼を【勇者】と認めない者も少なくはない。
それでもルネットだけは信じていた。ルーハスがいつか【勇者】であることを証明してくれる瞬間を……。
そして今がそれだ。
2つの世界が潰し合い、壊れようとする中、ルーハスは挑み続けている。
「ルーハス、やっぱ変わったよな。やっぱりルネットが生き返った時か?」
「それは多分違うわ、イーニャ」
ルネットは首を振った。
確かにルネットが復活した時から、ルーハスの顔はドンドン優しくなっていった。でも、ルネット自身はそれが原因じゃないと気づいていた。ルーハスが変わったのは、もっと前……。
ヴォルフ・ミッドレスに負けた瞬間から始まっていた。
恋人が亡くなり、世界すら自分の意のままになることがなくなり、そして初めて敗北らしい敗北を喫した。それも1度は勝ち、格下だと思っていた相手に負けたのだ。それはルーハスの生涯の中で、初めての出来事だった。
2度と負けないと心に誓ったものの、ガダルフとの戦いでは大きな戦力になれず、結局ヴォルフに頼るしかなかった。
【勇者】として栄光の道を辿ってきた彼の初めての挫折。その出発点はやはりヴォルフだったのだ。
盛者必衰……。
1度上に立ったものが落ちぶれるのは早いものだ。しかし、ルーハスは諦めなかった。諦めず愚直に努力し、そして今【千里眼】を持つ神代の怪物と打ち合っている。
「エリート街道を歩いてきた人間が必ずしも才能や出自に恵まれた人間ばかりじゃない。まして性格がスマートなわけでもない。ヴォルフさんがそうだったように、ルーハスもまた泥にまみれ、次に負けないように努力できる人間……。みんないうじゃない。失敗を恐れない――――」
それが【勇者】だって……!!
ギィン!
甲高い剣戟の音が鳴る。
その瞬間、ハッサルの爪が1つ欠けた。
同時にそれはハッサル守ってきた防御の手段を1つ突破したことを意味する。
ルーハスは吹っ飛ばされない。
なお前を行く。
そう。それは皆が思い描く【勇者】像のままだった。
「覚悟しろ」
冷たい眼差し、声、そして刃が閃く。
ゾッとする殺気にハッサルの喉が詰まる。慌てて回避するが、遅かった。
銀狼の剣がついに九尾の狐の喉にかかる。
黄金色の毛を深く突き刺し、そのまま右に薙ぎ払う。
血しぶきがルーハスにかかった。
「――――――ッッッッッッ!!」
ハッサルは悶絶すると、声なき悲鳴を上げるのだった。








