第261話 意気投合
なんと!!!!!
「アラフォー冒険者、伝説となる」が、ボイスコミックスになりました!!
ヴォルフとレミニアの声を聞くことが出来ますよ。
ヴォルフ・ミッドレス役に、『ヒプノシスマイク』の毒島メイソン理鶯役の神尾晋一郎さん。
レミニア役には、ゾンビランドサガの星川リリィ役の田中美海さんに担当していただきました。
本日、そして今YouTubeチャンネル「マンガガ by ブックライブ」内で公開されておりますので、3巻ともども是非聞いて見て楽しんで下さいね。
「ロカロ・ヴィスト……」
ルネットはその名前を聞いて、息を呑んだ。
伝説ともいえる【雷獣使い】。ルネットたちが五英傑といわれる前に活躍していたが、冒険者の1人である。
五英傑の名前が知れ渡る前に亡くなったため、直接的な面識はないが、すでにその頃から【勇者】レイルと双璧を成すほど有名な冒険者だった。
「まさかその奥さんに出会えるなんて」
ルネットはちょっと泣きそうになる。
五英傑にて【軍師】といわれる彼女だが、ちょっとミーハーなところがあるのは、仲間内では有名な話であった。
「あの……。あとで握手してもらってもいいですか?」
思わず願望が口に出てしまう。
ルネットが「あっ!」気付いた時には、ミランダは杖を振り上げ、顔を真っ赤にしていた。
「何を言っているんだい、小娘! それよりヴォルフがどうしたんだい!?」
「ヴォルフって……。ヴォルフ・ミッドレスのことかい?」
聞き覚えのある声に、ルネットは振り返る。
そこに立っていたのは、随分とふくよかな体型の女性だった。
焦げ茶色の髪を靡かせ、ルネットの方に近づいてくる。
大きな身体の割りに、小さくつぶらな薄緑色の瞳を見て、熊のようだと思ってしまった。
「テイレス!!」
ルネットはレクセニル王国王都西区ギルドの受付嬢の名前を呼ぶ。
自ら出迎えると、その大きな身体に包まれた。
「無事で良かった」
「それはこっちの台詞さね。魔獣戦線で死んでから、レミニアの嬢ちゃんによって生き返ったとは、あの無愛想からの手紙で聞いていたけど……。随分と元気そうじゃないか」
「ええ。おかげさまで。その無愛想な勇者様もいるわよ。警護に回ってるけどね」
「そうかい。しかし、命からがらなんとか歯を食いしばって逃げてきたかいがあったよ」
そう言って、テイレスは振り返る。
人混みに隠れこっちを見ていた子どもたちがルネットの方を見ていた。
目が合うと、一斉に走り寄ってくる。
『ルネット!!』
叫びながら、子どもたちはルネットの周りに群がった。
「あなたたち、孤児院の……!」
「あんたが1度亡くなってからは、イーニャが後を継いで経営したけど、また冒険者に復帰しただろ。その後、あたしが面倒見ていたんだよ」
「イーニャが孤児院の面倒を見ているのは知っていたけど、テイレスが後を継いでいたなんて」
ルネットはまた泣きそうになる。
子どもたちに囲まれながら、嬉しそうに微笑んだ。
「みんな元気だった?」
『元気だよ!!』
こんな大変な時でも、子どもたちは元気いっぱいだ。
それがすでに疲労の極致にあったルネットの励みになる。
「うん。みんな、大きくなったね。良かった。本当に……」
ルネットはボロボロと本格的に泣き始める。
ずっと不安だった。自分が死んだ後の世界のことが……。それでも彼女は毅然と前を向いた。生き返り、魂が定着して、自分がルネット・リーエルフォンとして完全に蘇ってからもだ。
それもすべて子どもたちの未来のため。生きてのこの世界の空気の暖かさと、大地の柔らかさを知っていてほしい一心で、暗躍し続けた。相棒の【勇者】とともに……。
(頑張らないと……。あともう少しなのだから)
ルネットは涙を拭う。
「それでルネット……。ヴォルフがどうしたんだい?」
「そっか。テイレスもヴォルフさんのことも知っているのね」
「ああ。ロカロやあんたたち五英傑と比べれば本当に平凡な冒険者でね。……でも、どこか放っておけないというか」
「ふふ……。わかるのぉ。あたしのところにも来た時は、単なるおっさんにしか見えなかったからねぇ」
横のミランダも嬉しそうに笑う。
2人の表情を見ながら、ルネットはふと思い出す。
思えば、イーニャもそうだった。
時折笑みを浮かべて、楽しそうにヴォルフのことを話すのだ。
確かに面白い人だった。
今まで英雄とか、勇者とか言われる人間とはどこか違う。
どちらかと言えば、どこにでもいるような引退した冒険者。
でも、不思議と魅力を感じるのだ。
それはかの【大勇者】が施した強化魔法によるものかもしれない。
しかし、纏う空気というか。雰囲気……。どこか人を安心させるような独特の佇まいは、魔法で表現することは難しい。
そんな人間が今、世界の命運をかけて戦っている。
そして、そんなヴォルフを後押しできるのは、この2人しかできないと思った。
「ミランダさん、テイレス……。2人にお願いしたいことがあります」
ルネットは真剣な表情で言った。
◆◇◆◇◆
ルネットが案内したのは、聖樹リヴァラスの近くだった。
本来は聖域であり、人が近づけぬ場所だ。
だが、ルネットはここの守護者に曲げてお願いし、聖樹リヴァラスの元へと近づいた。
「大きな木だねぇ……」
「これが聖樹リヴァラスかい……」
ミランダとテイレスは息を呑む。
足の悪いミランダの横には孫のステラ・ヴィストも寄り添っていた。
「相手は巨悪です。もはやこのストラヴァールにいる人間すべての魔力を結集する程の力を手にしていると考えていい」
ルネットの推測によれば、今ヴォルフが相手している巨悪は、愚者の石3つ分の力を持っている。
1つ目はワヒトの神器を依り代としたもの。
2つ目はエミルリアから来た天使。
そして3つ目はレクセニル王国で戦った敗者から奪ったもの。
愚者の石は、たった1つだけでも伝説クラスの神器に匹敵する。
全人類とは言わずとも、それに近い魔力をすでに帯びていると考えてもいいだろう。
それに対抗するには、【大勇者】が目指した賢者の石をこちらも用意することだが、その方法を本人が拒んでしまった。
あれほどの出力ある魔導石を身に浴び、制御できる人間は少ない。
ルーハスでも五分五分だ。
しかし、ヴォルフならできる。
何故なら彼はずっとその力――つまり娘の強化魔法を背負いながら日常生活を過ごしていたからである。
そのヴォルフも、力を拒んだ。
【軍師】としては悪手だと思う。
敵の力に対抗するためには、敵の力を分析し、真似ること。
これは卑怯ではなく、戦術として基本だといえる。
だが、人間としては賛成だ。
愚者の石も賢者の石も、人には過ぎた力だと思うから。
その方法ができないというなら、他の方法を模索するしかない。
そのためには、賢者の石と同じ力を捻り出し、それを依り代として耐えうる受け皿が必要だった。
「その受け皿が聖樹リヴァラス……」
「じゃあ、その似非サリーっていうものと同じ力を捻り出すのはどうするんだい?」
ミランダは尋ねる。
「みんなの魔力です」
「え?」
「1つ1つは小さい。でも、多くの魔力が集まれば、それは大きな力になる。みんなには文字通り力を貸して欲しい。世界のために……」
何より、今戦っているヴォルフさんのために……!
「何を言っておる!!」
突然、ミランダが怒り始めた。
癇癪でも起こしたみたいに、顔を赤くする。
「それを早くいわんかい、小娘!!」
「そうさ。世界の平和も、小難しい話も、あたしゃどうでもいい。Dランクのアラフォー冒険者がついに英雄になろうっていうんじゃないか。背中を押してやるのが、あいつのことをずっと世話してきたあたしの親心ってもんさ」
「あんた、良いこというじゃないか!」
ミランダはテイレスの方を見て、けけけと笑う。
「あたしはヴォルフのファンなんだよ」
「奇遇だね。あたしもそうだよ、ふぇふぇふぇ」
2人は拳を鳴らす。
ものの数分で、すっかり意気投合してしまったらしい。
この2人の友情を見たら、ヴォルフがどんな顔をするか楽しみだ、と密かにルネットは笑う。
「それで! あたしらに何ができる?」
「みんなに伝えてほしい」
ヴォルフ・ミッドレスという伝説を……。








