第295話 リヴァラスの真実
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「アラフォー冒険者、伝説となる」第34話がBookLiveで更新されました。
王都に再び黒い影が……。その時、ヴォルフは騎士団員の1人を見つける。
アクションがめちゃくちゃ凄いので、是非見てくださいね。
※ 後書きに新作の情報がございますので、お楽しみに!
「わたしの代わりになろうとしているんでしょ》?」
レミニアとハシリーの間に、一陣の風が巻く。
聖樹リヴァラスの静謐な空気はすでに戦乱の装いをして、やや焦げ臭く、微かに血の臭いが混じっていた。
風で舞った木葉に火の粉が付くと燃え上がる。やがて炭となったそれは池の水面に落ちて、波紋を作った。
ハシリーは息を吐く。
「ということは、ぼくの予想は当たっていたということでいいんですね」
「いつわかったの?」
「最初から――――というわけではありません。判明したのも偶然気づいただけです。といっても、ぼくじゃなくても少し優秀な秘書であれば、あなたの企みについて気づいたでしょうね」
ハシリーは遠い目をして、目の前のリヴァラスを見つめた。
◆◇◆◇◆ ハシリーの回想 ◆◇◆◇◆
ハシリーがそれに気づいたのは、レミニアと聖樹リヴァラスの視察に行った際だ。
巫女のコノリの案内で、レミニアとハシリーは初めてリヴァラスと対面する。
といっても、終始レミニアは偶然コノリが出会ったヴォルフのことが気になるらしく、根掘り葉掘り質問していただけだが……。
それでもリヴァラスを前にすると、あどけない少女の顔は研究者としての表情に変化していった。
得意の魔法でリヴァラスを鑑定し、聖樹の構造を解析する。
コノリと話している時は楽しそうだったレミニアの顔は次第に沈んでいった。
「やっぱり……。さすがわたしのママね。論文に書いてあった通りだわ」
「どうしんたんですか、レミニア? 浮かない顔をして」
「聖樹リヴァラスはもうすぐ枯れるわ」
「え?」
ハシリーは声を上げたが、1番驚いていたのは巫女であるコノリだ。
コノリはずっと聖樹リヴァラスを見守ってきた。そのすべての声を聞いてきたと思っていた。だからこそ、レミニアの言葉は衝撃的だった。
「コノリ、驚くことじゃないわ。大事な人だからこそ、伝えないことだってある」
「…………」
「ハシリー。あなたまでなんて顔をしてるのよ」
「あ。いや、別に……。しかし、仮に聖樹リヴァラスが枯れるようなことがあれば、何が起こるんですか?」
「ママの予想したことが現実になる」
「それって……。つまり、ストラバールとエミルリアが激突するという」
「そう。そもそもね。ハシリー、このリヴァラスこそわたしたちが作ろうとしている賢者の石なのよ」
「へっ???」
唐突に思わぬ言葉を聞いたハシリーは固まる。
レミニアに引けを取らないぐらいには、自分も頭がいい方だと思っていたハシリーだが、この時ばかりは混乱した。
「聖樹リヴァラスは賢者の石の塊よ。誰がこんなものを作ったのかは知らないけど、少なくともこれがあるからこそストラバールとエミルリアは均衡を保てている」
「なら聖樹リヴァラスがなくなれば……」
「仮にそういうことになれば、間違いなくストラバールとエミルリアの均衡は崩れて、世界と世界はぶつかり合う。そうなれば、わたしたち人類は、いえストラバールにいる生きとし生けるもの全てが消滅する」
「じゃあ、聖樹リヴァラスの寿命は……」
「本当はもっと保つはずだった。でも、ガダルフが聖樹を一時的にとはいえ、腐らせてしまったおかげで、その寿命は加速度的に縮んでしまった。それでも、あたしやあなたが死ぬまでぐらいは保つとは思うけど……」
「ガダルフはさらなる嫌がらせをしてくる可能性が高い、と……」
「もっと直接的な方法を用いるかもね。たとえば、リヴァラスを斬るとか」
「ハウ~」
ついにコノリは目を回して倒れてしまう。
受け止めたのはハシリーだ。コノリには少々過激な話だったらしい。
「大丈夫よ。少なくとも今はね。できるなら、とっくにやってるだろうし。でも自己修復の力によって、聖樹リヴァラスの寿命は大幅に縮んだことは確かよ」
「聖樹を救うことはできないんですか?」
「残念だけど、それは難しいかもしれない。自分たちの魔力で補強することはできるかもしれないけど、それも付け焼き刃でしかない。そもそも聖樹も1つの命よ。命あるものは、いつか死に至るのが世の常じゃない」
「けれど、このままではストラバールは……」
「安心して。ママはちゃんと代替案まで考えてくれている」
「なるほど。それが今レミニアが進めている疑似賢者の石ですか」
「…………」
「レミニア?」
「なんでもないわ。そろそろ王宮に帰りましょう」
コノリに礼を言って、レミニアはその場を後にする。
その後、例の疑似賢者の石の開発が進められていったのだが、ハシリーは開発を進める中、その出力が聖樹リヴァラスが放つ魔力の出力に全く足りていないことに気づく。
そしてレミニアの狙いを、秘書ハシリーは看破するのだった。
◆◇◆◇◆ 2人の男と1匹 ◆◇◆◇◆
ルネット率いるレジスタンスは、聖樹リヴァラスを中心に広がる森でうまくボロネー王国軍を押し返していた。【勇者】不在とはいえ。3人の五英傑を要し、さらに【剣聖】ヒナミ、侠客刀士クロエ、作刀師エミリー、公爵令嬢アンリが戻ってきて、戦況は膠着する。
対する痺れを切らしたボロネー王国軍は、ついに聖域に火を放った。
北風を味方にし、火は延焼。さらに煙が森の中に逃げ込んだルネットやレクセニル王国の市民たちを苦しめていた。
アンリなどは人道主義に反する行為だと憤慨したが、ルネットは冷静に「これが戦争なのだ」と割り切った。
散々森で痛い目にあわされた王国軍は、火と煙を見て沸き上がる。
最中、最後尾で見ていた兵士がふと振り返った。
やや靄がかかった空気の中で、現れたのは、2人の男と1匹の……。
「猫?」
戦場に似つかわしくない動物の登場。
しかし、他の2人に関していえば、その腰に剣を下げていた。
その眼光と、覇気……。敵襲と気づくのに、時間はかからない。
合図を送ると、たちまち兵士たちは2人の男と1匹の大猫を取り囲んだ。
「何者だ、貴様ら」
殺気立つ兵士たちの姿を見て、口角を上げたのはヴォルフだ。
「昔を思い出す。冒険者を再開する前、こうやって盗賊に囲まれたっけかな。といっても、まだ1年ぐらいしか経ってないけど」
『ご主人と出会った時も囲まれてたにゃ』
「そう言えば、そうだったな。ルーハス、お前……人間相手の多対1の経験は?」
「舐めてるの?」
側のルーハスが鋭い視線を送る。
「聞くまでもなかったな」
「最速で行くぞ」
「最短でな」
兵士たちの殺意がふわりと浮き上がる。
次の瞬間、吹き飛ばされていたのは兵士だった。
人間が紙きれのように吹き飛ばされて行くのに対して、2人は巨大な戦闘馬車のように進んでいく。
忠告通り、最速にして、最短の距離を突っ走る。
数百とも数千ともいえる兵士の囲みは、ものの10秒もかからず突破されてしまった。
その2人が作った戦場の花道を、ミケは悠々と歩いて行く。
共に同じ刀を持つヴォルフとルーハスを見て、思わず笑った。
『あの2人……。なんだかんだ息がピッタリにゃ』
☆★☆★ 新作情報 ☆★☆★
来週10月25日から拙作原作「おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフ始めました」が
BookLive様で公開されます。
あらすじ
勇者の才能ゼロ――「お飾り勇者」と馬鹿にされながら、15年王宮で軟禁されてた勇者がついに引退。実は長い軟禁生活の中でとんでもなく「鍛冶」のスキルが上がっていた元勇者が、褒賞でもらった土地で鍛冶屋を始めるのだが、王宮では困ったことが起きていて、という感じです。
「アラフォー冒険者、伝説となる」をお読みになっている方であれば、
ヴォルフが鍛冶屋を始めた、というのが、もしかしてイメージを尽きやすいかもしれません。
今回初めてのオリジナル漫画原作ということで、
読者の皆様の反応がめちゃくちゃ気にあるところではありますが、
まず是非読んでください! よろしくお願いします。
版元様は「アラフォー冒険者、伝説となる」の同じメテオコミックス様。
作画は新人のふみおみお先生です。キャラもかっこ可愛いですが、スローライフに大事な要素である背景にもご注目ください(料理描写がとても丁寧!)
「アラフォー冒険者、伝説となる」とは、ちょっと違ったおっさんの成り上がりを是非読んでください。








