第254話 大勇者は立ち上がる
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書籍第2巻の内容に突入したので、是非こっちもチェックを。
例の相棒の登場ですよ!
確かに聞こえた。
レミニアは振り返り、もう1度耳をそばだてる。
「探知系の魔法を使えば、すぐなのに……」
こういう時、魔法が使えないのは不便だ。
苛立たしげにレミニアは奥歯を噛んだ。普段クールな彼女にしては、珍しい反応だ。
そして声が聞こえた方向へと歩き出す。
ひしゃげた民家があった。一見中の人が助かっていないように思えるほど、破壊し尽くされていたが、ちょうど梁の上に天井が乗っかるような形で、人が住めるほどの空間が確保されていた。
レミニアが覗くと、母親と子どもが身を寄せ合い震えている。
「大丈夫?」
レミニアが尋ねると、母親も子どもも震えながら頷いた。
逃げ遅れたのか。破壊の後に、魔物がやってきて、外に出られなくなったのか。
理由はわからなかったが、親子が無傷なことにレミニアはホッと胸を撫で下ろす。
レミニアは建物を崩さないように、ソッと中に入っていった。
こういう時、自分の背丈の低さは便利だ――と一瞬でも思ってしまった自分を戒める。
「まさか……。【大勇者】様?」
母親が早速レミニアの正体に気付いた。
そのレミニアは自分の唇に指を押し当てる。
「シッ! 静かに。一応、この辺をうろついていた魔物は退治したけど、まだいるかもしれないから」
「――――!」
母親は口を塞ぐ。そして目で子どもにも伝えると、子どもは黙って頷いた。
レミニアはさらに声のトーンを落とす。
「一体何が起こったの?」
「わかりません。突然、王宮が爆発したと思ったら、気が付いた時にはこの子も私も床に倒れていました。避難する指示は聞こえていたのですが、私は足が悪く」
母親は足をさする。
見たところ、足に力が入っていない様子だった。
「そう――」
ほとんど情報は取ることができなかったが、一瞬であったことは間違いないだろう。
すると、家がぐらついた。
おそらく風だ。徐々に強くなってきている。
いつ家が壊れてもおかしくない状況だった。
「とはいえ……。どこに逃げればいいやら」
その時、獣臭が強くなる。外からうなり声が聞こえて、親子は互いを強く抱きしめ合う。
レミニアが外を覗くと、先ほどのベイウルフが集まってきていた。
「しつこいわね」
思わず舌打ちをしてしまった。
震えている親子を見て、レミニアは安心させるように笑う。
「大丈夫よ」
そっと子どもの頭に手を置き撫でた。
「わたしがやっつけてあげるから」
「【大勇者】様……」
「勇者のお姉ちゃん……」
レミニアは民家の外に出て行く。
手にショートソードを持ち、民家に出来た隙間を塞ぐように集まってきたベイウルフを前にして立ちはだかった。
とても小さな背中だ。
しかし、今それは大きく見える。
まるで勇者のように……。
いや、何度となくこの国を救った父ヴォルフ・ミッドレスのようであった。
(はっきり言って、勇者なんて柄じゃないんだけど。そもそもわたしって女の子だし)
1度レミニアは天を仰ぐ。
「ああ……。世界を救うとかじゃなくて、普通の女の子になりたかったわ」
レミニアの言葉は挑発のように聞こえたのだろうか。
ベイウルフが襲いかかってくる。
その数は23体。
「Cランクの魔物がどんなにやってこようともね」
レミニアは剣を薙ぐ。
激しい剣捌きは、やはり父ヴォルフを思わせる。
その才能を遺憾なく発揮し、レミニアは累々とベイウルフの死体を積み上げていった。
「ここは1歩も通さないわよ!」
わたしは、【大勇者】なのだから!!
レミニアは最後の一匹を斬るとともに、啖呵を切る。
その瞬間だった。
「おお! 勇者様」
「勇者様がおられた」
「助けて下さい、勇者様」
あちこちで声がした。
振り向くと、壊れた家屋の下から人々が現れる。
おそらく先ほどの親子同様に逃げ遅れた王都民たちだろう。
中には傷を負った者もいる。
だが、その瞳は絶望に歪んでいた。
まるで墓穴から出てきた不死者のようにレミニアの方に群がってくる。
人々の不安そうな顔を見て、レミニアはショートソードを掲げた。
「もう安心して。【大勇者】レミニアがあなたたちを助けに来たから」
王都民たちの目が輝く。涙を流す者もいた。
対照的にレミニアの手は震えている。
命を託されるということが、どれほど怖いことなのか。
今さらながら感じていた。同時に、ヴォルフの偉大さも改めて小さな身に染みていた。
(わたしはこの人たちを助けられるかしら。このコンディションで……)
でも、わかっているのだ。
きっと父なら諦めないと……。たとえ、強化なくても、たとえ昔のようにDランクの冒険者でも、きっと魔物に向かって行ったのだと。
少しでも勇気が欲しかった。
いや、何よりパパに会いたかった。
「パパ……。早く帰ってきてよ」
言葉を絞り出す。
「勇者のお姉ちゃん」
気が付けば、先ほどの親子が側に立っていた。
小さな子どもが足の悪い母親に肩を貸している。
それを見て、レミニアは奮い立つ。
泣きそうになった瞳をごしごしと拭い、今一度勇者としての顔を見せた。
「大丈夫。さあ、ここから脱出しましょ」
「どこへ行くの?」
「安全な場所よ」
レミニアは笑う。
当然、安全な場所なんてどこにもない。推測すら成り立たなかった。
(ひとまず研究室に戻りましょう。あそこの壁はミスリル製だし。そうそう壊れないはず……)
と考えて、天井が抜けているのを思い出す。
その時だった。
「ほう……。目覚めたか、【大勇者】よ」
フードを目深に被った男が、瓦礫の上に立っていた。