第323話 それぞれの誓い
久しぶりに「アラフォー冒険者、伝説となる」にレビューいただきました!
素敵なレビューなので、是非皆様に読んでいただきたい。
レビューを送ってくれた読者の方、ありがとうございます!!
後書きでは、下記表紙の作品の宣伝がございます。
是非よろしくお願いします。
◆◇◆◇◆ ルネット ◆◇◆◇◆
「ここに来て、ゴリ押しとはね」
聖樹の森へとやってきた研究員から手紙を渡されたルネットは、額に手を置いて思わず笑ってしまった。手紙の中には、レミニアが30分で書いた作戦の概要が書かれてある。数を使ってのゴリ押し作戦に、【軍師】ルネット・リーエルフォンはただ笑うしかなかった。
「わかった。【│大勇者】の仰せに従うわ。すぐにレクセニルに戻ると伝えて」
「わかりました」
「ああ。ちょっと待って」
その場から離れようとした研究員を呼び止める。
ルネットの道具袋の中から紙と筆を出すと、サラサラと何かを書き始めた。
したためた数枚の手紙を研究員に預ける。
「各国の君主に宛てた手紙よ。多分、なんの接点もない小娘の言葉よりは聞くはずだわ」
「それはそれは……。ありがとうございます、ルネット様」
「お礼は世界を救った後でね。さあ、行って。時間がないわ」
研究員(中身は悪魔)はふわりと浮くと、エミルディアが迫る空へと旅立っていく。ルネットと同じく見送ったイーニャはルネットに尋ねた。
「ルネット、あの手紙にはなんて書いてるんだ? あんたのことだ。親愛なる君主様なんてお行儀のいいことは書いてないんだろ?」
「さすがはイーニャ。よくわかってるじゃない」
子どものように笑うルネットを見て、イーニャはため息を吐いた。
ルネットは【軍師】と呼ばれているが、1番得意とするのは情報戦である。彼女には彼女しか持っていない情報のネットワークがあり、それは国の様々な部分に及んでいる。国がもつ兵力や財力はもちろん、貴族や王族のスキャンダラスなネタまで、それこそ多岐に及ぶ。ルネットはその情報を元に作戦を立て、冒険者時代はほとんど怖いもの知らずだった。
とはいえ、そのネットワークが時に仇となることもある。
ルネットが一度亡くなる前、ラムニラ教のマノルフがラーナール教団と繋がっていることを暴いたために、故意の戦死を余儀なくされた。これがルネットの死の真相だったのだ。
今、研究員に渡したのは、有力な貴族や王族が血相変えるようなとっておきのネタだ。ルネットはこうしたネタをいくつも持っている。いざという時に使い、戦局を優位に進めるのである。
「いいのか? ルネットの大事なコレクションなんだろ?」
「コレクションなんて人聞きの悪い。まるで私が人の悪い噂を好んで集めていたみたいじゃない」
「違うのかよ」
「……否定はしない。でも、あの情報を使って理不尽に人を脅したりしたことはないわよ。全ては子どもたちが平和に過ごす世の中を作るためなんだから」
イーニャはジト目で睨むものの、言った本人は決して目を合わさない。周囲では聖人君子みたいに祭り上げられているルネットだが、意外とゲスな部分も存在する。それは五英傑の中でしか知られていないことでもあった。
しかし、戦災孤児のために養護院を開いたりと、慈善活動に熱心なのは紛れもない事実だった。故にどこか憎めないのである。
「ルネット、成功すると思うか?」
尋ねたのは、ルーファスだった。
「【│大勇者】ができると思っているのだから、可能なんでしょうね?」
「その割には浮かない顔だが……」
「私、そんな顔をしてる? ……まあ、何にでもイレギュラーというものはあるわ」
「このままでは終わらないということか?」
「私はガダルフとまともに対峙したことはないけど、ここまで用意周到に準備していた奴が何もせずに、レミニアちゃんに対策させるわけがないわ」
唇を結び、ルネットは神妙な顔でストラバールの空に浮かぶ、エミルディアを仰ぐのだった。
◆◇◆◇◆
そしてエミルディアがストラバールに激突する3時間前。
全ての作業が終わった。【│大勇者】の指示のもと、国、君主、貴族が手を取り、奇跡的な速さを持って対策がなされた。しかし、すでにエミルディア接近に伴う地表の影響は出始めている。激突するのは、3時間後だが、すでに暴風が荒れ狂い、環境に劇的な変化が現れ始めていた。
「3時間と言わず、もしかしたら1時間も保たないかも」
風に煽られる髪を押さえながら、レミニアは夜のように真っ暗になった空を見上げる。エミルディアの大きな影は、空にぽっかりと穴が空いたようだった。
「ラストチャンスだな」
「…………」
「レミニア……。何か気になることがあるのか?」
「今になって、ガダルフの言葉が気になってるの」
「お前が決断できないってことか。あれは――――」
「うん。多分パパを犠牲にできないってことだと思う。……ごめん。今のは忘れて。こうやって冷静に話してるけど、本当はいっぱいいっぱいで。不安なんだと思う」
「大丈夫だ。レミニア」
ヴォルフは愛娘を抱き寄せる。
「パパがついてる。安心しろ」
「うん。ありがとう、パパ」
娘を抱きしめる手とは裏腹に、ヴォルフの目には覚悟が滲んでいた。
(もしものことがあれば、俺は躊躇なく賢者の石を使う)
娘と、娘がいる世界のために……。








