第277話 カラミティの正体
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
先行配信しているBookLive様にて、コミカライズが更新されました。
第26話はついに書籍2巻以降の展開になります。
これからもますます面白くなるので、是非読んでくださいね。
『おおおおおおおお!!』
カラミティの血を受けたゼッペリンが吠える。普段は理性的な男は、この時ばかりはケダモノへと変わっていた。
真っ先に天上族に飛び込んでいく。
その横にはカラミティの姿があった。
「我が輩らも行くぞ! 後れを取ることは断じて許さん!!」
骸骨将軍が叫ぶ。
一時は天上族の強さに鼻白む場面もあったが、カラミティとゼッペリンの活躍を見て、不死の軍団の士気が上がる。
再び鬨の声を上げて、対峙する天上族に襲いかかった。
こうなれば、乱戦である。
不死の軍団はカラミティとゼッペリンの攻撃力を武器に押し込む。周りの兵たちもただ殺されるわけではない。そもそも彼らは不死の兵だ。たとえ身体をバラバラにされても、一矢報いようと再び立ち上がる。
まさにゾンビ戦法だった。
「こやつら!」
「叩いても叩いても起き上がってくるぞ」
「野蛮な!」
「これだからストラバールのケダモノどもは!」
天上族たちは眉間に皺を寄せながら、群がってくる不死の軍勢に唾棄する。
だが、その圧力に押され気味であることは事実だった。
「フハハハハハハハハ……!!」
その中で、カラミティの笑い声が響く。
血を浴びながら、腕を広げ、戦場をプリマのように踊っている。
「野蛮で結構……! これが我が軍団の戦い方だ!! エミルリアの古の民と、ストラバールの古の民。どちらが強いか決着を着けてやろうではないか!!」
カラミティは吠えるのだった。
戦いはさほど長く続かなかった。
カラミティが言ったエミルリアの古の民と、ストラバールの古の民の戦い。
それは割と早く終結した。
「愚か者め……」
「所詮は蛮族の民……」
「我ら、天上の者には勝てぬ」
その声は野外にあっても荘厳に響いた。
まるで世界に響くような鐘の音を聞いているようだ。
それは今、ストラバールにいる生物の中でも特別巨大だった。真っ白な身体に、思わず指を組んでしまいそうな神聖な翼。顔の輪郭こそ溶けてないが、赤く一対の瞳が鋭く光っていた。
空を覆うような姿はまさしく巨大な天使。
そして、その足に踏まれ、成敗された悪魔のように佇んでいたのは血にまみれたゼッペリンだった。
その周りには骸骨将軍を始め、不死の肉体が転がっている。そのすべてがほとんど焼かれ、残っていた腕も天使によって浄化されている。
「はあ……。はあ……。はあ……」
残るはカミラティである。
唯一立ち上がった【不死の中の不死】の戦意は未だに衰えていない。
綺麗な白髪は真っ赤に染まり、まるでカラミティ自身が燃えているようにすら見える。
しかし、天使の姿に変身した天上族の存在感は圧倒的だった。
そしてその力も……。
善戦していた不死の軍団だが、1人の天上族が巨大化し、天使の姿を取った瞬間、戦局は一気に傾いた。
しかも、天使は1人ではない。
今、確認できるだけで、3体の天使がカラミティを取り囲んでいた。
「貴様ら、その姿……」
天上族が変身した姿にカラミティは覚えがあった。
エミルリアから飛来した謎の天使の襲来。レミニアを含めて、多くの腕に覚えのあるものたちが戦い、散り、最後には撃退したあの天使の姿である。
それが3体……。
ヴォルフを欠いたとはいえ、レミニアや三賢者すら手こずった相手が、今カラミティの前にいた。
「やはりまがい物」
「お前は失敗作だ、カラミティ」
「我らには勝てぬ」
天使たちが喋る度に、空振が起こる。
鼓膜が引き裂かれそうな声を聞きながら、カラミティは唸った。
「失敗作? 我を失敗作というか!」
「そうだ。お前は失敗作だ」
「戦ってみて確信した」
「お前は我ら天上族の失敗作」
「な、に……。我が天上……ぞく……?」
「天上族は選ばれた民……」
「失敗作はいらない」
「すべてストラバールに捨てる」
「それは貴様らも一緒ではないのか?」
「否定はしない」
「しかし、お前はその中でも不出来」
「いや、危険分子……」
天上族は語った。
カラミティのルーツ。
それは【不死の中の不死】と呼ばれる前日譚ともいうべきものだろう。
天上族は不穏な考え、危険とされる能力ある者を、このストラバールに追放してきた。
その1人がカラミティというのだ。
「その不死の力も……」
「人よりも強い膂力も……」
「そして…………」
「ふざけるな!!」
カラミティは叫んだ。
大きく飛び上がる。
そして背中から大きく翼を広げて、空へと上っていくと、天使たちを見下げた。
「我はカラミティ・エンド。【不死の中の不死】――真祖の吸血鬼だ。貴様らのような穢れた種族であってなるものか!!」
髪を逆立たせて、カラミティは吠える。
しかし、天使たちは冷静だった。
特に反論することもなく、ただ黙ってカラミティを指差した。
正確には、カラミティが広げた翼。
「その翼はまさしく不出来な証」
「異端なる翼」
「出来損ない」
「なっ!」
「しかし、お前の言う通り」
「我らはお前と一緒」
「エミルリアから追放されしもの」
天使の指差していた手は、まるでカラミティと握手でもするかのように誘う。
「我らはお前を殺さない」
「我らはお前と同じだ、カラミティ」
「我らと手を組め」
「ふざけるな! 部下を足蹴にされて、我がお前らと手を組むなどあり得ぬ!」
「そこをどうかお考えいただけないでしょうか、カラミティ陛下」
天使とは別の声が聞こえる。
まだ血の臭いが漂う戦場の中で、現れたのは1人のか弱い女だった。
小麦色の長い髪に、白く儚げな肌。四肢は細い一方、胸は豊かでさらにそれを強調するようにワヒト王国の伝統衣装を身に纏っている。
気になるのは目をつぶっていることだ。視力がないのであろうが、女ははっきりとカラミティの姿を捉えていた。
しかし、カラミティがもっと気になったのは、頭から出た狐耳とフワフワとした大きな尻尾である。
「神狐か! 貴様、生きていたのか?」
「覚えていてくれましたか、陛下。こうして向かい合って話すのは500年ぶりぐらいになりますか?」
「何故、貴様が出てくる女狐め。まさかお前がこいつらそそのかしたのではないだろうな、神狐」
「その呼び方もまた懐かしい。ですが、陛下……。私は今、こう名乗っているのですよ。三賢者の1人……」
ハッサル・ムニミア、と……。