第309話 お前を救いたい!
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
BookLive!にて最新話が更新されました。
もの凄く緊迫してますので、是非読んでくださいね。
そして5月10日に単行本7巻が発売されます。
ラムニラ教との激闘が描かれています。
タッ公先生が描く素晴らしいアクションシーンをお見逃しなく!
同日発売『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』の第1巻もよしなに!
※ 宣伝多めで失礼しました!
【雷獣纏い】!!
【雷王】ことミケの力を得て、ヴォルフの身体が青白く燃え上がった。ヴォルフはグッと腰を落とし、一振りの刀と一本の剣を構える。鋭い嘶きを上げたのは黒い竜だ。ヴォルフの覇気すら通じない魔法生物は、依然として周囲の魔力を喰い散らかす。
(風景が変わっている。リヴァラスも長く保たないか)
一刻前までそこはまだまだ若々しい緑葉が萌える大樹の頂上が、今は見る影もない。葉は枯れ、枝は老人の腕のように痩せ細っていた。生命の息吹はまるで感じられず、ヴォルフの言う通りその終わりが見えようとしている。エミルディアが迫っているのも、その影響があるのだろう。
時間がないのは明らかだった。
「一気にいかせてもらう」
ヴォルフは勢いよく地を蹴る。
ここに至っては戦略も戦術もない。
当たって砕けない。
ただそれだけだった。
【雷王】の力を得たヴォルフは黒い竜の牙をギリギリで躱す。
昔はその力に引っ張られていた【剣狼】だが、今は違う。その力を完全に制御する――のではなく、その力の方向に乗る。川の流れに乗るが如く、力に逆らうことなく相棒の力に委ねた。結果的に自在に動かすことができたヴォルフは、黒い竜の頭まで駆け上る。
【カグヅチ】、さらには娘が残していった聖剣を天にかざした。
裂帛の気合いと共に、2つの狼の歯牙を振り下ろす。
【紫雷双牙】!!
雷属性の力を持った2つの牙が同時に落とされる。
轟音と共に黒い竜を浴びせた。
「お前の大好きな魔力だ! たらふく食え!!」
黒い竜は魔力を食う。それをエネルギーにしている節はあることは、戦いながらヴォルフも感じ取っていた。しかし、今ヴォルフがやっていることは真逆だ。魔力を伴う雷を浴びせ続けた。
「なにっ?」
それまでヴォルフvs影竜の戦いを余裕で見守っていたガダルフの顔が歪む。
「影竜に魔法を与えても、魔力を吸い取られるだけのはず」
「ガダルフ、お前は食事をすることがあるか? これまでうまいものだけを食ってきたのか。たとえ栄養があろうと、飯には強烈にまずいものがある。魔法だって同じなはず。全ての魔力が同じじゃない。それ相応の特性というものがある」
「影竜をお前たちのような人間と一緒にするな!!」
「いいや。俺たちと変わらない。生物だからこそ食べないものだってある。そんなものはただの傀儡だ」
「それがお前の……、【雷王】の雷だと?」
「俺の相棒は最高だが、放つ雷は食材として最悪だ。何せいうことを聞かない。とにかく暴れ回る。本能のまま突き進む。聞こえるぞ、俺には。腹の中で暴れる雷の声がな」
消化できるものなら、消化してみろニャ!
「……てな!」
事実、黒い竜は悶えていた。
同時に魔力の吸収が止まった。
完全に機能を失い、黒い竜はただただ悲鳴をあげるだけだった。
「影竜、戻れ!!」
ガダルフは命じたが、黒い竜は消滅しなかった。
もはや魔法としてキャンセルされる力すら失っていたのだ。
愕然とするガダルフの横で、ふわりと殺気が膨れ上がる。
ヴォルフは一刀一剣を掲げ、次の相手を指名していた。
「さあ、ガダルフ。あとはお前だけだ」
どこか勝利宣言とも言えるような雄大な声だった。
ヴォルフとそしてミケの力は、愚者の石を握ったガダルフに引けを取らない。そもそもガダルフは魔力を吸い取ることで、再び愚者の石を作ることだ。その方法を一時的に断てたことはかなり大きい。
それでもガダルフの自信は揺るがない。
「いいや。我にはまだこやつらがおるわ」
リヴァラスが張った枝や幹の間から波のように黒い影が込み上げてくる。
ゾッという音とともに現れたのは、なりそこないの塊だ。
数こそわからないが、体積から考えて1万はあるかもしれない。
周辺のなりそこないはかき集めたことは明白だ。
ヴォルフは知っている。なりそこないの原料を。それは人の命……。愚者の石に適応できなった人間の成れの果て。
「お前、どれだけの人間を殺せば気が済むのだ」
「気などすまない。我が気が済むとするなら、この世界が消滅する時だけだ」
ガダルフは笑う。
己の恥を隠すわけでもない。本気で言っているからこそ、笑うのだ。
喉を大きく動かしながら、ガダルフはなりそこない飲み込んでいく。
人の命と知りながら、もはやなんともないのだろう。
やがてガダルフの腹は大きく膨らみ、四肢がミミズのように歪んだ。
白い肌は黒く、目は充血し、血のように赤くなる。
現れたのは、天上族でも、まして人でもない。
単なる怪物だった。
「少々薄めだが……。お前を倒すには十分だ」
もはやこの男に倫理を諭しても無駄だろう。そもそもガダルフは天上族であって、人ではない。それでもレミニアのような女の子もいる。エミリアのような、この世界を救おうと立ち上がった天上族もいる。だからこそ、優しいヴォルフは心のどこかでガダルフを助けようと考えていた。
何万という人間の命をなんとも思わず吸い込んだガダルフに、まるで罪悪感を感じられなかった。
それでもヴォルフは宣言する。
「ガダルフ、俺がお前を救ってやる」








