第305話 聖樹の意地
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
『アラフォー冒険者、伝説となる』のコミカライズ最新話が、
BookLiveにて更新されました。
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「レミニア!!」
ハシリーの悲鳴が響く。
レミニアの小さな身体が後ろにノックバックしようという瞬間、寸前で足を止めた。飛んだ血しぶきと裏腹に、その目には生気が宿っている。
実はレミニアは斬られていない。
斬られたのは、あの一瞬レミニアの前に踊り出た鼠牙族だった。細腕に握られた杖を懸命に伸ばして、身を挺してレミニアを守ったのだ。
「コノリ!!」
「大丈夫です」
コノリは人間の言葉を話すのが苦手だ。
その時、流暢に聞こえてきた人語と、コノリから漂ってくる気配を感じて、レミニアは察する。
「あなた、もしかして……」
「ほう……。まだ巫女にやつすほどの力が残っていたか、聖樹リヴァラスよ」
声を響かせたのは、ガダルフだ。
背後には影竜がいて、レミニアたちを威嚇している。
「良いのか、リヴァラス。お前もまた虫の息……。しかも『マイナス階梯』の魔法の中では、もはや力も使えまい」
「私も舐められたものですね。邪なる物よ」
血を吐きながら、コノリの身体に取り憑いた聖樹リヴァラスは杖を掲げる。
瞬間、爆発的に地面から枝が伸びてきた。あっという間にリヴァラス頂上付近を密林に変えてしまうと、ガダルフの身体を絡め取る。
「ふん! この程度か、聖樹の力は。影竜、やれ!!」
黒い竜は尾を揺らし、一気に生えた木を刈り取る。一瞬で生まれた密林は、一瞬にして刈り取られたわけだが、リヴァラスは終わらない。
斬っても斬っても、生えてくる。
「貴様! ここで潰えるつもりか?」
「油断しましたね、ガダルフ。1度あなたには私の聖域を侵されましたが、何の対策もないままあなたの前に現れたとお思いか? このまま竜ごと消滅させてあげましょう」
聖樹リヴァラスは本気らしい。
無限にも感じる太い根と幹は、何度斬られ、焼かれても再生する。
まるで植物の意地を見せられているかのようだった。
ついにガダルフは絡め取られる。
詠唱を阻止するため、その口を押さえ付けると、一気に枝が体内を浸蝕していった。
「く……おの…………」
悲鳴さえ上げられず、ガダルフは幹と根に飲み込まれていく。
黒い竜ですら抗えず、太い幹と根の向こうに消えていった。小動物のような小さな悲鳴を上げながら、ついに黒い竜が先に潰える。
波のように押し寄せた幹と根は、また波のように引いていき、ガダルフを木の中に閉じ込めてしまった。先ほどまで世界の命運をかけた戦場であったとは思えないほど、静かな時が訪れる。
同時に、コノリが倒れる。
慌ててレミニアは駆け寄った。
「コノ…………! いや、リヴァラスか。どっちでもいいわ! 大丈夫?」
「すみません、レミニア。どうやら私はここまでのようです」
「……わかった。大丈夫。あとのことはこの天才にして【大勇者】のレミニアちゃんに任せなさい」
「それを今言いますかね」
遅れてやってきたハシリーが傷口に回復魔法をかける。
すると、コノリに取り憑いた聖樹リヴァラスは笑う。
「本当にすみません。もう少し長い生きするつもりだったのですが……。ガダルフとあなた方の戦いを見て、いてもたってもいられず」
「意外と好戦的なのね。まあ、1度やられてるようだから仕方ないけど。さっき言ったけど、安心して」
「はい。あとコノリには『ごめんなさい』と伝えてください」
「ええ……。わか――――。リヴァラス?」
それまで安らかな笑みを浮かべていたリヴァラスの表情が急に強張る。
お腹の辺りを押さえると、悲痛な声で痛みを訴え始めた。
「くっ! まさか……。今のでも生きて――――」
ドンッ!!
爆発音が背後で響く。
地面となっている無数の樹木の下から現れたのは黒い竜だ。
その竜頭にはガダルフの姿もあった。
「ガダルフ! まだ生きて!!」
「死に体が……。最後の力を使ったか。が、もう遅い。リヴァラスも、お前たちも」
「どういうことよ!」
レミニアが叫ぶと、ガダルフは口端を尖らせて薄く笑う。
「まだ気づかんか? 所詮はお子様勇者だな」
「なんですって!!」
「レミニア! あれを!!」
突如、ハシリーが指差す。見ると、青々と茂っていたリヴァラスの葉が枯れ、さらに黒く変色していく。葉だけではない。まるで病気にかかったようにリヴァラスの根と幹がカビが生えたように黒くなっていた。
それと比例するようにガダルフが召喚した竜が膨らみ始める。
そしてレミニアは気づく。
「まだ魔力を吸うの?」
「気づいたか。我が影竜は召喚魔法でも、攻撃魔法でもない。生きとし生けるもの、いや死物であっても魔力を内包してるもの……。そのすべての魔力を吸い付くす魔法だ」
「なんですって……」
「ありがとう」
「え?」
「教えてくれたのはお前たちだ。リヴァラスを媒介して、ヴォルフ・ミッドレスにかけた強化魔法……。魔法を構築する式はあれと変わらない。か弱い羽なしどもは、いつも〝協力〟という言葉を使うが、こういうことをさすのだな。私にない考えだった。感謝しよう」
ガダルフは合図を送る。
黒い竜は大きく嘶いた。
すべての生きとし生ける者に自分の存在を知らしめるように。
直後、レミニアもハシリーも膝を突く。急激に魔力が吸い取られていっていた。2人とも愚者の石を手にし、膨大な魔力を回復させたばかりだ。
その魔力がすべて黒い竜に飲み込まれよとしていた。
「まさかガダルフ……。あの竜を使って、もう1度愚者の石を……」
「再生成する。そうだ。その通りだ。……自分で言うのもなんだが、私は諦めが悪い。そもそもこの世界に、私以外の存在を許さない。例え、一時的な力を得てお前たちの肢体を嬲ったところで何の感慨も浮かばない。滅ぶのは人ではない」
私以外の全てだ!








