第327話 因果は嗤う
☆★☆★ 11月12日 第8巻発売 ☆★☆★
『アラフォー冒険者、伝説となる~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~』の第8巻が、11月12日発売されます。
先週アナウンスしましたが、神巻ですので、是非お手にとってください。
お友達、同僚に勧められる第8巻なのでよろしくお願いします。
「何が未来を決した――じゃ!」
ハッサルの前に立ちはだかったのはヒナミ――だけではない。クロエ、アンリ、エミリが立ちはだかる。すでにその手は各々の得物に伸びていた。
その中で一際小さな王が、薄い胸をそびやかす。
「未来とは他人によって決められるものではない。己が決めるものじゃ! まして因果や理などまやかしに過ぎぬ。結果的に繕われたものであろうが!」
ワヒトの君主らしい台詞が、巨大魔法陣の上で響く。
「それにあんさん何か忘れてまへんか? ここにはうちらをはじめ、世界各国の強者が揃ってるンやで」
「そうです。未来は決していない」
「化け狐め! 今、ここで斬るでござるよ」
エミリは刀を抜く。
クロエの言う通り、ハッサルは今火中にある。ここは言わば敵陣の中だ。ヴォルフから【賢者の石】を奪われてしまい、気が動転する者がほとんどだったが、すぐに気持ちを立て直せたのは、ここにいる者のほとんどが、プロ中のプロだからだろう。
刃と殺気を向けられたハッサルに変化はない。手に【賢者の石】を握ったまま、周囲に妖艶な視線を放っていた。それだけで心がとろけてしまいそうだが、開いた口から見える牙は実に獰猛であった。
「覚悟!」
化け狐の態度を見て、エミリが先手をとる。刀匠としても超一流なエミリは、お刀を操る刀士としても超一流である。かつて五英傑の誘いを断ったことのある女刀士は裂帛の気合いを以て、ハッサルに挑みかかった。
「その石はヴォルフ殿の石! 返すでござるよ!!」
エミリは頭を狙うと見せかけて、石を持っている腕を狙う。手首ごと斬ろうとしたが、ハッサルはあっさりとエミリの動きを看破し、身体を捌く。流水の如く――ゆったりとした動きでエミリの剛剣を躱していった。
「エミリはん、助太刀しおす」
そこにクロエが加わった。
地面に刺さった仕込み杖を拾い、ハッサルとの距離を詰めていく。限りなく間合いを詰めた瞬間、メーベルド刀術の奥義を出し惜しみすることなく披露する。
【無業】!!
最短最速の剣術が唸り上げる。
発動すれば、回避は困難だ。
しかし、ハッサルはそれさえも躱した。
まるでクロエがそうするとわかっていたかのように……。
「もう! ちょこまかと!!」
「任せてください!!」
アンリが手を掲げた。
「監視者よ、我が呼び声に応えて力を貸し与えよ。地より生じ、天をも穿つ緑衣の棘よ、束縛の楔となりて行く手を阻め!」
第六階梯魔法【緑棘の監牢】
地面から無数の蔦が爆発的に生えてくる。たちまちハッサルに襲いかかると、その細い肢体に棘を食い込ませた。それまで優雅に踊るように動いていたハッサルが止まる。すかさず動いたのは、ヒナミだ。
剣を大上段に構えると、大きく後ろに反る。身体の撥条を利用して振り下げると、勢いを利用して回転し始めた。
我流【火車】
まさしく火の車となって地面を走り、ヒナミがハッサルに襲いかかる。やった、と思った寸前、ハッサルの身体が変化する。再び子狐の姿に戻ると、あっさりとひょいと逃げてしまった。
「なっ!」
ヒナミは素っ頓狂な声を上げる。
慌てて刀を地面に差して、回転を止めた。どうやら方向をすぐ変えられないことが、この技の欠点らしい。
「さすが太古から生きる化け狐でござるな」
「我々の一斉攻撃をいとも簡単に……」
エミリとアンリは汗を拭う。
しかし、クロエとヒナミは別の印象を抱いていた。
「なんやおかしな動きをしおるなあ」
「気づいたか、クロエ」
「ヴォルフはんほどやないにしろ、うちの【無業】も無敵の剣術や。あんなにあっさり躱すことはできへん」
「反応……という次元ではない」
「せや。つまり、先読みの力やな」
2人が首を捻ると、ハシリーは叫んだ。
「気を付けてください。ハッサルの能力は【千里眼】です。彼女の力は未来を見通します」
「なんやそんなことを言ってたなあ」
「普通の攻撃じゃ、かすりもしません」
「ならば、普通の攻撃でなければいいのだな」
さらに立ちはだかったのだは、ルーハスと五英傑の面々だ。その後ろには集められた強者たちが大挙し、【賢者の石】を咥えた子狐を睨んでいた。
そのハッサルは再び獣人の姿をとる。
「おやおや。たかだか狐1匹に大層なもてなしですね」
「狐は1匹でも、化け狐なら話は別よ、ハッサル」
ルネットが鋭い視線を送る。
すると、すでに彼女は仕掛けていた。
パチッと指を鳴らした瞬間、どこから魔法できた網が現れる。ハッサルを左右から拘束すると、その身体をあっという間に動けなくしてしまった。
クロエたちが戦っている時に、すでに敷設しておいたのだ。
ハッサルは再び先ほどの手順で逃げようとするが、鳥もちのように貼り付くため逃げられない。
「未来は決定している。私たちは救ってみせるわ。このストラバールを」
「ふふふ……。甘いわね、【軍師】」
ハッサルの目が光る。
その性質に気づいて、ルネットは咄嗟に目を隠すが、その後ろにいた強者たちは違う。たちまちハッサルの目に魅了されると、「あっ」と魂が抜けたような声を上げて、虚ろになった。
『うおおおおおおおおおおお!!』
死霊使いに操られたゾンビみたいに声を上げる。すると突然襲いかかる。ハッサルにではない。ルネットや五英傑、クロエ、ヒナミたちに襲いかかった。
「こいつら、なんや! うちは恋人募集してへんで」
「アホ! これは魔眼だ!!」
「お二人とも気を付けられよ。これは人間でござる」
「くっ! 邪魔でござる。どくでござるよ!!」
エミリが鞘で対応するが、強者たちは次から次へと現れる。あっという間に、彼女らを囲い、反対に動けなくなってしまった。
「何よ、これ! 聖樹の森の焼き増しじゃない! これじゃ!!」
ルネットはめくじらを立てて、目の前の戦士に手刀を叩き込む。
「パパ!! パパを守って」
「レミニア、大丈夫です。ヴォルフさんは無事です!!」
レミニアも、ハシリーも混乱していた。
最中、エミルディアが迫る中、崩壊しようという世界に跋扈するのは、やはり1匹の化け狐だ。
ハッサルは少し離れたところで、【賢者の石】を掲げる。
「この時を待っていた……。いや、この因果を私は待っていた」
【賢者の石】が再び黄金に輝き始める。
「素晴らしいわ! ヴォルフ・ミッドレス。そして【大勇者】レミニア・ミッドレス。よくここまで磨き上げた。これこそ私が求めた最後の因果律! 何億、いや何京という因果の糸を辿り、私自身が引いた未来……」
ようやく私は神を越える!!
フフフ……。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!








