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第264話 伝説のページ

新作『王宮錬金術師の私は、隣国の王子に拾われる ~調理魔導具でもふもふおいしい時短レシピ~』を投稿しました。

元錬金術師の主人公が、おいしい時短調理器具を作って、隣国の王子にご飯を作ってもらうお話となります。すでにお焦げあんかけに、塩漬けチーズ、炊飯器で作るチーズケーキなどおいしい料理をご用意しているので、是非お願いします。(下記にリンクがございます)

 アローラの声は広がっていく。


 聖樹リヴァラスの森を、傷付いたメンフィスを、列を成す避難者たちを、それを警護する戦士たちを優しく包んだ。


 アローラの歌は、まさしくヴォルフという男を歌った唄だった。



 平凡な引退した冒険者。



 しかし、娘の強化魔法によって人並み外れた力を手に入れ、冒険者に復帰。



 様々な苦難……。



 自分よりランクが上な英雄たち……。



 倒れた回数が数知れず……。



 こぼした涙の数だけ、剣を振り……。



 起き上がった数だけ、伝説を作った。



 ヴォルフは普通の父親だ。

 ただちょっと……ほんの少しだけ、周りより勇敢で、娘想いなだけ。

 どこにでもいる父親と変わらない。


 そんな男が、本物の英雄になろうとしている。

 いや、英雄譚として語られる英雄になろうとしていた。

 おそらくストラバール史上最も功績を残した者として、後世に語り次がれるだろう。



 でも、まだ彼の道は終わらない。



 後ろに娘が控えている限り。



 ヴォルフは戦い続ける。



 彼は約束した。



 娘の勇者になる、と……。



 それを一切違えず、ヴォルフは今娘の英雄として、剣を振り続けていた。




 アローラの唄が終わる。

 まるで鳥が翼を休めるように、すっと息を吐き、一礼した。


 素晴らしい唄だった。

 すでに涙した者もいる。

 突然、拍手が鳴り、歓声が上がった。


 今まで座っていた人が、頑なに立つことを拒んだ人間たちが、スタンディングオベーションで、アローラの唄を讃える。


 それほど、彼女の唄は荒んだ彼らの心を癒やした。


 何より、彼女が謳ったヴォルフという男の伝説に、皆が感動していた。


「ふざけるな!!!!!」


 皆が称賛の嵐の中で、1人の男が群衆の肩を押しながら現れる。


「何が伝説だ! 英雄だ! 勇者だ!! オレは惑わされないぞ!! こんなのまやかしだ。お歌を聴いて、みんなで頑張りましょう!? 虫酸が走る!!」


 とうとう男はアローラの前に出て凄んだ。


 間にリックが入ったが、アローラは真剣な眼差しで男に向き直る。


 ミランダがこの後に及んでまだ駄々をこねる男に掴みかかろうとしたが、テイレスが抑えた。


 ルネットも息を呑みながら、アローラという司祭と男のやり取りを見守る。


 そのアローラはさらに男に進み出る。


「なんだよ……?」


 男の方から質問すると、アローラはさらに1歩進み出て、男の手を取った。


「震えてる……」


「えっ?」


「大丈夫。怖いのは、みんな同じです」


「ち、ちが……」


「わたくしも、そしてリックも……」


「お、俺は――――」


 リックは赤くなったが、アローラは笑って返すだけだった。


「絶対にあなたを守ります。だから、あなたの命は心配しなくてもいい。あなたは生き続けます。これからもずっと……」


「本当か? 本当にオレは死なないのか?」


「はい。だから、安心して立ち上がってください。急にじゃなくていいです。ゆっくりとでいいですから。あなたのペースで……」


「へへ……。も、もう立ってるけどな」


 男は顔を赤くする。


 アローラは微笑むと、さらに言葉を続けた。


「あなたの勇気を称賛します。あなたも伝説になれる。ヴォルフ・ミッドレスのように……」


 さらに声高らかにアローラは、皆に言った。


「この方だけではありません。皆が伝説になれる。先ほどの謳った伝説の生き証人になれる。その1ページに刻まれる」


「オレたち、伝説の……」

「1ページ……」

「後世に語られる」


 徐々に意味を理解し民衆たちはざわめく。


 それは風の凪いだ麦畑のように広がり、民衆たちを鼓舞した。


「英雄は1人で英雄とは言えない。守る者がいて、励ます者がいて、付き従う者がいてこそ成り立つ者。あなたたちも、重要な伝説の1人なのです。……1人1人が今後100年、いえ1000年語り継がれる伝説になる」


 アローラの演説を聞きながら、ルネット自身も鼓舞されたような気分になった。


 自分が【軍師】というポジションなら、アローラは救国を救うために立ち上がった聖女といったところだろう。


 普段冷静な自分が、とりもなおさず高揚しているのがわかる。


 そして、やるなら今だと思った。


「みんな、手を!!」


 ルネットは手を掲げる。


 アローラが、イーニャが、ミランダが、テイレスが、コノリが、ステラが、リックが、リファラス大公が、そして伝説に名を刻もうと、民衆たちは手をかかげる。


 そこには、あの男の勇気ある姿もあった。


 突如、聖樹リヴァラスが発光する。


 人々から少しずつ魔力が漏れ出し、リヴァラスの方へと流れていく。


 1つ1つは小さな力だ。

 しかし、万という数が集まれば、強力な刃となる。


 次第に魔力で満ちた聖域は、黄金色に染まっていった。


 イーニャは薄目を開けながら、黄金色に染まった大地を見つめる。


「似ている」


 と呟いた。


 時折ヴォルフが見せる心象風景。


 黄金の道……。伝説の道……。


 その光景にそっくり――いや、そのものだった。


 民衆たちがついに伝説を作り上げたのだ。



 ◆◇◆◇◆



「おおおおおおおおおおお!!」


 裂帛の気合いを以て、ヴォルフは攻撃を打ち返す。


 その圧倒的な力に、悪意は再び紙のように吹き飛ばされた。


 ストラバールの大地に叩きつけられながら、口から血を吐く。


 壮絶なダメージに驚きながらも、悪意は立ち上がろうとする。


 ヴォルフの身体が黄金色に光っている。


 完全に魔力は回復していた。

 いや、それ以上の力を感じる。

 強化魔法がついに完成したのだ。


「己!! こざかしいいいいいいいいいい!!」


 悪意は吠える。


 そして、立ち上がり言った。


「余興は終わりだ!!」


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