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第233話 世界は死と失意に満ちて

コミカライズ、コミックアークにて最新話が公開されました!

 ドォン!


 世界が震えた。

 衝撃波が唸り、大地を滑り、雲を弾く。

 火は戦場の空気を焦がし、驚異的な熱量が竜の如く暴れ回った。


 人も、不死者も、魔物も、ランクすら関係ない。


 皆が等しく爆発に巻き込まれた。

 それは分厚い城壁に守られ、戦場から比較的遠い場所にあったレクセニル王国王都とて例外ではない。


 民家の屋根が吹き飛び、厩舎に括り付けていた牛や馬が飛んでいく。


 魔法士を待機させて万全の状態で防備を敷いていた王宮ですら、為す術がない。

 凄まじい衝撃に王宮は震え、尖塔の一部がガラガラと崩れていった。


 世界そのものがシャッフルされたような揺れであった。


 低い――分厚い金属の塊を曲げるような鈍い音が聞こえる。

 弾かれた大気が急速に戻り、風が一点に向かって流れていった。


 膨大な土砂に埋まりながら、最初に顔を上げたのは、カラミティだった。


 その顔が珍しく引きつる。

 伝説の【不死の中の不死(ブラッディ・ブラッド)】であり、恐怖そのものである彼女が、変わり果てた大地を見て恐怖した(ヽヽヽヽ)


 そこにあったのは、大きく陥没した痕である。


 大きくといっても、その表現はあまりに控えめだ。


 広大な陥没痕を見て、カラミティは呟く。


「我が国がすっぽりと入るではないか……」


 そう。小国ならそのまま収まりそうな痕が、レクセニル王国王都の一部を巻き込み広がっていった。


「カラミティ様!」

「ご無事ですかぁぁあ!」


 ゼッペリンと骸骨将軍が、カラミティに走り寄る。


 王都だけではない。

 人的被害も出ていた。


 カラミティの不死軍団はおろか、ツェヘスの騎士団、さらにヒナミ率いるワヒト王国軍が完全に陣形を乱した状態で、沈黙していた。


「くそ! あんな化け物に勝てるのかよ……」


 騎士団で1人喚いたのは、バラガム子爵家のマダローだ。


「それよりもマダロー! 怪我人の手当が先だよ」


 ひょろりと長い体格のエルナンドが、砂に埋もれた騎士を引っ張り出す。


「大将! 大丈夫か?」


 副長のウィラスが、ツェヘスに駆け寄る。


 そのツェヘスは頭の土を払いつつ、辺りを見回した。


「状況は……?」


「最悪じゃ……」


 呟いたのは、ヒナミだった。


 ワヒト王国が担当していた左翼は、不幸にも爆心地から最も近い。

 故に最も被害にあったのじゃ。


 ヒナミは何とか近くの刀士を引っ張り出す。


 だが、その背後で動く影があった。


 魔獣である。


「チッ!!」


 ヒナミは刀で切り裂く。

 なんとか事なきを得たが、その幼い顔は曇りっぱなしだ。


 周囲の魔獣が立ち上がろうとしていた。

 刀士たちよりも早くだ。

 それはワヒトだけではない。


 他の戦線でも一緒だった。


 対するワヒトは、陣形どころか、人も集まらないという状態だった。


「よかろう。この剣聖がお前たちの相手になってやる。光栄に思え」


 近くにあった刀を引き抜き、二振りの刀を握るのだった。



 ◆◇◆◇◆



 地上は大混乱になる中、戦線とはちょうど反対側で、悲鳴じみた声が響いていた。


「ラーム様!!」


 叫んだのは、アクシャルだ。

 本人の姿もボロボロだったが、意識ははっきりしていた。

 その彼女が見つめる先にいたのは、重度の火傷を負ったラームだ。


 ラーム自身の自己回復魔法。

 さらにアクシャルの回復魔法を同時起動させて、全力でラームの回復に当たっているが、あまり芳しくない。


 ラームは高齢だ。


 にも関わらず、第10階梯の魔法を連発し、天使もどきを倒した。

 そこに加えて……。


「何故、私をかばったのですか……!?」


 アクシャルの目には涙があった。


 十数年とはいえ、ラームとアクシャルの関係は薄い。


 それは正直、自分がストラバールの羽なし(ヽヽヽ)とどう接すればいいかわからないことに起因する。


 どちらかと言えば、冷たい部類の態度だった。故に兄弟子から疎まれたことはあったが、ラームだけは違う。


 1人の人間として、自分の弟子として見ていたことを知っている。


 それでも、命の危機に瀕するほどの怪我を負ってまで、自分を助ける義理はないはずである。


「何故?」


 噛みしめるように同じ言葉を連呼する。


 天使から放たれた巨大な火球。あれが、アクシャルに直撃する瞬間、突如ラームが出でて、かばったのだ。


 如何に大賢者といえど、あの一撃を受けて無事なはずがない。


 咄嗟に防御壁を貼り、直撃は避けたようだが、命のあることがもはや奇跡と言えるような状態だった。


「かん、単なこと、よ……」


 朦朧としながらも、ラームの声は朗らかに響いた。



 おまえ、は…………わし……の……弟子…………で……。わし…………は、…………わ……しは…………おまえの…………師匠…………だから…………。



「師匠…………」


 アクシャルの頭は珍しく混乱していた。

 回復魔法をどんなに強くかけても、ラームの生気はどんどん抜けていく。

 消え去りそうな体温を必死で温めようと、アクシャルは強くラームの手を握りしめた。


「ふふ……。はじめ、て……さわれた…………」


「え?」


「おぬしは…………なかなか……さわらせて、くれなんだ…………」


「師匠!」


「思っていたよりも…………ずっと…………あた、た………………い…………」


 ラームは目を閉じる。


 そして、今際の言葉を吐き出した。


「ガダルフよ…………。さきに……い…………く…………」


 そしてラームは眠りに就いた。


 大賢者と呼ばれた老人は、長い生涯を経て、ついに永眠する。

 最後の弟子と呼ばれたアクシャルの手によってだ。


 しかし、そのラームが死を迎えた場所は、宮廷の寝室ではない。


 戦場だ。


 直後、そのラームに大きな影が差す。

 それはアクシャルも飲み込んだ。


 振り返った時、そこにいたのは、大鎌を持った死神――否、白い翼を伸ばした天使であった。


 先ほど爆風で戦いそのものが有耶無耶になったような空気感はあったが、決して終戦したというわけではない。


 巨大な天使はまだ空の上で、その存在感を誇示し続けていた。


 アクシャルたちを見つけると、強い殺意を漏出させる。


 その胸の前に、先ほど辺りを焼き払った火球が膨れ上がりつつあった。


 そっと師の側から離れ、アクシャルは天使を睨む。そこに呪詛の言葉はなかったが、彼女の表情から珍しく反抗的な心が窺えた。


 自分もまた翼を広げ、仇とばかりに空を飛ぼうとしたが、できない。


 それどころかストンと腰が抜けてしまった。


「なに?」


 言葉を吐いた直後には気付いたが、遅かった。


 天使が魔力を吸い上げているのだ。


 考えてみれば当たり前だ。


 あれほど、大魔力を放出したのである。


 それが大気中に含まれる魔素(マナ)だけで生成できるはずがない。


 いつの間にか、アクシャルから吸い上げていたのだ。





 アクシャルだけではない。


 その影響は広範囲に及んでいた。


 とりわけ影響を受けていたのは、アンデッドたちだ。


 魔力で動く彼らは、バタバタと倒れていった。


 それはカラミティも例外ではない。


「ぐっ!」


 ついには膝を突く。

 そこにゼッペリンが覆い被さるが、何の効果もなかった。


 ガシャリと音を立てて、骸骨将軍がバラバラになる。その髑髏には生気はない。ただ空洞が広がるのみだった。


「まずい……。このままでは…………」


 いつも強気なカラミティの顔に、苦悶が浮かんだ。


 彼女だけではない。

 騎士団も、ワヒト王国の刀士たちも、膝を突いた。

 どうやら魔力だけではない。その生気すら吸い付くしているらしい。


 体力には自信があるツェヘスですら、槍に凭れて立ち上がるのが精一杯という感じだ。


 当然、魔獣にも影響が出ていた。

 バタバタと、1体、また1体と倒れていく。


 ある意味、それは不幸中の幸いといえるかもしれないが、もはや戦いどころではなかった。


 あれほど騒がしかった戦場が、眠りに落ちたように静かになる。


 不気味な沈黙が広がり、空に目を向ければ太陽のように明るい火の玉が輝いている。


 混沌と一言で片付けるにしても、あまりに常軌を逸した状況であった。


 いや、世界の終わりというならば、それもあることなのかもしれない。


 だが、そんな時――――。



 あの男はやってきた…………。


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