第285話 明かされる真実
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突如、雷光がハシリーに降り注ぐ。
反応したハシリーは咄嗟に回避した。
遅れて雷鳴が轟く。直後、生まれたのは凄まじい雷圧を受けて抉られた大地だった。
「【雷王】か……」
ハシリーが振り返ると、ミケが毛を逆立たせて威嚇している。
そのさらに後ろでは、斬られたルーハスを持ち上げるヴォルフの姿が合った。
「パパ……」
「大丈夫だ。意識はある。さすが白狼族と人間のハーフブリッドだ」
すぐ治療すれば、問題ない。
あるとすれば、その時間を目の前の相手が許してくれるかどうかだろう。
ルーハスだから助かったとはいえ、あと半歩踏み込んでいれば、致命傷だったかもしれない。ハシリーにためらいがないことは、ヴォルフほどになれば、その切り口でわかる。
それだけ本気ということだ。
ヴォルフは顔をあげ、ハシリーを見つめる。
注目したのは、その瞳だった。
(あの輝きは……。見間違いじゃない。魔眼か?)
薄い水色の瞳が光っていた。
それは彼女の信念の表れでも合ったかもしれないが、確かにその瞳は燃えるように光っている。
ヴォルフはルーハスとハシリーの戦いを見ていて、彼女の瞳が光るのを見逃さなかった。おそらく「魔眼」の類だろう。ワヒト王国でノーゼ・ダルマツも使っていたが、その効力は比ではない。
目のこともそうだが、ヴォルフが気になったのは、ハシリーの言動の変化だ。
英雄を否定する……。
その言葉の中に、今までハシリーの中に感じ取れなかった深い憎悪を感じた。
ヴォルフはレミニアにルーハスと持ってきた回復薬を渡す。
レミニアが作る霊薬ほどではないが、ヴォルフの特製だ。
全回復とはいかないだろうが、出血を止めるぐらいはできるはずである。
レミニアにルーハスを預けたあと、再びヴォルフはハシリーと対峙した。先程まで戦っていた相手だが、やはりその正体を知れば、また違う感情が浮かび上がってくる。
ハシリーの目に迷いはなくとも、ヴォルフの覚悟はまだ整っていなかった。
「ハシリー、君は一体何者なんだ?」
今、ハシリーがしていることよりも、彼女が一体何者であるかの方が気になった。
振り返ってみれば、ヴォルフはハシリーのことを何も知らない。レミニアの秘書で、レクセニル王国の研究員。優秀な魔法士であるとも聞いている。
だが、それだけだ。
翻せば、たったそれだけしか知らない人間に大事な娘を任せていたのである。そう考えると、二の腕に寒気が走った。
「あなたの娘の秘書であり、レクセニル王国の研究員…………とだけ言って、納得してもらえるようには見えませんね」
「そう。あなたはわたしの秘書だった。そして、こんな大それたことをしでかすような人間には思えなかった」
「そりゃそうですよ。ずっと猫を被ってましたからね。ふふ……。今思えば、よく天才といわれるあなたを騙しおおせたものですよ。まあ、所詮頭でっかちな田舎娘ですからね」
「言うわね。それがあなたの素?」
「そうです」
ハシリーは大きく息を吸う。
ずっと被っていた羊の皮を脱ぎ、入ってきた新鮮な空気を吸うようにだ。
再びニヤリと笑うと、消えた。
次にハシリーを認知した時、その姿はレミニアの前にあった。
濃厚なバターのような殺気を剣に込め、かつての年下上司の命を狙う。
レミニアの反応が遅れる。
防御しようにも盾はおろか、鎧すら纏っていなかった。
天才少女の頭の中に、明確に"死"のイメージが浮かび上がる。
「させるか!!」
すかさずヴォルフが飛んでくる。
振りかざされた凶刃を受け止めようと、【カグヅチ】を構える。
だが、またハシリーの姿が消える。
気配はヴォルフの背後にあった。
その後ろにはレミニアがいる。咄嗟に反応し、ヴォルフは振り返ると、すでにハシリーの剣はアラフォー冒険者に向けられていた。
さらにもう1つの気配……。
(しまった!!)
ヴォルフは心の中で叫ぶ。
同時に、ハシリーの2つの牙がヴォルフの肉に噛み付いた。
【狼牙】!
ルーハスの技だ。
超速度による2点からの同時攻撃。
達人はおろか、まさに神がかり的な技をハシリーはすでに自在に使いこなしていた。
ギィン!!
ヴォルフは正面の剣を受ける。
だが、後ろの剣に対応できなかった。
「うわああああああああ!!」
悲鳴を上げながら、下がる。
しかし、レミニアを守ることは決して止めない。
正面の方を捌いたのも、目の前にいたレミニアをすぐ守れるように体勢を整えるためだ。
「思い切りがいいですね。さすがは【剣狼】。どっちもではなく、片方の斬撃だけを完封し、ダメージを抑えましたか」
「パパ……」
「大丈夫だ。まだやれる」
心配そうに父親を見つめるレミニアの方を見て、ヴォルフは笑う。当然強がりだ。それは背中の傷からでもわかる。まさしく大狼の牙に食いちぎられたかのような生々しい傷が右肩から左脇に向かって刻まれていた。
ルネットが仕掛けた【時限回復】のおかげで、すでに回復は始まっているが、徐々に治りが遅くなっている。
「パパ、魔力が……」
レミニアの表情が引きつる。
ヴォルフは何も答えなかったが、代わりに大口を開けて、ハシリーが笑い出す。
「ククク……。アハハハハハ!」
「何がおかしいのよ、ハシリー」
「そういう顔ですよ、レミニア。ぼくはあなたのそういう顔がずっと見たかった」
「なんですって……」
「ヴォルフさん、ぼくが何者かと訊きましたね。教えて差し上げますよ。あなたの娘の側にずっといた正体不明の女の話を……」
ハシリーはゆっくりと切っ先をヴォルフからレミニアに向けた。
「ぼくはレミニアと同じなんですよ」
「同じ? …………っ!?」
レミニアは何かに気づくが、勘の鈍いヴォルフにはわからなかった。
やがて、ハシリーは口を開く。
親子の反応を楽しむようにだ。
「ぼくも一緒です」
ぼくも天上族と人族のハーフなんですよ……。