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第283話 勇者が背負うもの

☆★☆★ コミックス5巻 6月12日発売 ☆★☆★


発売まで10日を切りました。

王国革命編完結。さらに新章に突入です。

特典SSもありますので、是非お買い上げください。


挿絵(By みてみん)


 南の方で何か巨大な気配が消えた。


 あの天使に匹敵……いや、それ以上の力を持つ存在が2つ。その1つが消え、もう1つもかなり弱々しく風前の灯火である。


 ヴォルフも、レミニアも、ミケも気配が消えたことについては理解していたが、目の前に顔を露わにした人物を見て、もはやそれどころではなかった。


 ベリーショートの白い髪

 薄い水色の瞳。

 線は細く、胸も薄いため、男装していれば、男に見えたかもしれない。


 ハシリー・ウォート。


 レクセニル王国の研究員にして、レミニアの秘書だ。

 レミニアが疑似・賢者の石(エクサリー)から目覚めた時、ハシリーは姿を消していた。

 どこに行ったのかと思っていたが、ヴォルフとずっと戦っていた相手がハシリーとは思わず、レミニアは絶句する。


 ショックなのはヴォルフも同様だ。

 今まで娘の側にいた人物と切り結んでいたのである。

 当然「何故?」と頭に疑問が浮かんだものの、なかなか声が喉から上がってこない。

 【カグヅチ】の切っ先もだらんと下に下がっていた。


 そんな中で、表情を変えなかったのは、ルーハスである。


 百虎(びゃっこ)を葬り、現れた【勇者(ブレイブ)】は、ミッドレス親子と違って、まったく表情を変えなかった。


 そんなルーハスを見ながら、ついに正体を現したハシリーは笑った。


 その顔はハシリーを知る者からすれば、ゾッとして恐ろしく、酷薄に映る。


「よくわかりましたね、ルーハス・セヴァット。……もしかしてルネットですか? さすが五英傑の【軍師(ストラーテ)】と呼ばれるだけはありますね」


「ルネットはレクセニル王国にかかわるすべての人間を調べさせた。だから、ムラド陛下がガダルフ、あるいはその傀儡であることはすでに見抜いていた」


「へぇ……」


「そしてお前だ、ハシリー・ウォート。お前の出自は調べさせてもらった。そして、お前が本物の(ヽヽヽヽヽヽ)ハシリー・ウォートではないことがわかった。お前はハシリー・ウォートを語る偽物だ。おそらくレクセニル王国王宮に入り込む必要があったからだろう」


「ご明察です」


「とはいえ、こうやって切り結ぶまでは確信を持てなかったがな」


「ああ……。レクセニル内乱の時ですね」


 ルーハスとハシリーはわずかの間だが、戦っている。


「剣筋の癖や強さ、踏み込み、目付などはなかなか誤魔化せるものではない」


「参りましたね。まさしく1本を取られたわけですね。さすがは五英傑……。1度地に落ちた名前ですが、やはり音に聞く優秀さです」


 ハシリーは「弱った」とばかりに肩を竦めて、戯ける。


「ウソでしょ、ハシリー?」


 それまでずっと固まっていたレミニアが、喉を絞り上げるように声を出す。


 ハシリーもまた、顔を見せた後、初めてレミニアの方を向いた。


「悲しいですね、レミニア」


「え?」


「ぼくはあなたの秘書だった。四六時中、側にいたし、まるでそれは姉妹も同然だったじゃないですか? なのに、ぼくが本物のハシリーだとわからないんですか?」


「…………」


 レミニアは答えない。


 しかし、彼女は【大勇者(レジェンド)】にして天才である。

 賢いからこそ、そしてずっと側にいたからこそわかる。

 今、目の前にいるのが、レミニアがよく知る秘書であることを……。


 再び沈黙する娘の反応を見て、ヴォルフも理解する。

 今目の前にいる彼女が、ヴォルフも知るハシリー・ウォートであることを。


「ハシリー……。何故……? 何故君が俺たちと敵対する? まさか君がガダルフだったのか? 教えてくれ! ハシリー!」


「ヴォルフさん……」



 戦いはまだ終わってませんよ。



 ハシリーが走る。

 ヴォルフとの間に存在した間合いが、お湯をかけられたチョコのように溶けていく。

 気が付けば、ハシリーはヴォルフの前にいて、その凶刃を振り上げていた。


 身を固くしていたヴォルフの対応が刹那遅れる。たった一瞬の差だったが、頂上決戦において、それは致命的なミスだった。


「パパッ!!」


 レミニアの悲鳴と同時に、高い金属音が鳴る。


 ヴォルフは【カグヅチ】の柄を握りながら、その現れた大きな背中に驚く。

 まさに銀光のように出現したそれは、ハシリーの凶刃を寸前で防いでいた。


「ぬっ!」


 気合い一閃。

 ルーハスはハシリーの握った剣ごと弾く。


 白狼族と人間のハーフブリッドである彼の膂力は、【勇者】と讃えられるに足る力を持っている。

 その技の冴えは、以前のヴォルフと戦った時と比べても、別人であった。


「ぼうっとするな、ロートル。ここが戦場であることを忘れたのか?」


「ルーハス……。しかし、彼女は娘の――――」


 直後、ルーハスが持つ刀の切っ先がヴォルフの鼻先に突きつけられた。

 横で見ていたレミニアとミケが目くじらを立てるが、それをルーハスは一睨みで黙らせてしまう。


 やがてヴォルフたちに背を向け、ハシリーと真正面から向かい合う。


「お前が戦えないというのであれば、オレがやるだけだ。ロートルと【大勇者(レジェンド)】はそこで黙ってみてろ」


 ルーハスはハシリーに切っ先を向ける。

 五英傑【勇者(ブレイブ)】が正式に宣戦布告するのを見て、ハシリーは再び微笑んだ。


「あなたが相手をする? ぼくに勝てると思っているんですか?」


「さあな」


「おや。意外と悲観的ですね。『当然だ』とか言うのかと思ってました」


「お前に勝てるかどうかなど知らん。だが…………」



 お前は、オレに勝てるのか?



「え?」


 瞬間、銀光が閃く。

 次に意識した瞬間、ハシリーの頬の隣に、切っ先鋭き刀の姿があった。


 ハシリーは寸前で脱力し、腰を落とす。

 すると、空気を巻き込みながら、ルーハスの剣閃が頭の上を飛んでいく。

 慌てて、ハシリーは距離を取ろうとするが、ルーハスが退路を断つ。

 また気が付けば、背後を取られると、今度はハシリーの脇腹を目がけて、切っ先が飛んできた。


 ハシリーは腰をひねって、それも回避する。さらにカウンターを合わせようとした時、すでに視界からルーハスの姿は消えていた。


 次に現れたのは、上だ。

 裂帛の気合いとともに、刀を大上段から振り下ろす。


 体勢が整わないまま、ハシリーは剣で受けた。

 その衝撃は凄まじく、ハシリーは吹き飛ばされる。


「速い……! そして強い!!」


 ヴォルフは息を飲む。


 単純に感心した。

 愚者の石(アンチ・エクサリー)の力や、強化魔法を受けていないにもかかわらず、ルーハスはナチュラルだ。


 なのに、愚者の石(アンチ・エクサリー)の恩恵を持つハシリーを圧倒している。


 驚くべきは、その速さだろう。


 まるでルーハスが2人いるかのようにあらゆるところから刀が出てくる。

 まさに狼の上顎と下顎。間断のない攻撃にヴォルフは舌を巻いた。


「何よ、あの【勇者(ブレイブ)】様。めちゃくちゃ強いじゃない……」


「あれは俺たちが知っているルーハス・セヴァットではないよ、レミニア」


「え?」


「俺と戦った時のルーハスに何もなかった。付き従う冒険者はいたが、ルーハス自身の中身は空っぽだった。でも、今は違う。ルーハスには守るべき人がいる」


 以前、自暴自棄に近い両刃の刀だった。


 だが、ヴォルフには見える。


 彼が今背負っているものを……。


 多くの仲間の期待を背負った、本当の【勇者(ブレイブ)】の姿を……。


ご予約お願いします。


挿絵(By みてみん)

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