表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

318/374

第293話 剣狼の咆哮

☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★


本日コミカライズ最新話更新されました!

【勇者】復活です! BookLive!で配信されておりますので、是非よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)


 ヴォルフの渾身の【無業】が唸りを上げる。

 それは完璧なタイミングだった。

 ヴォルフはこの技をこれまでの戦いで使っていない。

 その技の発動を目の前で目撃しない限り、ハシリーの魔眼は発動しない以上、【無業】に【無業】を合わすこともできなかった。


 つまり、それは千載一遇の勝機であったはずだった。


「どういうことですか?」


 眉を顰めたのは、そのハシリーだった。

 上段に剣を構えたまま、自分の懐に潜り込んだヴォルフを見下げている。同時に見えたのは、ハシリーの首元から胸にかけて、止まったヴォルフの刀だった。


 獰猛な光を湛えた刃は、ハシリーを斬る寸前で止まっている。

 その柄を握った男は、敵を前にして苦しそうな表情を浮かべていた。


「斬れない……!」


 ヴォルフは喉の奥まで出かかっていた言葉を、そのまま吐き出した。


「形はどうあれ、君が今この世界の厄災の中心人物であれ……。ハシリー・ウォートは大事な娘の部下であり、保護者であり、そして友達だ」


「パパ……」


「それにだ。……俺は君がこんな大それたことをする悪人にどうしても見えない。何か理由をあるとしか思えないのだ」


 そう言ってから、ついにヴォルフは刃を引いた。

 切先を下ろし、力を抜き、自然体で目の前の女性を見つめる。


「ハシリー、本当の訳を聞かせてくれ。俺やレミニアに言ってないことが、君にはあるんじゃないのか?」


「本当の訳……ですか?」


「ハシリー、わたしも同じ気持ちよ。パパの言うとおり、あなたに何か考えがあるなら教えて!」


 レミニア、そしてヴォルフがハシリーに訴えかける。

 そこにミケも加わり、1本の剣を握った女性に詰め寄った。

 その顔ぶれを見渡した後、ハシリーはようやく刃を下ろす。


 ……かに見えた。


 ふっとハシリーが消える。

 次の瞬間、ハシリーの姿はレミニアの前にあった。

 下ろすかに見えた剣が再びヴォルフの娘に向かう。

 まるでハシリーの憎悪がこもったような一撃に、ただただレミニアは息を呑むだけだった。


「レミニア!!」


『嬢ちゃん!!』


 一拍遅れてヴォルフとミケが割って入る。

 1人と1匹の強烈な防御陣はすぐに形成された。

 だが、ハシリーの魔眼が光る。



【無業】



 それは井戸の底から響くような声だった。

 事実、暗闇から這い上がるようにハシリーの剣が伸びてくる。最速にして、最短の剣技が行手を阻むヴォルフとミケを切り裂いた。


「ぐわっ!!」


『ぎゃわ!!』


 細腕が握った剣の一撃が、ヴォルフとミケを吹き飛ばす。

 血飛沫が舞い、見ていたレミニアの顔にかかった。


「パパ!! 猫ちゃ――――」


 突如レミニアの意識が断たれる。

 赤い髪が真っ直ぐ地面に向かうかと思われたが、それを受け止めたのはハシリーだった。


 レミニアを抱きかかえながら、振り返る。

 すでに1人の男が立ち上がっていた。

 珍しく目尻が吊り上がり、憤怒の表情を浮かべている。

 その右脇腹からは大量の血が流れていた。


「初めて見ました。そんな顔できるんですね、ヴォルフさん」


「ハシリー……。娘を……レミニアをどうするつもりだ?」


「ぼくの予想ではレミニアが必要なんです。すでに魔力は抜け殻ですが、それでも天上族と人間のハーフ。()としては十分に価値がある」


「器?」


「そんなことよりも、いいんですか?」


 そう言って、ハシリーは横のミケを指差す。

 ヴォルフと同様に大怪我を負っていた。

 むしろヴォルフよりも傷が深いように見える。

 普段はやかましく、戦場となれば勇ましい【雷王(エレギル)】がピクリとも動かない。


「あなたの傷はルネットがかけた強化魔法で回復するでしょう。でも、そこの幻獣は違います。このままでは――――」



 死んでしまいますよ……。



 ヴォルフは息を呑んだ。

 よく見ると息も浅い。弱々しく、風前の灯火を想起させる。

 ミケはヴォルフにとって、かけがえのない相棒だ。

 このまま放っておくわけにはいかない。


 だが、ミケの治療を優先すれば、レミニアが……。

 2つに1つ。

 これまでどんな危機もヴォルフは乗り越えてきた。

 それができたのは、レミニア、そしてミケのおかげだ。

 その1人と1匹が今はいない。

 いや、もうヴォルフに味方するものはいないのかもしれない。


「ハシリー、約束してくれ」


「何をです?」


「娘を……娘に危害を与えないでくれ」


「…………そんなの約束できるわけないじゃないですか」


 ハシリーはレミニアを担いだまま、ヴォルフに背を向ける。

 しかし、ヴォルフは追わない。

 声もかけようとしない。ただハシリーに担がれたレミニアの顔を名残惜しそうに見るだけだ。


 何も言わずとも、ヴォルフが誰を選択したかは明らかだった。


「ぼくは今からリヴァラスに向かいます」


「え? リヴァラス?」


「そこで最後の仕上げをするつもりです。追っても無駄ですよ。そのころには……」



 すべてが終わっているはずですから……。



 ハシリーは地を蹴る。

 そのままゆっくりと空へと浮き上がると、東に――聖樹リヴァラスのある森へと加速した。


 ヴォルフの視界から、ハシリーそして娘レミニアの姿がいなくなる。


 完敗だった。

 娘を守れなかったのだ。

 ついにヴォルフはレミニアとの約束を違えてしまった。


 ルーハスに負けた時とは違う。

 負けても、自分の成長を実感することができたからだ。


 でも、今は違う。


 ただただ悔しさだけが込み上げてきた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ヴォルフは吠える。


 手負の狼のように……。


☆★☆★ 今月発売 ☆★☆★


拙作原作『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』の単行本6巻が発売されました。

こちらも是非よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス10巻 11月14日発売!
90万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large





今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


好評発売中!Webから大幅に改稿しました。
↓※タイトルをクリックすると、アース・スター ルナの公式ページに飛ぶことが出来ます↓
『王宮錬金術師の私は、隣国の王子に拾われる ~調理魔導具でもふもふおいしい時短レシピ~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




アラフォー冒険者、伝説になる 書籍版も好評発売中!
シリーズ最クライマックス【伝説】vs【勇者】の詳細はこちらをクリック


DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



ツギクルバナー

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ