第273話 新加入
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蘇雀を倒した。
だが、ブランの攻撃はあまりに容赦がなかった。いくら再生するとはいえだ。
あの攻撃を魔獣相手にも行っていたと考えると、少し身震いしてしまう。
魔獣の血を浴びた巨人族の戦士の姿を容易に思い浮かぶ。その足元に魔獣はおらず、ただ血なまぐさい血が広がるだけ。
何となくブランが五英傑の中で、噂を聞かない理由がわかったような気がした。
その巨躯と、その巨大な膂力ゆえに、倒した魔獣を跡形もなく消滅させてしまうからなのだ。
「姫も怖いか?」
「え?」
「オレは昔からこんな戦いしかできねぇ。巨人族は1度戦いの合図が始まると、その闘争本能を抑えられねぇ。だから、相手が消滅するまで戦う。執拗に……、敵が目の前になくなるまでな」
だから、ブランを怖がる者もいた。
口先に出すのも恐ろしい戦い方をするからこそ、五英傑の中で彼女の噂だけを聞かなかったのだろう。
「戦うのはあまり好きじゃない。……でも、戦わなければヴォルフ殿に会えねぇ。だから、オオ、オレは戦場に出てきた」
第二次魔獣戦線以降、その消息を絶っていたが、仲間の死と自分に向けられる冷ややかな目を見て、ブランは人から離れたのだろう。
戦場から去ってから、耳にした引退した冒険者が活躍しているという噂……。
それはブランの生き様に、何か似たようなものを感じたのかもしれない。
「怖いなら怖いと言ってくれ。オレはそれでも――――」
「怖くなどありませんよ」
アンリはブランの足の上に手を置く。
ブランに向かって上げた顔は、とても爽やかだった。
「姫?」
「あなたは私の家臣を守ってくれた。いや、私の知り合いを、そして私の大切な人のために、また戦地に戻ってくれた。何を怖がることがあるのです、ブラン殿。……むしろ私はあなたから勇気をもらいました」
「…………」
魔獣の返り血でドロドロになっていたブランの顔に赤みが差したような気がした。
巨大な鉄槌を地面に放り捨てると、空になった手をアンリに差し出す。
「うわっ!」
アンリは悲鳴を上げながら、ブランの両手に包まれると、そのまま持ち上げられた。
まるでお人形を可愛がる子どもみたいに、頬ずりを繰り返す。
「ブラン殿、くすぐったい」
アンリの気持ちのいい笑い声が戦場に響く。
それはいい目覚ましになったらしい。
半ば意識を失いかけていたリーマットとダラスを覚醒させた。
子どものように笑うアンリを見て、2人はやれやれと肩を竦める。
「オレ……。姫様のファンになった」
「え?」
「アンリ姫。オレも『葵の蜻蛉』に入れてほしい」
「五英傑はいいのか?」
「うん。ルネットには後でいう」
「そうか。じゃあ、ブラン殿は……いや、ブランは今日から『葵の蜻蛉』の一員だ」
アンリはビシッとブランを指差す。
本人は片手でアンリを掴みながら、ぎこちない軍隊式の敬礼をする。
その様子を見ていたリーマットとダラスは顔を合わせた。
どちらも顎が外れるぐらい大きく口を開けていた。
『えええええええええええええええ!!』
◆◇◆◇◆
「おりゃあああああああああああ!!」
空から降ってきたのは、小さな刀士だった。
しかし、身体は小さくともその剣技は凄まじい。自分よりも遥かに大きい邪竜を一刀する。
三枚に下ろされた魚みたいに、パッと邪竜の巨躯が開いた。
着地した刀士はヒナミだ。
邪竜を倒したというのに、その顔は浮かない。小さな顔には、大量の汗が浮かび、珍しく顎が上がっていた。
「はあ……。はあ……。これで何度目だ、クロエよ」
ヒナミが尋ねたのは、横に立って休んでいたクロエだった。
こっちも疲労困憊である。
もはや刀を持つ握力すら怪しく、微かに震えていた。
「そんなん知らんよ。40回ぐらいまで数えてたけど、アホらしくやめたわ」
「同じくだ。しかし、こやつ本当に……」
不死身か、と言おうとした時だった。
それまで胴を断とうと、三枚に下ろそうと生きていた星竜が霧のように消えていく。
今まで見ていたのが、幻だったのではないかと思うほど、目の前から消滅してしまった。
「な、なんじゃ、これは?」
「うちに言われたかてわからへんよ。さすがに疲れた。うちはここで休ませてもらうさかいに」
「妾もそうさせてもらおう」
2人はへたり込む。
急造のコンビは、いつしか背中を合わせて眠りにつくぐらいお互いを信用し切っていた。
◆◇◆◇◆
似たようなことは、拳錻と戦っていたエミリにも起こっていた。
ヒナミたちと同じく、何度も斬り伏せていたが、突如として消えてしまったのである。
エミリの疲労も著しい。
リュウガを地面に突き刺すと、しばし息を整える。
野生の動物より優れた勘は、どこかの戦場で起こった変化を察知していた。
「どうやら、誰かがこの絡繰りを紐解いたようでござるな。ヒナミ殿か、それともアンリ殿かはわからぬが……」
エミリは大きく息を吸い込む。
いつまで経っても整わない息を、無理矢理黙らせると、歩き出す。
大事な人の元へと……。
◆◇◆◇◆
「馬鹿な!!」
蘇雀が消え、星竜も拳錻の気配もなくなった。
それらを敏感に察した悪意は大きな声を上げて、驚く。
そこに追い打ちをかけるように、渾身の一刀を叩き込んだのは、ヴォルフだった。
悪意は構えが間に合わず、吹き飛んでいく。
そのまま背後の林にまで突っ込みそうになったが、寸前で耐えた。
「どうやら、お前の部下がやられたようだな」
「蘇雀が殺されるなどあり得ない。一体何が……」
「それが俺の仲間だ。お前とは違う、血の通ったな」
「黙れ!! クソッ!」
悪意は悪態を吐く。
だが、すぐにその口は愉悦に歪んだ。
「ククク……。だが、まだ百虎が残っている」
薄気味悪い笑い声を響かせる。
「あれは強いぞ。他の魔獣と比べものにならないぐらいにな。ヴォルフ、貴様も戦ったのだろう。エミルリアで戦った魔獣の王……」
「何?」
「百虎はそれを凌駕する我の最高の駒だ。今度こそ、お前らは八つ裂きに」
「ふん……。部下だの、駒だの。言葉に一貫性がないな」
不意にヴォルフでも、悪意でもない――男の声が響き渡る。
その直後、転々と何かが転がってきた。
大きな虎の生首である。
背筋が凍るような光景に、一同は沈黙したが、それ以上に場を凍てつかせたのは、粉雪のように靡く白い髪と、尻尾だった。
夜の海のような深く濃い青い瞳が、戦場を見据える。
意外な人物の介入に、ヴォルフもまた一瞬呆けてしまった。
「【勇者】…………」
ルーハス……!








