表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

287/371

第262話 最も傷付いた者

☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★

『アラフォー冒険者、伝説となる』コミカライズ19話が、

BookLive様で更新されました。

アダマンロールとの死闘を最後まで是非ご覧下さい。

新規絵も変わって、心機一転! よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

 ヴォルフの強化を高めるためには、魔力が必要だ。


 聖樹リヴァラスを媒介とした強化魔法に必要なのは、単純に人の魔力だった。

 頭数が欲しいなら、強制的に魔力を吸い出せばいい。


 だが、そんなことをすれば、今ヴォルフと戦っている悪意とあまり変わらない。体面など気にしている場合ではないのは、百も承知なのだが、そうやって強制的に吸い出した魔力は歪みを生む。


 魔力とは、人の願いだという学者がいる。


 だが、願いは正しくもあり、邪な時もある。

 その場合、後者は魔力を歪ませる原因になる。

 しかも、今依り代となっているのは、リヴァラスだ。


 すでにヴォルフを助けるために、相当な力を使った聖樹にこれ以上負担をかけるわけにはいかない。


 さらに邪な魔力は、ルネットがヴォルフ自身に仕掛けた強化魔法も影響を受ける。


 とてもピーキーな代物であるため、1度不純物が混じれば、ヴォルフの方がコントロールを失って、魔法自体の効果を打ち消してしまう。


 魔力を歪ませないには、どうしたらいいか。


 それは、魔力を掲げる人間との共通認識を持つこと。


 即ち、ヴォルフ・ミッドレスのことを知ってもらうことだと、ルネットは結論づけた。


 その役目はできれば、ルネットや五英傑などではなく、武器を持たない民衆がいい。


 同じ武器を持たず、似たような境遇の者こそ、民衆の心を打つのだと、ルネットは考えた。


 そこで選んだのが、ミランダ・ヴィストとテイレス・レッダーだった。

 ヴォルフと深く関わる彼女たちなら、きっと民衆を説得してくれると信じていた。


 のだが……。


「ええい! 黙って、ヴォルフに力を貸すんだよ!!」


「あんたたち、このまま世界が壊れてもいいのかい!!」


 ミランダとテイレスに対して、集まった民衆の間にいざこざになっていた。


 ルネットからすれば、ミランダとテイレスは悪くない。彼らの話はまさしくヴォルフ・ミッドレスの人の良さを現していただろう。


 だけど、それは単なる「いい人」を説明しただけの話だ。

 さらに、互いにどこか自慢話みたいなものまで含まれていて、それがさらに余裕のない民衆たちの怒りを買ってしまった。


 結果として、2人と民衆の間に諍いが起こったのである。


「まずいわね」


 見るに見かねて、ルネットは間に入るが、その前に2人と民衆の間に入ってきたのは、鼠牙族(ラトゥーム)といわれる亜獣人だ。


「コノリ……」


 鼠の姿をしているが、歴とした聖樹リヴァラスの巫女だ。

 今回、リヴァラスを依り代とすることを許可したのも、彼女の協力があったからである。


「ワタシ〝も〟 う゛ぉるふ ニ タスケラレタ」


 鼠牙族(ラトゥーム)は亜獣人で普通の獣人よりも知能が低い。

 人間の言語ですらおぼつかないはずだが、おそらく必死に勉強したのだろう。


「う゛ぉるふ サン ハ せいじゅ ヲ タスケタ。トテモイイヒト」


 すると、コノリは膝を突く。民衆の方に向かって、頭を下げた。


「オネガイ。タスケテ。セカイヲ、せいじゅヲ、タタカッテルう゛ぉるふヲ……」


 涙ながらに訴える。


 舌足らずながら胸を打つ演説だった。


 コノリはよく頑張ったと思う。


 だが、残酷にも誰も振り向かなかった。

 ただじっとしている。

 中には、コノリの姿を見て、忌々しいとばかり顔を顰める者もいた。


 1人の男がコノリの前に進み出る。


「ふざけんな!」


 コノリを蹴り上げる!


「あんた、だいじょうぶかい!!」

「なんてことをするんだい!!」


 テイレスが駆け寄れば、ミランダは杖を振るう。


 だが、男はどこ吹く風だ。


 ケッ! 聖域の地面に向かって唾を吐く。


「何が悲しくて、おっさんを助けなければならないんだよ!」


「なんだって……??」


 ミランダは我が耳を疑った。


「俺たちは俺たちのことで精一杯なんだ」

「見知らぬ男に手を貸せって!」

「そいつが、王都で暴れ回ってるヤツを倒せばいい」

「わたしたちが手を貸さなくても大丈夫じゃないの」

「そうだ。そのおっさんが倒せないなら、そいつが悪いだけだ」


 口々と拒否を申し出る。

 中にはヴォルフに対して、誹謗中傷する人間まで現れる。


 ルネットは絶句する。


 ここに至って、人に頼るどころか、今まさに戦っている英雄に対して罵詈雑言を放つ。その精神が、英雄であるルネットには理解できず、怒りどころか呆れて物もいえなかった。


「あなたたち……。ストラバールがなくなってもいいの?」


「【軍師】殿……」


 声をかけたのは、老人だった。

 ルネットのことを知っているということは、元冒険者か軍関係者なのかもしれない。


 近くの岩に座ったまま、真っ白になった睫毛をルネットに向けた。


「わしらは、もう諦めたのだ」


「諦めた?」


「内乱、ラムニラ教の神殿崩壊、【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】の復活、そして今回の件……。レクセニル王国は不穏なことが続いている。その度に我らの生活が危ぶまれた。正直言おう、『またか』としか思えないのだ」


 ルネットは、ハッとこの時ようやく気付く。


 確かにレクセニル王国は短期間に多くのことが起こった。

 それこそ王国そのものが瓦解しそうな出来事ばかりだ。


 その度に、被害を受け、巻き込まれてきたのは民衆たちである。


 内乱では兵士を失い、ラムニラ教の神殿崩壊では信心を失い、【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】の復活においては大規模な魔力によって魂を失い、そして今回ついに彼らは住む場所すらを失った。


 レクセニル王国は何度も危機を迎えた。

 が、その度に英雄――つまりヴォルフが現れ、解決してきた。


 それですべてが解決したと、ヴォルフもそして英雄側であるルネットたちも思っていた。


 でも、違うのだ。


 国民はしっかり傷付いていた。

 本来時間によって回復するものが、時を於かずして抉られていった。

 もうボロボロなのだ。


「こんな状態で魔力を送っても……」


 魔力は歪んだまま。


 結局、魔力は送れない。



 ◆◇◆◇◆



「ぐはっ!!」


 突然、ヴォルフは吹き飛ばされた。


 先ほどまで優勢とみられていたのに、悪意に対して打ち負ける場面が目立ってきた。いや、明らかに悪意の方が押している。


「パパ!!」


 レミニアの声を聞いて、ヴォルフは起き上がる。


 刀を持つには持ったが、先ほどよりも明らかに身体が重く感じる。


(強化魔法の効果が……落ちてる?? ルネットさん、何かあったのか?)


 今、ヴォルフが悪意とやり合えているのは、ルネットが施した強化魔法だ。


 その出力が明らかに落ちている。何が原因なのか。ヴォルフにはさっぱりだった。


 状況は悪意自身にも伝わっていたらしい。


 フードから見える口端を吊り上げ、笑う。


「お前たちのことだ。レクセニルの全国民の魔力を使って、我に対抗しようとしたのだろうが無駄だ。ここの国民は度重なる厄災に見舞われてきた。……もはや立ち上がる力などない」


「そんな! そこまで考えて!」


「いや……。だが、少し考えればわかるだろう。そして英雄たるお前らにわかるまい。弱者の心などな」


「あなたにはわかるっていうの?」


 レミニアが口を挟む。


「理解はせぬ。だが、事象に至る結果について自明の理であろう。何度も心を刻まれ、細くなれば立っていられない」


「あなた……」


 レミニアは何か疑いの目を送る。

 悪意は話を続けた。


「ククク……。人間とは何と弱いことか」


「そうだな。人間は弱い」


 ヴォルフは認める。


 それは自身がよくわかっていた。

 1度自分の弱さに負けて、ヴォルフは剣を折ったからだ。


「だが、たった1人は無理でも自分の背中を押す者がいるなら、何度だって立ち上がれる」



 それが人間だ……!


おかげさまで、『アラフォー冒険者、伝説となる』の3巻ですが、

BookWalker様で1位、ヨドバシカメラ1位、Amazonランキング2位と、

非常に好調です。

お買い上げいただいた方ありがとうございました。


コミックボイスも好評でして、すでに1400回以上の再生いただいております。

こちらもまだ見たことない方は、『マンガガ by ブックライブ』で無料でみることができますので、

是非ご試聴下さい。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本4巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



8月25日!ブレイブ文庫様より第2巻発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス9巻 5月15日発売!
70万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



コミカライズ10巻5月9日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる10』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


最新小説! グラストNOVELS様より第1巻が4月25日発売!
↓※表紙をクリックすると、公式に飛びます↓
『獣王陛下のちいさな料理番~役立たずと言われた第七王子、ギフト【料理】でもふもふたちと最強国家をつくりあげる~』書籍1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


シリーズ大重版中! 第6巻が3月18日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本6巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large





今回も全編書き下ろしです。WEB版にはないユランとの出会いを追加
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』待望の第2巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


好評発売中!Webから大幅に改稿しました。
↓※タイトルをクリックすると、アース・スター ルナの公式ページに飛ぶことが出来ます↓
『王宮錬金術師の私は、隣国の王子に拾われる ~調理魔導具でもふもふおいしい時短レシピ~』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large




アラフォー冒険者、伝説になる 書籍版も好評発売中!
シリーズ最クライマックス【伝説】vs【勇者】の詳細はこちらをクリック


DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



ツギクルバナー

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[良い点] オッサンが活躍する点 [気になる点] カラミティがレイルの真実を知ったときの行動。 [一言] 「ゼロスキ」「暗殺者」ときて、本作を読ませて頂いてます。 もう最終章なんですね。 色んな魅力…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ