第237話 英雄凱旋!?
◇◇ コミカライズ第10話更新 ◇◇(※こっちは単話です)
『アラフォー冒険者、伝説になる』単話版の第10話が更新されました。
コミックスの先のお話。最強の娘レミニアが、グランドドラゴン討伐に向かうお話となっております。
是非そちらもチェックして下さいね。
魔獣戦線、終結。
エミルリアから襲来した魔獣たちは、完膚なきまで叩きのめされ、首魁と思われる天使もまた消滅した。
レクセニル王国王都のすぐ目の前で行われた魔獣戦線は、ストラバール方の勝利となり、王都は沸きに沸き上がった。
王都で震えていた都民たちは、家から飛び出て祝福し、王都西に避難していた貴族たちも合流して、祝意の輪に入る。
どこから出てきたのか、酒が振る舞われ、音楽が聞こえてくると、民たちが踊り明かした。
だが、何より盛り上がったのは、この王都を守った勇者たちの帰還である。
「来たぞ!」
「あれが!」
「【大英雄】様だ!」
「ガーファリア様が来た!」
「英雄!」
「レクセニルを救ってくださった英雄だ」
王都南門を堂々とくぐり、見事な赤兎馬に乗ったガーファリアが出現する。
子どもたちの目は輝き、女たちは華やぎ、自然と身なりを整えた。
男たちは拳を上げて、ガーファリアへの賛辞を送る。
「ガーファリア様、ありがとうございます」
「さすがは【大英雄】だ」
「最強国家の君主様だけある」
「ああ。バロシュトラス魔法帝国は、やはり頼りになるな」
レクセニル王国の国民たちは、他国の君主を持ち上げた。
その輪の隅で、1人の男が呟く。
「それにしても、うちにだって【大勇者】がいたんだろ。一体何をしていたのかね」
「そりゃ仕方ないだろ。【大勇者】といっても、まだ小さな子どもだと聞いたぞ」
「そりゃ仕方ないだろ」
「じゃあ、その【大勇者】の親はどうだ? 滅法強いって噂の……」
「ああ。ヴォルフ・ミッドレス司令官だろう」
「そういえば、見ないなあ」
「何をしているんだろうか」
「許せねぇよな。俺たちがこんな大変な目に遭ってるのに、姿1つ見せねぇ」
「そう言うなよ。何か事情が……」
「いや……。もしかして、勝てないと思って尻尾巻いて逃げたんじゃ」
「そう言えば、ヴォルフ殿はアラフォーだった」
「なんだよ、それ! アラフォーなんて、おっさんじゃん!」
ゲタゲタと笑う。
そして、その歪みは徐々にレクセニル王国に浸透していく。
華々しくガーファリア率いるバロシュトラス魔法帝国軍が、レクセニル王国の王都のど真ん中を通過する一方、奮戦した他の兵士、騎士、あるいは刀士たちは、戦場に残り、怪我人の治療に追われていた。
「ああ! もう! あの王様、勝手に王都の中に入っていきよったで! ええんか? 放っておいて、ツェヘスはん」
珍しくクロエが金切り声を上げる。
生粋の刀士で、魔法に縁のない生活をしていた彼女だが、切り傷や骨接ぎには慣れていた。
回復魔法が使える衛生兵が飛び回る中で、彼女のような外科手術に特化した人材はなかなかに稀少だ。自分で治せそうなら、針を取り出し、あっという間に傷口を縫合し、骨を接いでいた。
そのクロエが、負傷兵を置いてレクセニル王国王都の門をくぐったバロシュトラス魔法帝国の兵を見て、口を尖らせる。
大きな包帯を巻いたツェヘスは、眉間に皺を寄せた。
「……仕方あるまい。応援に来てくれただけでも、ありがたいと思わなければ」
「それにしても、あっさりしておらんか、ツェヘスよ」
会話の輪に交じったのは、ワヒト王国の国王ヒナミだった。
独特の戦装束には、返り血が貼り付いている。
その小さな身体からはむせ返るような血の臭いが漂っていた。
手には釣り針を持っている。どうやらヒナミもクロエと同様に、怪我人の救助を手伝っていたようだ。
「これでも妾は一国の主じゃぞ。その妾に挨拶もなしに、王都の中へと入りおった。我が国は小国だが、魔獣戦線など多くの国際貢献を行っておる。何の挨拶もないとは、いかがなものか?」
クロエと同じく、ヒナミも珍しく目くじらを立てて、拗ねている。
その間に立ったツェヘスはどういう態度を取ったら良いか謀りかねていた。
「クロエも、ヒナミ様もどうか心を鎮めて下さい。今は、助ける命を助ける。そういう時でしょ」
「まあ、そうやけどな」
「わかっておるわ」
ヒナミは再び歩き出し、負傷者を救護に当たる。
一方、クロエだけはガーファリアが入っていった正門の方を見つめ、大きく溜息を漏らした。
「はあ……。何にもないといいけど……。どうもあの王様は、前からいけ好かんのよねぇ」
やれやれと、頭を抱えながら、クロエも救護活動に戻っていった。
「ガーファリア様!」
「【大英雄】、万歳!」
「バロシュトラスに栄光!」
「ガーファリア様、こちらを向いて下さい」
その異常なまでの熱気は、王宮の中に入っても続いた。
ガーファリアは馬を下り、そのまま共を率いて、王宮の中に入っていく。
まるで最初から王宮内の構造を知っているかのように、真っ直ぐ玉座がある謁見の間へと歩いて行く。
レクセニル王国の鍛冶技術の粋を集めた巨大鉄扉の前で止まると、そのまま自らの膂力によって、扉を開けようとする。
それを止めたのは、近衛兵だった。
如何に他国の君主であろうと、ストラバールの英雄であろうと、彼らの仕事は変わらない。
「この先は、神聖な玉座の間」
「例え、あなた様でも許可なく、この先にいくことは許されておりません」
すると、ガーファリアはギロリと「狼」と称されるその鋭い視線を放つ。
さしもの近衛も息を飲むが、掲げた槍を引っ込めることはなかった。
「ふん。なかなかの忠節だな。我が国の騎士団の末席ぐらいは加えてやれるかも知れぬが、余は待たされるのが大の苦手でな。故に――――」
押し通る……。
◆◇◆◇◆
レクセニル王国ムラド・セルゼビア・レクセニルが、謁見の間に到着した時、その男は、ムラドが座るはずの玉座についていた。
肘掛けに肘を置き、足を組んでリラックスしている。
その顔には笑みが貼り付いてた。
「ガーファリア殿下……」
「よう。ムラド王。久しぶりだな。国と同じく、死にかかっていると聞いたが、意外と元気ではないか」
「おかげさまで」
ムラドは冷ややかな声で返すのが精一杯であった。
「それよりも、これはどういうことですかな?」
ムラドがまず尋ねたのは、謁見の間の前に倒れた2名の近衛だった。
両者とも屈強な近衛であったが、両名とも意識を刈り取られている。いや、かろうじて命があるといったところだろう。
その2名を他の者に任せ、ムラド王は言葉を続けた。
「余の忠言に従わなかった罰だ」
「それは失礼した。部下の不始末は、私の不始末でもある。……ですが、ここまでするのは些か行き過ぎではありませんか、殿下」
「跪くがよい」
「はっ!?」
その瞬間、ムラド王は地面に這いつくばっていた。
跪くという体勢すらとれない。まるでヤモリのように赤い絨毯に貼り付いた。
「で、殿下……」
「ムラド、貴様が言ったのだぞ」
「え?」
「部下の不始末は、自分の不始末とな。故にお前に罰を与えているのだ」
「なっ――!」
ムラド王は絶句する。
その王を助けようと、部下や家臣が近づくが、同じように這いつくばるだけだ。
高重力魔法にさらされ、ムラドの息が上がる。
歯が舌を切り、その唇から鮮血が垂れていた。
「さて……。やっと黙ったところで、そろそろ本題に入ろう。なあ、ムラド――――」
このレクセニル王国を我にくれ!