表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

305/371

第280話 闘争の味

☆★☆★ コミカライズ更新日 ☆★☆★


本日、BookLive様にて最新29話が更新されました。

Web版44、45話の内容となります。

少年騎士たちの熱い戦いにご注目ください。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


「ふふ……」


 不敵に笑ったのは、ハッサルであった。

 神狐(しんこ)にして、盲目の占星術師は、初めてヴォルフの前に出てきた時とは印象は異なる。

 口角が禍々しく歪み、這いつくばる元ライバル――カラミティ・エンドを蔑む。


 血反吐を吐き、美しい肌を切り刻まれ、象徴的な禍々しい翼が折れても、カラミティは立ち上がる。


 その姿はどことなくヴォルフ・ミッドレスと被る。

 レクセニル王国で起こった惨事。

 カラミティすら死を受け入れられずにはいられなかったあの絶望の淵で、それでもヴォルフ1人だけが諦めなかった。


 ヴォルフという男を知らなければ、カラミティはとっくに死んでいただろう。


 けれど、今彼女の側にヴォルフ・ミッドレスはいない。遠くレクセニル王国の地で彼は今最愛の娘を背にして戦っているからだ。

 今日だけはヴォルフに頼ることはできない。


(確かにヴォルフはいない。だが、我の中にはヴォルフ・ミッドレスが存在する!)


 その時のカラミティの表情を見た時、ハッサルから笑みが消えた。


 火事場の馬鹿力というわけでもない。

 ただ死という結末を望んだものの目ではなかった。


 何よりハッサルが持つ【千里眼(サザンド・ジェル)】の見せるビジョンが歪み、未来が見えなくなる。


 未来を視ていて、時々あることだ。


 それでも、ハッサルもまた引かなかった。


「カラミティ……、様…………」


 地面に倒れたゼッペリンが、眼球だけを動かし、まるで聖者のように立った主を見つめる。


「ゼッペリンか……。まだ意識があるか」


「……ど、どうか。お逃げ……くだ…………さい。……あな、た…………なら」


「ゼッペリンよ」


 すると、カラミティは振り返る。

 串刺しにされ、血まみれになっていた秘書の身体を抱き上げた。

 そして、ゼッペリンの唇にそっと口づけをする。


 予想外の行動に、ゼッペリンは息を呑んだ。


 口づけされることに、さほど抵抗はない。

 血を欲する時に、何度もされた行為だ。

 しかし、そこにカラミティの血はなかった。

 ただ甘く、少し鉄臭い――闘争の味がする接吻だった。


 先に唇を離したのはカラミティである。


 表情は笑っていたが、ワインレッドの瞳にはどこか憂いのような感情が感じられた。


「ゼッペリン、今日までよく尽くしてくれた」


「カラミティ様……。まさか――――」


「ああ。今日で終わりだ」


「…………」


「国を興して、700年……。存外楽しいものだった。お前たちとともに過ごした日々は一生忘れぬ」


「……本当に……よろしいの……ですね?」


「お前はカラミティ・エンドが背を向けて逃げるところを見たいか?」


 ゼッペリンは首を振る。

 しかし、その瞳は涙に濡れていた。


「カラミティ様と……いて……。私は…………いえ。ともに歩めたこと…………幸せでないものなど……1人もおりませぬ」


「嬉しいことを言ってくれる……。さすがは我が秘書だ。さあ、ともに血の道を歩もう」


「最期までお供させていただきます」


 そしてゼッペリンは顔を上げる。


 目の前の神狐(しんこ)、さらに天上族から捨てられた村人たちを睨む。


「行くぞ、ゼッペリン」



 そして、死んでくれ。我が矜恃のために……。



 カラミティは指を思いっきり噛む。

 血が滴り、1滴地面に落ちた。


 次の瞬間、赤い……カラミティの瞳に似た色の光が戦場に広がる。

 浮かび上がった模様は、過去に類を見ないほどの巨大な魔方陣だった。


 すると、それまで倒れていた不死の軍勢が起き上がる。骨が折れ、脚がもげ、下半身をなくしても、それは動こうとする。

 真っ直ぐ、カラミティの元へと向かい、その美しい足に絡みついていった。


「我が主に血と肉を……」

「差し出せ、己の血と肉を……」


 不死の唸りが漣のように聞こえる。


 それはただ倒れていた不死の軍勢だけではない。


 まるで今思い出したように村の近くの墓石が動き、土の中から腐った肉の不死者が現れる。

 墓だけじゃない。

 その辺に埋まっていた人骨も意思を持ったように動き出す。


「我が主に血と肉を……」

「差し出せ、己の血と肉を……」


「我が主に血と肉を……」

「差し出せ、己の血と肉を……」


「我が主に血と肉を……」

「差し出せ、己の血と肉を……」


「我が主に血と肉を……」

「差し出せ、己の血と肉を……」


 次々とカラミティが不死者を飲み込んでいく。


 その異様な光景に、天上を追われた者たちですら、息を呑む。

 神狐(しんこ)も【千里眼(サザンド・ジェル)】でも見えなかったこの光景に、唖然としていた。


神狐(しんこ)様、これは……」


 ついに天使の1人が狼狽える。


 今行われている儀式めいた光景だけが問題ではない。カラミティが放った大規模魔方陣は天使ですら何かその場に繋ぎ止めるような効力があった。

 しかも、油断すれば魔力、あるいは生気といったものすら吸われていくからだ。


 歪に曲がっていくかつてのライバルを見て、ハッサルは笑った。


「カラミティ……。あなた、昔に戻るつもりなのね」


 しばらくして、ようやく魔法陣の効果が止まる。突然夕闇が訪れたような赤の世界は潮のように引いていき、再び血臭が漂うのどかな村の光景が広がる。


 気が付けば、不死者たちの姿はいない。

 ゼッペリンも、そして骸骨将軍の姿もなかった。


 ただ1人……立っていたのは、膝にすら届く長い銀髪と、金色の瞳をした淑女であった。

 スリットの入ったボンテージの黒のドレスを纏い、ロンググローブの先にはある繊細な指先には、柄が骸骨となった剣が握られている。


「この姿になったのは、700年ぶりだな」


 淑女の口から漏れた言葉は、氷のように凍てついていた。


 淑女に覆い被さるようにあったのは、大きな天使の影。

 今まさに淑女に掴みかかろうとしている。


 だが、次の瞬間には淑女の姿は消えていた。


 その動きについていけていたのは、ハッサル1人だけだ。


「上よ」


 天使たちは空を見上げる。

 だが、見上げただけで反撃などできなかった。

 落ちてきた淑女の蹴りを思いっきり後頭部に痛打すると、そのまま地面にめり込む。


 すかさず着地を狙った天使は――――。


「ふん……」


 鼻で笑いながら、持っていた剣を振った。


 スパッと天使の身体が袈裟に切られる。

 さらに足蹴にしていた天使の脳天にも、剣を突き刺し、2体の天使は同時に消滅した。


 あの【大勇者(レジェンド)】ですら手こずった天使を、淑女はあっさりと殺したのだ。


 銀髪を靡かせながら、淑女は金色の瞳を光らせる。


「控えよ、下郎ども。……我は真祖――カラミティ・エンドなるぞ」


来月にはコミックス5巻発売されます。

すでにAmazonや楽天では予約ができるようになっていますので、

ご予約よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シリーズ大重版中! 第7巻が10月20日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本7巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large





今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


好評発売中!Webから大幅に改稿しました。
↓※タイトルをクリックすると、アース・スター ルナの公式ページに飛ぶことが出来ます↓
『王宮錬金術師の私は、隣国の王子に拾われる ~調理魔導具でもふもふおいしい時短レシピ~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




アラフォー冒険者、伝説になる 書籍版も好評発売中!
シリーズ最クライマックス【伝説】vs【勇者】の詳細はこちらをクリック


DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



ツギクルバナー

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ