第318話 悪魔召喚
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『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』1巻
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◆◇◆◇◆ レミニア ◆◇◆◇◆
再接近し始めたエミルディアを止めるため、レミニアとその秘書ハシリーは、2人が作った研究室に辿り着いていた。あれから丸2日経ったが、中はボロボロのままだ。レミニアが脱出した時と変わらない姿をさらしていた。
「改めて見ると、よくもまあここまで壊してくれたわよね」
「すみません、レミニア……」
研究室の惨状を見て、強く項垂れていたハシリーだ。
破壊された計測機器や、部下たちの研究デスク。その生々しい姿を見たハシリーは思わず息を呑む。ハシリーはガーファリアとガダルフが戦っている間に、研究所が壊されたことを告白していた。つまりレミニアや同僚がいる研究所が潰される姿を黙って見てたというわけだ。ハシリーはずっとガダルフを殺す機会を狙っていた。ガダルフを油断させるためには、黙認しなければならなかったからだ。
「いいわよ。ハシリーにはハシリーなりの事情があったんだから」
「いえ。それでも、みんなが……」
「みんなって……。研究所の研究員のこと? 大丈夫よ。心配ないわ」
「心配ないって……。まさかルネットさんを甦らせた時のように?」
「まさか……。あれができたのは奇跡に他ならない。【軍師】ルネットを馬鹿にするわけじゃないけど、わたしはもっと効率的な方法を選ぶわ」
「効率的……」
「ええ……。魔力が戻った今なら問題ないはずだ」
レミニアは手をつき、呪文を唱え始めた。
「命じる。闇の糸紡ぎし、知の深淵より呼び覚ませ。古の言葉にて誓いを立てる、我が求める知識の守護者よ。約束の地にて共に歩み、我が探求する真実を照らさんことを。力の源、叡智の泉、秘めたる能力を解き放ち、我が前に現れん。命ずるは我、召喚するは汝、精霊の道化よ。さあ、この聖なる円陣にて、結びの契約を完成させよ」
【8人の道化】
魔法陣が廃墟となった研究所内に広がっていく。
さらにあちこちで光の柱が立ち始め、暗い研究所の中を照らし始めた。
その数は8つ。やがて光は収縮し、人の形を取り始めた。
「召喚魔法? しかも、これは――――悪魔を呼び出す魔法じゃないですか?」
ハシリーは驚きを禁じ得ない。
自分もやろうと思えばできるが、とても8体同時に呼び出そうとは思わない。
召喚魔法にはリスクがつきもの。悪魔など呼び出せば、契約があってもいつ術者の魂を狙われるかわからない。だが、レミニアはその点で魔法陣を敷いた瞬間に様々な制約を加えることによって、その問題をクリアしていた。潜在能力が同じでも、やはりレミニアは天才であった。
貴重な魔力を使って、悪魔など呼び出してどうするのか、ハシリーには皆目見当もつかない。まさかこれだけ大層なことをして、研究所の掃除をさせる――なんてこともないだろう。あるいは悪魔に研究員たちを復活させてもらうのかと思ったが、それこそリスクが高さすぎる。
呆然と召喚魔法の完成を見守っていると、ハシリーは再び息を呑んだ。
「え?」
「お呼びですか、主? いや、上司か」
「あれ? まだここ片付いてないんですか?」
「ふあ~あ。よく寝た」
「埃っぽいわね~。も~」
現れたのは、この研究所で働いていた研究員や観測員たちである。
魔法陣の上から現れると、何事もなかったかのようにボロボロの研究所を見渡している。その惨状を見ても、どこか飄々としていて、ハシリーはダブルでショックだった。
研究員たちはレミニアのもとに集まってくる。
「上司、その顔どうしたんですか?」
「ボロボロじゃないの。お風呂に入ってる?」
「もう1回寝たい」
「なに? もしかしてまだ終わってないの?」
まるで親鳥がもってきた餌に興奮する子鳥のようにピーチクパーチクと囀る。
事情を話すとなると面倒くさいのか、レミニアは珍しく困ったような表情をうかべていた。しかし、もっとも困惑していたのはハシリーだ。
「6、7、8人……。全員いる……。れ、レミニア、これはどういうことですか?」
「どういうことって……。まあ、こういうことよ」
「じゃ、じゃあ、はっきり言いますが……。ここに勤めていた研究員や観測員は、全部あなたが召喚した悪魔だったということですか?」
「うん。そうよ」
「『うん。そうよ』じゃ、なぁぁぁぁあぁあああああああいいいいい!!」
ハシリーは一喝する。
「なんでそんな大事なことを今まで黙っていたんですか?」
「教えたら、あなた絶対に反対したでしょ?」
「当たり前です。レクセニル王国の中に悪魔を入れるなど」
「王国どころか、世界すら壊しかねないほど、わたしに挑みかかってきたのはどこの誰だっけ?」
「うっ!!」
ハシリーは痛いところを突かれて、口を噤んだ。
あまりに手ひどいブラックジョークだが、真実だからなんともいえない。
それにレミニアは田舎で育ったからか、親の教育方針なのか、こういったジョークに躊躇がなかった。
「冗談よ。……仕方なかったのよ。わたし以上……とはいかないまでも、わたしと同じくらいのスペックで物事を喋れて、危機に向かっていく熱い精神を持った人材なんてなかなかいなかったんだから」
「だから、悪魔を召喚するなんて」
「さっきから悪魔、悪魔っていうけど、この子たちの頭の良さはハシリーも知ってるでしょ? 王国の研究者が裸足で逃げ出すような人材ばかりなんだから」
「それは知ってますけど……。まさか悪魔から人材を引っ張って来るとは思わないじゃないですか。一体、こんな優秀な人材どこで拾ってきたのかと思いましたが……」
ハシリーはすっかり呆れてしまったらしい。
ショックを受ける秘書の肩を軽く叩いたのは、その悪魔の研究者たちだ。
「まあまあ、ハシリー。リラックスリラックス」
「今までのことは水に流しましょう」
「そうそう。人生楽しまないと」
「なんか悪魔にだけは言われたくありませんね」
ハシリーは頭を抱える。
ストラバールは最大の危機を迎えようとしていたが、徐々にハシリーとレミニアの周りに日常が戻り始めていた。








