第302話 パパのように!
☆★☆★ 本日発売 ☆★☆★
無事発売日迎えることができました。
おかげさまでコミックス6巻目です。さらにシリーズ30万部!
お買い上げいただいた読者の皆様、改めて感謝申し上げます。
WEB版ともどもよろしくお願いします。
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ヴォルフやレミニアたちが激戦を繰り広げる裏で、ひっそりとそれは始まっていた。
最初は離れ続けていたそれは徐々に速度を落とし、一瞬止まると、今度は引き寄せられる……。
向かったのは今、ヴォルフたちが戦っているストラバールという世界だ。
そう――――。
つまり、エミルディアである。
レミニアが開発した疑似・賢者の石によって、ストラバールに迫っていたエミルディアは再び離れ始めた。
しかし、状況は変わった。
疑似・賢者の石が壊され、それまで賢者の石の役目を引き受けた聖樹リヴァラスもすでに風前の灯火……。
エミルディアの地殻に埋め込まれた愚者の石と、ストラバールの賢者の石によって、両世界はつかず離れず、均衡を保ってきた状況が、前者有利に働き始めたのである。
結果、エミルディアは再びストラバールへと向かい、ゆっくりと動き出す。
まるで意志を持ったかのように、その速度は上がり始めていた。
◆◇◆◇◆ レミニア&ハシリー ◆◇◆◇◆
「サポート頼んだわよ、ハシリー」
次の瞬間、レミニアは走り出す。
手の聖剣を深く握り込み、目の前の元凶――ガダルフに向かって行く。
「ぬっ!」
「速い!!」
その動きはガダルフとハシリーが、2人して瞠目するほどのものであった。
紅蓮の輝きを持つ髪を、投射される炎のように靡かせて、ガダルフの間合いへと侵入する。
その動きは獲物を捕らえにいった狼……。
いや、父ヴォルフの動きにそっくりだった。
「ぬぐっ!!」
ガダルフは慌てて魔法で剣を生み出す。
直後、レミニアの剣が火線のように閃いた。激しい剣戟の音に空気が震える。強い火花がリヴァラスの頂上で光ると、ガダルフは吹き飛ばされた。
「一撃で!!」
ハシリーはまたも驚くが、レミニアは気を緩めない。
深く身を沈めると、撥条のように飛び出した。
吹き飛んだガダルフを追って、また距離を詰める。
ガダルフもただ防戦一方というわけではない。かろうじて着地すると、そこに止まらず、噴き出した炎のようなレミニアに向かって行く。
2人は聖樹リヴァラスの頂上付近で、再び激突した。
火花の光が音と衝撃を置き去りにする。
互いに互いの剣を受けたが、ただの一撃には終わらない。先行したのはガダルフだ。レミニアの剣を無理やり弾く。こじ開けた懐に向かって、突きを繰り出したが、不発に終わった。
貫いたのは、数本の赤い髪だけだ。
己の髪を切られても、レミニアの集中力は全くといって切れない。
瞳孔を収縮させて、ただ目の前の仇敵に食らいつく。
流れるような動きから、ガダルフの首筋を狙ったが、これは回避された。しかし、レミニアの攻撃を終わらない。連撃へと繋げると、ガダルフの急所を確実に狙っていく。
ガダルフも冷静だ。
レミニアの剣を見切ると、絶妙なタイミングで弾く。
剣を片手に持ち変え、もう片方の手に魔力を集めた。
「第7階梯魔法。閃光の射手!!」
ガダルフは光属性の魔法を放つ。
超高温を灯った――所謂、レーザーブレードというヤツだ。
効果範囲は狭いが、その高火力は射線上のものをすべて焼き尽くした。
「レミニア!!」
白兵戦かと思いきやいきなり飛び出してきた飛び道具に、見ていたハシリーは青ざめる。
だが、小さな上司は冷静だ。
ガダルフの中に流れる魔力を注意深く観察していたレミニアは、その行動をあらかじめ予見していた。
大きく腰を落とし、火線を躱す。
同時に持っていた聖剣を鞘に収めた。
レミニアとガダルフの距離は近い。
絶好の間合いに誘い込んだのは、レミニアの方だった。
「パパ、技を借りるわよ」
【居合い】!!
閃光と見間違うほどの斬撃が聖樹リヴァラスの上の夜天を斬る。
鞘の走り、その速度。
勢いと体重をのせた一撃は、三賢者の1人と謳われた男の脇腹に吸い込まれていく。
「うおおおおおおおおおお!!」
悲鳴とともにガダルフは吹き飛ばされる。
地面をゴロゴロと転がると、ちょうど頂上の縁で止まった。
手応えあり。
が、解せないのはガダルフの胴が真っ二つになっていないことだ。
相手は害悪賢者ガダルフ。
どのような隠し球を持っているかわからない。たとえ、相手が人であろうと、天上族であろうと、レミニアはその時殺すつもりで刀技を父から借り受けた。
死んでいないということは、つまりそういうことなのだろう。
事実、ガダルフは起き上がる。
その脇から血が流れていた。
「腐っても賢者様ね。あの一瞬で防御魔法を構築するなんて。そのローブも特別製なのかしら」
「ふん……。下賤な羽なしの血が流れているとはいえ、半分は天上族の血を引いているだけはあるか」
「血なんて関係ない。レミニアちゃんは大天才だからね。剣も槍もお手の物よ」
「王宮に来た時、ツェヘスとやり合っていたな」
「懐かしいことを思い出させてくれるじゃない」
王宮にやって間もない頃、レミニアはツェヘス将軍と1対1の戦いをしている。それも魔法なしの白兵戦でだ。
後にそれは2人による茶番だと明かされてはいるが、折に見せたレミニアの剣は皆の度肝を抜いた。ツェヘスの剣技をあっさり真似てみせたことはおろか、そこにアレンジすら加えようとしていたのである。
今の【居合い】にもレミニアなりの改良が加えられ、一撃の破壊力は何倍も増していた。その攻撃をかすり傷程度に収めたガダルフもまた非凡ではあるが……。
「身体が馴染んできた。そろそろ本気といこうか」
「何をその思わせぶりな発言。わたしが本気じゃなかったとでも……」
ガダルフは傷を癒やす。
完全回復したところで、再び戦いの銅鑼が鳴った。
再び両者は中央でぶつかる。
乾いた音が強い耳鳴りのように耳朶を打つ。互いに剣を引くと、また連撃を加えた。鍵盤を叩くように金属音が激しく響く。
押されていたのは、レミニアだ。
如何に彼女が天才でも、基礎能力ではガダルフの方が上だった。
あえて説明するならば、レミニアの斬撃の方が軽いのだ。
レミニアは斬る角度の正確さと多彩さで誤魔化していたが、基礎部分の差は時間とともに如実に表れる。
互いに足裏をつけて斬撃を放つ超接近戦の圧力に、レミニアは徐々に負け始めていた。
カンッ!!
レミニアの剣がついに弾かれる。
大きく出来た隙に、ガダルフは身体をねじ込んだ。
「終わりだ」
「ええ……。わたしは終わりよ」
わたしは…………ねっ!
レミニアは頽れる。
勝負あったと思った瞬間、ガダルフも予想していない場所から細い剣が飛んできた。それはスルスルと伸びていき、ガダルフの肩を貫く。
「な……ニッ!?」
何が起こったかわからないという表情のガダルフ。だが、視界に映ったもう1人の影を見て、驚く。
ハシリーだ。
レイピアを持った女性が鋭い眼差しでガダルフを睨んでいた。
頽れるガダルフ。逆に立ち上がったのは、レミニアだ。
今1度剣を握り、ガダルフに迫る。
「貴様ら!!」
「ぼくを忘れてもらっちゃ困るな、ガダルフ」
「そう。忘れてもらっちゃ困るわ。これは競技場の戦いではないの。いざ尋常に――――なんて戦いじゃないのよ」
レミニア、そしてハシリーが1歩踏み込む。
自分たちの強い意志を込めた一撃が、倒れるガダルフにさらなる一撃を加えるのだった。








