第325話 だからお願い!
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
本日BookLive様にて、最新話44話が更新されました。
完成稿を読み終えた瞬間に、「最高」と思わず原作者が呟いてしまった原稿を
是非ご覧下さい(しかも、ここから更に熱くなるという。。。)
レクセニル王国の王宮にほど近い騎士団の練兵場で、巨大【賢者の石】の精製が始まる。王宮を含む一帯は煌々と青白く輝き、すでに膨大な魔力が回り始めていた。その輝きは落ちてくるエミルディアが作った闇のほんのささやかな光でしかない。しかしそれが人類に残された最後の希望の光だった。
「これはなかなかきついのぅ」
「国王はん、随分と顔をひきつってますけど、大丈夫おす?」
「これが賢者の石を作るということでござるか」
「いえ。これはまだ前段階のはずです」
急激に魔力を抜かれていくのを感じて、ヒナミ、クロエ、エミリ、アンリが悲鳴を上げた。
その側では五英傑がまだ涼しげな顔をしている。
「今まだストラバール全域に魔力を通す段階よ」
「勝負はここからってことか」
「…………」
「ぬがっ!」
ルネットをはじめ、皆が空を見上げる。
エミルディアはもう手が届きそうなところまで来ていた。
魔力の制御を担うレミニアとハシリーも大忙しだ。
側では研究員が計器を見ながら、世界中で魔力を監視する研究員と連絡を取っていた。
「西側の魔力、ボロネーを越え、バロシュトラスの国境まで届きました」
「南側、ドラ・アグマ全域まで到達」
「北側、旧ラルシェン王国を越えて、さらに北上中です」
「東側はワヒト王国海岸線まで届きました」
次々と研究員から報告がもたらされる。
専門用語が飛び交っているが、要約すると順調とのことだった。
「ガダルフのことだから、何か悪あがき的な仕掛けがあると思ったけど」
「どうやら問題ないようですね。一気に魔法を構築しましょう」
レミニアは頷き、ハシリーとともに呪文を唱え続ける。
魔力の流出が一層激しくなると、中には脱落者も現れ始めた。
「うっ! すまん」
「私も……。限界……」
名のある騎士長、冒険者が次々と倒れていく。
五英傑やヒナミたちはまだ余裕だが、並みの強者では今の状態はかなりキツいらしい。だが、魔力は全域に届いていない。魔力出力が上がらなくて、やきもきしていると、ヴォルフが顔を上げた。
「レミニア、魔力負荷を上げてくれ」
「大丈夫、パパ? 今でもみんなの100倍は強いのよ」
ヴォルフは娘を安心させるように笑う。
「大丈夫。これぐらいへっちゃらだ」
「わかったわ」
レミニアは魔法を構築する。
ヴォルフから流出する魔力を上げると、安定した。
やがて魔法はストラバール全域に到達する。
「第二段階ね」
レミニアは自分が構築した魔法に、自分の声を載せる。
高度な魔法に、他の魔法を載せるのはかなりの高等テクニックだ。
1歩間違えれば、魔法自体が破壊しかねない。
だが、レミニアは涼しげな顔でやってみせた。
「ストラバールの皆さん。聞いて下さい。わたしは【大勇者】。レミニア・ミッドレスです。色々挨拶はあると思うけど、まず端的に言います。皆さんの力を貸して下さい。薄々気づいていると思うけど、今ストラバールは危機的状況にあります。このままでは皆さんが大事な人と住む世界が滅んでしまう。わたしも大好きなパパと離れたくない! そんなの絶対イヤ! わたしはパパと一緒にいたい!!」
「れ、レミニア……。色々と欲望が漏れてますよ」
ハシリーが説明を遮る。
レミニアは反省するかと思ったが、そうではなかった。
特に悪びれることなく、説明を続けた。
「みんなにもきっと大好きな人がいるはず。今、この状態にした奴はすべてに絶望して、全部を壊そうとしたけど、絶対にそんなことはさせない。でも、わたし1人だけじゃダメなんです。だから、みんなの力を貸してください。ほんの少しでいい。みんなの魔力を分けてもらうだけです」
だから、お願いします!
レミニアは説明しながら、最後に頭を下げた。
ハシリーは驚く。これまで年下の上司のことを見てきたが、こうやって人に頭を下げたのは初めてのことだったからだ。
赤銅色の髪を掻き上げ、レミニアは顔を上げる。
ふと横を見ると、ヴォルフが「よくやった」と親指を立てていた。
直後、研究員の1人が叫ぶ。
「きたきたきたきたきたきた!!」
魔法陣の輝きが徐々に増していく。
ヴォルフはふと顔を上げると、暗かった一帯がいつの間にか日の出を迎える直後のように明るくなっていることに気づく。青白い光に、それが人の魔力の灯りだと気づいた。
第2段階は張り巡らされた魔法陣を使って、人から魔力をもらう工程だ。
第1段階で行っていたのは、その魔法を世界中に通すことだった。
魔力の流れが逆転する。
1つ1つは小さな魔力。
だが、全世界の人間の魔力を結集すれば、膨大な魔力となる。
「おおっ!」
「これは!!」
1度脱落した強者たちが、魔力の流れが逆転したことによって目を覚ます。
ハシリーはエミルディアによってできた影の中で生まれた青白い影を見ながら、少し目尻を赤くしていた。
「これが人の力なんですね」
ハシリーの人生は否定から始まった人生だった。
そして彼女もまた否定を続け、天上族に、人に絶望した。
もうどうしようもない感じていたところに、彼女を心配する親子が現れた。
レミニアとヴォルフだ。
そのレミニアはフッと笑う。
「捨てたもんじゃないでしょ。どの時代にも、どの土地でも、優しい人は絶対にいる。誰かのために、大切な人のために手を上げる人はいるものよ」
「それって遠回しにご自身の父上を自慢してませんか?」
「わたしがわたしのパパを自慢して何が悪いのよ。さあ、第三段階を……えっ?」
その時だった。
魔法陣の中に1匹の子狐が迷い込む。
通常、野生の獣は巨大な魔力が渦巻く場所に近づいたりしない。
本能的に危機を察知するからだ。
「え? 狐? どこから迷い……」
ハシリーは気づく。
その視線は狐の尾に向いた。
2本ついていたのだ。
「まさか!!」
子狐は真っ直ぐヴォルフの方へと向かって行く。
ヴォルフの近くは、かなり高濃度な魔力帯になっている。
獣はおろか、人間も近づけないはず。
しかし、子狐はひらりと舞うようにヴォルフに近づいていった。
「なんだ?」
ヴォルフも子狐の存在に気づく。
身体を動かそうとした瞬間、レミニアは叫んだ。
「パパ! 動いちゃダメ!!」
「いえ。動いて! ヴォルフさん! そいつは――――」
ハシリーが言いかけた時、子狐の様子が変わる。
突如、顎が大きくなると、鋭利な牙を見せた。
そのまま突撃した瞬間、ヴォルフの胸に埋め込まれた【賢者の石】に噛みつく。
バリッ!!
まさに刹那の出来事だった。
子狐はヴォルフの胸から【賢者の石】を取り去ったのである。








