第23話 パパの名にかけて!(後編)
ミステリー“風”だからね。
“風”だから!(予防線)
しばらくして、要望通りの3人が集められる。
レミニアが閉じこめられている牢獄の向こうには、容疑者であるベルとグレタの姿があった。
ベルは目を背け、赤い髪をいじっている。
対して、グレタは一片も表情を変えず、綺麗に磨かれた眼鏡の向こうから、レミニアを睨め付けていた。
「ちょっとどういうことですか~。こんなとこに連れてきて。あたしぃ、この後人との約束があるんですけどぉ」
ベルが不満を漏らせば。
「定時からすでに半刻を過ぎています。早く帰らせてほしいのですが」
グレタもこの状況で1歩も退くことはなかった。
見かねて、ツェヘスが話を進める。
「で? 小娘……一体何がわかったんだ?」
「決まってるでしょ? 犯人がわかったのよ」
「貴様ではないのか?」
「冗談でいってるなら聞き流してあげるわ、将軍。ただしもう1回言ったら、王宮ごと磨りつぶすわよ」
レミニアならやりかねない。
「犯人はもちろん、この2人のどちらかよ。それを今から確かめるの」
「ちょっとぉ……。待ってよ。あたしぃ、すっごい尋問を受けたのよぉ」
「ベル君の言うとおりです。我々はレベル5の尋問を受け、結局自白しなかった。すでに白と決まっています」
ベルとグレタは揃って抗議する。
だが、レミニアは譲らない。
むしろ余裕の笑みで返す。
「そうね。あなたたちは自白しなかった。いや、出来なかった。それを今から証明する。――さ、わたしの方に頭を突き出して」
ベルとグレタはツェヘスの方を向く。
最後に無言抗議を行ったが、将軍は指示に従うようジェスチャーを送った。
渋々彼らはレミニアの方に頭を向ける。
レミニアはそれぞれの頭に手をかざした。
やっぱりね、と笑みを浮かべる。
「ええい! じれったい! 早く犯人をいえ」
「焦らなくても、今から犯人が自供してくれるわ」
するとレミニアは呪文を唱えた。
「解錠」
急に手が光り出す。
2人の頭を包んだ。
すると――――。
「あ、ああああああああああ!!」
突然、叫び声を上げた。
頭皮が剥けるのではないかと思うぐらい髪を掻きむしる。
やがて、その場に蹲った。
眼鏡がからりと硬い床に落ちる。
「あああ……。将軍……。私です。私がやりました」
自白したのはグレタだった。
「どういうことだ!」
ツェヘスは大きく目を見開く。
犯罪を自供した館員を捕縛することなく、まるで珍妙な生き物を見るかのように立ちすくんだ。
「記憶を封印されていたのよ」
「記憶を――」
「――封印?」
ツェヘスとハシリーの言葉が揃う。
レミニアは頷いた。
グレタはコンコンと自白を始めた。
何者かに「家族に危害を加える」と脅され、架空の申請書類を作り、魔法扉を開け、【国家戦力一覧】を持ち出した。
その後、真犯人の指示で自ら自分の記憶に封印をかけたと説明する。
「【鍵師】は自分のスキルを忘れることができる。簡単にいえば、記憶操作するスキルを持っているのよ。その彼らからすれば、ちょっとした記憶の空白を作るのは造作もないわ」
レミニアはグレタ自らかけた記憶の封印を解いたのだ。
「ね? 簡単な推理だったでしょ」
15歳の小さな少女は、少し誇らしげに笑うのだった。
◇◇◇◇◇
晴れて釈放されたレミニアは、再び研究室に戻ってきた。
1日の大半を過ごす部屋は、もはや自室に等しい。
応接用の革張りの椅子に寝転がると、うんと伸びをした。
ハシリーは少し引っかかっていることを尋ねた。
「レミニアは、グレタに記憶を封印する魔法がかかっていることを確認する前から、彼が犯人だとわかっていたんですか?」
「ええ……。そうだけど」
「それはどうしてですか?」
「わからない? これも簡単な推理だよ、ハトソンくん」
きっと娯楽読物のキャラクターか何かなのだろう。
「2人の犯行時のアリバイ証言を思い出してみなさい」
「証言ですか」
確かどちらともひどい酩酊状態にあったはずだ。
だから、2人とも記憶が飛んでいたと思われていた。
ベルは店主や客の証言でアリバイが成立し、一方グレタは店の領収書が見つかっている。
「うん? あれ? おかしい……」
「やっと気付いたかね、ハシリーくん」
椅子の脇に顎を乗せ、レミニアはにやりと笑う。
「記憶が飛ぶぐらい酩酊状態にある人間が、領収書を書いてもらうはずないじゃないか!?」
いくらグレタが几帳面な人間だとしても、物的証拠としてはおかしすぎる。
「もちろん、酔っていても領収書をもらったということも考えられるけど、証言としては十分不自然でしょ」
「なるほど……」
今回ばかりは、さすがはレミニアといわざるえない。
確かに冷静に考えればおかしいと思うが、事が事だけにどうしても大きく考え、小さな事を見落としてしまった。
決して目の前にあることに囚われず、柔軟な発想力を持つレミニアは、やはり非凡といわざる得ない。
「今のお話……。ツェヘス将軍にしてきます。その領収書が犯人によって偽造された可能性もあるので」
その後の捜査でわかったことだが、領収書は犯人が偽造したものではなく、グレタ自ら申し出たものだとわかった。彼はいつも通り飲み屋で晩酌をし、領収書を切り、家に帰っているところで襲われたそうだ。
スキルによって記憶をなくした後、王都の外れにぽつんと立っていたという。その時、自分が前後不覚になるほど飲み過ぎたと勘違いしたらしい。
余談だが、何故彼が個人的な遊興費を領収書として発行していたかは、単に性格によるもので、王宮に請求したことは1度もないという。
「そういえば、最後にツェヘス将軍と何を話していたんですか?」
すると、レミニアは手の平を返す。
先ほどまでニコニコしていた表情が一変し、硬くなる。
椅子に寝っ転がると、側にあったローテーブルに手を伸ばし、本を開いて黙って読み始めた。
「あなたは知らなくていいことよ」
ただ一言だけ呟いた。
◇◇◇◇◇
ツェヘスは場所を変えて、グレタを再尋問することにした。
その大きな背中に向かってレミニアは声をかける。
顔は穏やかだったが、いつになく剣呑な雰囲気を纏っていた。
「今回は大人しく捕まってあげたけど、今度こんなことしたら、タダじゃすまないわよ」
ツェヘスは眉間に皺を寄せる。
「なんの話だ?」
「あなたたちがやろうとしている企みの話よ」
「…………」
「大方、わたしに邪魔されないように牢獄にいれたんでしょうけど。残念だったわね。予想以上に早く事件が収束してしまって」
「…………」
「将軍……。あなたたちを安心させてあげる。わたしはあなたたちの企みに関与する気は一切ない。興味もないし、例え世界が変わろうとも、わたしがあなたの前に立ちはだかることはない」
「ほう……」
ツェヘスはようやく反応する。
一方、レミニアの表情は一変する。
目を細め、氷のように冷たい視線を、将軍へと送った。
「ただし、わたしのパパを巻き込まないこと。危害を加えないこと。傷つけないこと。生活を乱さないこと。パパに指一本触れてみなさい」
「どうなるのだ? 【大勇者】に首でも刎ねられるのか?」
レミニアは首を振る。
さらに空気が凍てつき、白い吐息と共に言葉を吐きだした。
「あなたたちがパパに倒されるわ」
「ふん。Dクラス冒険者にか」
「言ってるでしょ」
わたしのパパは、とても強いのよ……。
いかがだったでしょうか。
感想ほしいけど、ガチ感想はやめてね(哀願)
次章から新章『災害魔獣討伐篇』が始まります。
予告しておりましたが、作者個人としては最高にテンションが上がる話となっていますので、
最後までお見逃しなく!!
もちろん、明日更新です。よろしくお願いします。