第319話 親子再会
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レミニアから遅れること、2時間。
ヴォルフもレクセニル王国王都に到着した。だが王都はどこもかしこも廃墟となっており、昔の馴染みの酒場も、よく通ったテイレスのギルドも潰れていた。
「あまり時間がないのだが……」
ヴォルフは迫り来るエミルディアを見つめる。快晴の空には大きな球体が浮かんでいる。まるでエミルディアに睨まれているかのようだ。その大きな影はレクセニル王国の平原に広がっている。おそらくあの姿は、遠いバロシュトラス魔法帝国からでも見えるはずだ。
エミルディアの様子が変わっていないということは、まだ何の対策も取れていないということだろう。
逸る気持ちを抑えつつ、ヴォルフは娘の気配を探る。今や娘によって鍛えられた勘を頼りにするしかなかった。さらに1時間。ヴォルフは研究所らしき地下空間を見つける。しばらく歩くと、人の声が聞こえてきた。
「レミニアだ!」
娘の声を聞いた瞬間、ガダルフとの激戦を忘れたかのようにヴォルフは走り出す。ひしゃげた扉の間を抜けると、レミニアの声が一層大きく響いた。
「レミ――――」
「だーかーらー、わたしがやるっていってるでしょ?」
「ダメです! また何か企んでいるんじゃないですか? 今度はボクがやります!」
レミニアとハシリーが疑似・賢者の石の前で口論していた。2人しておでこを突き合わせながら、闘犬の如く激論を交わしている。それを見たヴォルフは思わず「プッ」と笑ってしまった。リヴァラスの頂上でお互い剣を交わしていた2人はすっかり元の鞘に収まっていたのを見て、なんだか嬉しくなった。
「おや。上司のお父様じゃないですか?」
最初にヴォルフに気づいたのは、ボロボロになった器材を整理していた研究員だった。すると、ようやく娘が知るところになる。父の姿を見つけると、レミニアは飛んだ。
「パパ!!」
「レミニア!!」
飛びかかってきた娘をヴォルフは抱きしめる。ほんの数時間前まで感じていた娘の感触が、ひどく懐かしく感じた。ヴォルフはつい涙を滲ませる。対するレミニアは満面の笑みを浮かべて、父を迎え入れた。
「信じてたよ。パパならやれるって」
「ああ。俺はレミニアの勇者だからな」
すべて話さなくとも、父がここにいる意味がレミニアにはわかっているのだろう。そしてヴォルフと再会できることを、他の誰よりもレミニアが強く信じていた。それはヴォルフもわかっている。言葉も労いもいらない。この二言だけで、ミッドレス親子はすべてを理解した。それができるのも、親子の愛の深さ故なのだろう。
その親子を見て、ハシリーも涙を流する。
「何を泣いてるのよ、ハシリー」
「だ、だって……。あのガダルフですよ。それをこうやって。いえ。信じていなかったとかそういうことではなく」
「言ったでしょ。パパなら大丈夫って」
「わかってましたよ。でも、レミニアはそのヴォルフさんを信じすぎなんですよ」
ついにワンワンと泣き出す。
ハシリーには罪悪感があった。今回の騒動の火種になったこともそうだが、この親子の間を裂く時、いつも自分がいたからだ。今度こそレミニアがヴォルフに会えないのではないか、という疑念はいつもあった。でも、こうしてミッドレス親子は再会した。その事実を確認し、ハシリーは親子以上に喜び、そして泣いた。
しばしハシリーを含めて、互いを労い合うと、そのハシリーが最初に確認した。
「ヴォルフさん、改めて確認するのですが、ガダルフは本当に敗れたのですね」
「ああ。俺もそうだが、あいつもすべての力を出し切って、そして消滅した」
「そうですか。でも、あのガダルフのことですからね。何かまだあるような気がします」
「それはないと思う」
「どうしてそう思うんですか?」
「あいつはマノルフのような狂信者でも、ゲマのような私利私欲のために国家転覆を考えるような小悪党でもない。ちゃんとガダルフなりの哲学や信念があって、行動していた。そうじゃないとあそこまで強くなれない。……そうだな。強いて例を挙げるなら、ガーファリア殿下に近いかもな」
ヴォルフは自然と手を握る。今でもガダルフと撃ち合った時の感触がずっしりと残っていた。
「なるほど。ヴォルフさんがそういうのであれば、多分大丈夫でしょう」
「ということは、あとの問題は……」
レミニアが振り返る。
ちょうど研究員の1人が、研究室にあった水の魔法を起動させる。水が綺麗に流れ始め、鏡のようになると、そこに外の様子が映し出される。外に放った精霊の目を通して作られた現在の姿だ。そこには空に浮かんだエミルディアが映し出されていた。
「現在、エミルディアは10時間後にはストラバールに激突すると思われます」
研究員が観測機器を見ながら答えた。
すでに地表に影響が出ているらしく、ストラバールとエミルディアの最も近い場所では嵐になっていた。
「もう半日もないのか。ところで2人は何で喧嘩していたんだ?」
「だって、ハシリーが疑似・賢者の石の中に、わたしを入れてくれないんだもん」
「黙ってレミニアが入ろうとするからでしょ。きっとまだ何かボクに隠していることがあるに違いません!!」
再び2人は一触即発になる。聞けば、レミニアは命を賭して聖樹リヴァラスの代わりになろうとしていたという。ハシリーは今回もレミニアが無茶するのでは、と考えているようだった。
「ですが、今のレミニアさんでは魔力が足りなさすぎます。ちなみにハシリーさんと一緒に、疑似・賢者の石に入って、骨の髄まで魔力を抜いても多分ダメでしょう」
ガダルフはそこら中の魔力を根こそぎ吸い取っていた。
その影響は遠く王宮の近くにまで及んでいたらしい。
研究員は説明を続けた。
「そもそも疑似・賢者の石が万全だとしても、すでにエミルディアを押し返す限界ギリギリを超えてます」
「どんなに計算しても無理だ」
「これがホントのお手上げですな」
「あ~あ。ストラバール滅亡か……」
研究員たちは白旗宣言する。
レミニアも、ハシリーもすっかり意気消沈していた。
だが、この男は違う。
「いや、まだ方法はある」








