第236話 英雄再び
☆☆ コミックス7月12日発売 ☆☆
『アラフォー冒険者、伝説になる』のコミックスがいよいよ発売されます。
すでに予約が開始されております。特典対象店では、レミニアのブロマイドが貰えますので
是非チェックしてくださいね(活動報告に記載あり)。
電光石火――。
その言葉にふさわしい逆転撃だった。
SSランクに匹敵するほどの力を持った魔獣たち。
さらにエミルリアで権勢を誇った天上族の末裔たる天使。
いずれもストラバールにいる武力と、強者たちを震わせた強者であった。
しかし、上には上がいるとは、よく言ったものだ。
ストラバールに襲いかかってきた者たちは、強さの極致ともいえるべき存在であった。だがそのSS以上の力を持つ者を、ついに圧倒する者が現れたのである。
名をガーファリア・デル・バロシュトラス……。
ストラバールの最強国家バロシュトラス帝国の若き皇帝。
そして、かつて最強と言われた【大英雄】の称号を持つ男である。
ガーファリアは天使の肉体に内蔵されていた愚者の石を引き抜く。そして目の前にいる少女の亡骸に、目を細めた。
「哀れな娘だ。確かエラルダとか言ったか。癒やしの力はあの【大勇者】を超えたとか。まあ、些事よ。せめてもの情けだ。余が一瞬にして焼き尽くしてやろう」
掲げた手の前に紅蓮の炎が宿る。
凝縮された魔力を見て、側にいたアクシャルは息を飲んだ。
ドゥッ!!
炎が放たれる。
白く灰になったような姿のエラルダに絡み付いた。
蛇のように巻き付き、空へと上る。
火柱は葬送と、エラルダの魂を天へと送り返すかに見えた。
「なんだ? 一体?」
ガーファリアは眉根を寄せる。
振り返ると、そこにエラルダを抱いた男が立っていた。
竜尾を思わせるような白い髪。
その前髪の下に光るは、深く悲しげな青眼であった。
背はガーファリアと同じくらい。
白銀の鎧を身に纏い、腰には如何にも大業物といった名刀を下げていた。
「余自ら、火葬を執り行おうというのだ。それを邪魔するとは、どういう料簡だ、【勇者】――――」
ルーファス・セヴァットよ……。
黄金の髪を靡かせ、ガーファリアは突然現れた孤高のハーフブリードを睨む。
答えを迫るものの、ルーファスの口元は重く、硬い。
そもそも寡黙な【勇者】は、ただガーファリアに視線を返すのみだった。
「ふん……。そうか。その娘、かつてのお前の部下だったな」
エラルダはかつてルーファスたちが、五英傑と言われていた時代に活躍していた【大聖女】であった。
その彼女を彼が助けるのは、道理であろうが、それでもガーファリアは解せない。
何故、ルーファスがこのタイミングで出てきたのか……。
「その者を助けてどうするのだ、一匹狼よ。それはもう抜け殻同然だ。まだかろうじて息はあるようだが、もうその者に意志というものはない。いや、最初からなかったのだ。そもそもそれは作り物であったのだからな」
「……あなたにとって、作り物の命も、生まれてきた命も一緒なんじゃない?」
別の方から声が聞こえて、ガーファリアは振り返る。
ようやく静まりかけた戦場に立っていたのは、亜麻色の髪と特徴的な耳を持つエルフの少女であった。
やややんちゃに光る緑色の瞳を見て、珍しくガーファリアは顔を曇らせた。
「まさか……。余は夢を見ているのか? 貴様、本当にルネット・リーエルフォンか?」
「久しぶりね、ガーファ。覚えててくれて何よりだわ。けれど、こちらにもあまり時間がないの。お喋りは今度会った時にしましょう。もちろん、お互い生きていればの話だけどね」
五英傑【軍師】の異名を持ち、かつて魔獣戦線において戦死したはずの少女は、この状況を注視するしかなかったアクシャルを担ぎ上げた。
ガーファリアのちょうど左右に立ったかつての英雄達に、視線を送る。
その口元から漏れ出てきたのは、笑声であった。
「クカカカカカ……。面白い。なんなんだ、これは? 天使を倒したと思ったら、今度はかつての英雄か。良い良い。天使が弱すぎて、少々力を持て余していたところよ。今の貴様らでは、茶請けにもならんだろうが、良かろう……。相手になってやる」
「相変わらずせっかちな人ね。嫌われるわよ、そういう男……」
「ふん。生憎と女に不自由していないのでな」
「うわ~~。そういうことをさらっと言うから、前から嫌いだったのよねぇ」
「相変わらず口がよく回る女だ。貴様からねぶってやろうか?」
ガーファリアの視線が、ルネットを指向する。
それでもルネットも、ルーファスも冷静だった。
「怖い怖い。……悪いけど、あたしはね。あなたのダンスの相手になるつもりはないわ。ガーファ、あなたの言う通り、あたしもルーファスもお茶請けにもならないほど、あなたとの差がある」
「ならば、命乞いするか?」
「そんな馬鹿なことはしない。精一杯抗うわ。あなたの野望通りにはさせないためにもね」
ルネットは手を掲げた。
【霊樹触鎖】!!
その瞬間、ガーファリアの足下から無数の鎖が伸び上がった。
光の速さで絡み付き、ガーファリアの動きを制限する。
「馬鹿め! 余に【束縛】系魔法など通じるものか?」
ふっ、と力を込めた瞬間、ガーファリアを縛っていた鎖は切れる。
ルネットの魔法は一瞬にして破れたかと思えば違う。
壊れた鎖は再び元に戻り、ガーファリアに絡み付いた。
それも先ほどよりも、鎖が増えている。
「ふん! ちょこざいな!!」
ガーファリアは忽ち鎖を千切るが、すぐに再生してしまう。
ただ再生するぐらいならまだいいが、鎖は切る度に増殖を繰り返し、【大英雄】を飲み込み続けた。
もはやイタチごっこである。
「忘れたのかしら、ガーファ……。あたしは五英傑の中でも、特に補助魔法のスペシャリストよ。いくらあなたが、異界の種族を倒せる力を持っていても、あなたが人間である限り、あたしの補助魔法から逃れられない」
「くそ! おのれぇえ!!」
「さようなら、孤独な王様」
「ルネットぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!」
ついにガーファリアはルネットの魔法を破り切る。
魔法で作られた鎖は、完全に粉砕された。
しかし、そこにもうルネットやルーファスは、おろかエラルダやアクシャルの姿も消えている。
いや、それどころではない。
ガーファリアの前に見えたのは、戦場となったレクセニル平原に沈む赤い夕日であった。
「馬鹿な!!」
ガーファリアの顔が歪む。
そこでようやく【大英雄】は、女狐に化かされたことを理解した。
「おのれぇぇぇぇぇえええええええ! ルネット・リーエルフォオオオオオオオオオオオオオオンンンンン!!」
ガーファリアは夕日を前に叫ぶのだった。
◆◇◆◇◆
「あははははは!」
軽やかな声が、レクセニル王国東部の森に響いていた。
そこを高速で走っていたルーファスと、ルネットだ。
それぞれエラルダ、アクシャルを担いだまま、障害物の多い森を真っ直ぐ東へと抜けている。
「まだまだね、ガーファ」
ルネットは愉快げに笑った。
「…………」
「何よ、ルーファス。何か文句でもある?」
「……ない。お前らしくなってきたと思っただけだ」
「どういうことよ、それ……。まあ、いいわ。しかし、痛快ね。1度でいいから、あの鼻っ柱を折ってみたかったのよ」
ルネットは実に楽しそうに告げた。
本来ルネットの足だけでは、ルーファスの速度に追いつけない。
故に足先に補助や強化魔法を掛けて、身体能力を補っている。
視野能力も上げて、夜の森にかかわらず、障害物に当たることなく、森を突っ切っていた。
「よくガーファリアに幻術をかけることができたな」
「むしろ、ああいう手合いを引っかける方が、実は簡単よ。最初は束縛系の魔法を見せておいて、それを破った瞬間の『心の隙間』に幻術をかけたの。面白いようにひっかかるわ、これ。2度は通じないけど」
「……ところでエラルダは助かるのか?」
「さてね。自信はないわ。でも、まだ生きてる。なら、死んで生き返ったあたしよりは、状況がいいとは思わない?」
「…………」
「何よ、今の反応。どうせあたしのことを能天気とか、楽天家とか思っているんでしょ?」
「別に……。さすがは五英傑の【軍師】だと感心しただけだ」
「こんなの【軍師】の仕事のうちにも入らないわ。その仕事をするのは、これからよ。だから早く合流しないと、手遅れになるわ。イーニャと、そして――――」
レミニア・ミッドレスとね……。
作画のタッ公先生が描く、レミニアは可愛く、ヴォルフはカッコよくなっております。
最強の娘と、最強になってしまったアラフォーパパの新たな冒険譚を是非読んでくださいね。