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第198話 アジトの場所

電子書籍で『アラフォー冒険者、伝説になる』1巻が、半額になってます。

最近、この作品を知ったと言う方は、是非チェックして下さい。

Web版にはない書き下ろしが満載です。よろしくお願いします。

 ヴォルフたちは再び地下空洞にやってきていた。


 レクセニル王国から共に旅してきた仲間たちに加え、バロシュトラス魔法帝国皇帝ガーファリア、さらに賢者ハッサルも同行する。

 メカールを撃退した道の脇を抜け、広がった大空洞を見た時、さしもの【大英雄(パラディン)】も、三賢者とともに息を飲まずにはいられなかった。


「よもや……。真実だったとはな」


 地下空洞に収まった1万体にも及ぶアダマンロール。

 その数にも驚かされるが、つい先日まで生きていたはずの災害級魔獣が絶命しているのである。

 1万体、全部だ。


「信じていなかったのですか?」


 ヴォルフは思わず聞き返す。

 ガーファリアは腰に手を当て、不敵に笑った。


「お前が嘘を突くような人間ではない、とは信じていた。ただアダマンロールが全部駆逐されているとは、さすがにな……。そもそも誰が信じられる。これほどの災害級魔獣を短期間に駆除するなど」


「ま――。確かにな」


 にひひひ、と横で笑ったのはイーニャである。


「そりゃそうやわ。うちも話を聞いた時は、半信半疑やったし」


「実は私も……」


 アンリは手を上げ、苦笑する。


「拙者は信じていたでござるよ」


 本妻のエミリが誇らしげに胸を張った。


 そのやりとりを微笑ましく見つめていたガーファリアは、アダマンロールに近づいていく。

 まるで眠るように死んだ魔獣の肌に手を押し当てた。

 その氷のように冷たい肌に、再び眉を顰める。


「確かなようだな」


「疑り深すぎるぜ、陛下。いつからあんたは、小心者になったんだ?」


 イーニャは肩を竦める。


「愚か者……。仮に1体でも生きていれば、たちまち上の街はこの空洞にしずむのだぞ。慎重に越したことはない」


「では、陛下……。この空洞は」


「時間はかかるであろうが、埋める必要はあるだろうな。まさか帝都の下に、こんな空洞があるとは我も知らなかった。先代も、先々代も知らなかったようだしな」


「そうですか……」


 ホッと胸を撫で下ろす。

 ガーファリアの対応は適切だ。

 かなり時間はかかるだろうが、この空洞は今後も最強の国家といわれるバロシュトラス魔法帝国のアキレス腱になるだろう。

 埋めておくのが正解だ。


「ヴォルフよ」


「は、はい」


「よくぞやってくれた。さすがはムラド王が認めた男だな」


「あ、ありがとうございます」


 ヴォルフは慌てて膝を突いた。

 他の者も倣う。


「他の者も大義であった。……如何様な褒美も取らせよう」


「陛下、俺たちに褒美は要りません。それよりも――――」


「ラーナール教団の総本山だな。それはわかっておる。ただお主たちは、帝都に住む100万人の国民を救ってくれたのだ。道を教えるぐらいなら、その辺の子どもでもできよう」


「ま、まあ……。それはそうなのですが……」


「それも踏まえ、他に褒賞をいらんかと言っている」


 ヴォルフは少し考える。

 しかし、なかなか思い付かない

 いつまで経っても答えを出さないヴォルフを見て、ガーファリアは呆れる。


「噂通り、無欲な男だな、お前は」


「いえ……。無欲というか。これは難しいかと思ったのですが」


「なんだ? 我はバロシュトラスの皇帝ガーファリアだぞ。どんな欲望も叶えてやろう」


「で、では……。とりあえず――――」



 陛下ともう1度、1vs1(さし)で戦ってみたいです……。



 そう言った瞬間、先ほどまで緩んでいたガーファリアの表情が硬くなる。

 彼の性格であれば、決闘は望むところであろう。

 しかし、その顔は冷たく怒っているように見えた。


「陛下……。す、すみません」


「何故、謝る?」


「いえ。一国の君主と戦いたいなど、恐れ多いことを言ってしまいました」


「ふん。謝るぐらいなら、口になど出すな、ヴォルフ」


「やはり、ダメですか?」


 ヴォルフは苦笑する。

 だが、ガーファリアは笑わなかった。


「今、ここで戦うことについては断る」


「え? じゃあ……」


 場所を変えて、というなら応じると言う風にも聞こえる。

 ヴォルフは少し期待した。


 ガーファリアは強い。

 自分の今の基礎能力、そしてレミニアによってかけられた強化魔法。

 それをフルに使ったとしても、勝てるかどうかといったところだろう。

 そういう意味でも、ガーファリアの実力はSSランクに近い。

 いや、戦闘能力だけでいえば、レミニアを抜いている可能性すらある。


 だが、ヴォルフには確信があった。


 ガーファリアを超えた先――。


 そこに自分が追い求める道の先があると……。


 己が身を置ける強さの境地があるように思えた。


 ヴォルフは自然と高揚していく。

 その様は表情にも表れ、当然ガーファリアにも見透かされていた。


「だが、今はその時ではないということは、お前もわかっているな」


「は、はい。心得ております」


「もし、すべてが終わったら、ここに戻ってくるが良い、ヴォルフ。その時は存分に相手をしてやろう」


 身体が総毛立つ。

 ほんの一瞬だったが、ガーファリアの本気の殺意が空気に混じる。

 やはり最初出会った時は、全く本気ではなかったのだ。


「はい。是非」


 冷や汗を垂らしながら、ヴォルフは口角を上げる。

 強がりなのではない。

 真に楽しみなのだ。

 彼との再会を……。


「まあ、お前とはその前に会いそうな気がするがな」


 ガーファリアは闘気を引っ込める。

 それはどういうこと、と質問するも、ガーファリアから答えは返ってこなかった。


「んでよ、陛下。ラーナール教団の総本山はどこにあるんだ?」


 陛下と面識があるイーニャは質問する。

 すると、ガーファリアは素っ気なく答えた。


「しらん……」



「「「「「え?」」」」」



 皆の声が揃う。

 しばし呆然と固まるが、その石化に似た状態から最初に脱出したのは、怒れる【破壊王】イーニャであった。


「おい! なんか知ってるみたいな雰囲気を出してたじゃねぇか!!」


「イーニャ! 陛下に対して、さすがに無礼だぞ」


「でもよ、師匠……」


「とにかく、お前は下がれ。陛下、それは本当ですか?」


 ヴォルフは改めて尋ねる。


「ああ。1つ断っておくが、我は一言も知っているとは言っておらんぞ。そもそもラーナール教団に強請られてはいたが、ヤツらと結託していたわけではない」


「仰る通りですが……。せめて何か心当たりはないですか」


「案ずるな。なくはない」


 おお!


 一転して皆の顔が輝く。


「レクセニル王国は我が国土の端から端まで調べたと言ったな」


「ああ……。陛下には悪いとは思ってたけど、秘密裏にな」


「それは良い。しかし、それでも見つからなかった」


「ああ」


「ならば、答えは簡単だ。まだお前たちが探していないところに、ラーナール教団はあるのではないか?」


「そんな場所あるはずが……」


 レクセニル王国ムラド王の命令で、世界中のあちこちに人を送り、ラーナール教団の総本山の場所を探した。だが、バロシュトラス以外の国では見つからなかった。

 仮にここにないというなら、この世のどこにもないということになる。


「わからんか? ヴォルフよ、そなたならわかるのではないのか? お前達はこの世界をくまなく探した。しかし、ラーナール教団のアジトは見つからなかった。それはつまり――」


 ヴォルフは「あっ」と口を開ける。

 紺碧の瞳がみるみる開いていった。


「そうか。この世界にはないんだ……」


 何か熱に浮かされたかのように言葉を吐き出す。


「何を言ってるんだ、師匠?」


 ヴォルフの言葉を聞いても、仲間たちはピンと来ていない様子だ。

 しかし、横で聞いていたガーファリアは口角を上げる。


「イーニャ……。そうだ。この世界にはないんだ。ラーナール教団のアジトは……。なるほど。確かに…………それならば合点がいく。何故、彼らが魔獣を信奉しているのか」


「ヴォルフはん、いけずやわ」

「我々にも教えてください、ヴォルフ」

「どういうことですか、ヴォルフ様」


 皆が固唾を呑む。

 ヴォルフもまた咳払いをし、やがて答えた。


「エミルリアだ」


「「「「エミル…………リア……?」」」」


「ストラバールと対をなす。もう1つの世界のことだ。ラーナール教団のアジトはそこにあるんだよ」


「そな、アホな!!」

「つまり――」

「異世界ということですか、ヴォルフ様」


 レミニアの母が残した二重世界理論ダブル・ワールド・シナリオ

 ストラバールを観測するもう1つの世界。

 その名前こそエミルリアと呼ばれる世界だ。


 ヴォルフはそこにラーナール教団のアジトがあると推測した。


 その話を聞いて、ガーファリアは大きく頷く。


「おそらく間違いないだろう。魔獣はエミルリアからやってくると聞く。それが本当であれば、ヤツらが魔獣を信奉するのも合点がいくし、あちこちにヤツらのアジトがあるのも、おそらくその行き来できる場所が複数あるからだ」


「なるほど」


「しかし、どうやって行くんだよ、師匠。異世界だぞ」


 イーニャはヴォルフに詰め寄る。

 その様を見て、笑ったのはガーファリアだ。


「少し賢くなったように思えたが、まだまだ猪程度の脳みそしか入っていないのだな、イーニャ」


「なんだと!!」


 イーニャは袖をまくって、鉄塊を持ち上げる。

 赤い顔をして、ガーファリアに突っかかる。


「信者どもが出入りするアジトを襲撃すればいい。何らかの情報は得られるはずだ。ここならルドワン湖が近いであろう」


「どうする、師匠」

「ヴォルフはん」

「拙者はヴォルフの判断を信じるでござるよ」

「私も同じ想いです」


 皆の視線がヴォルフに向く。

 そこにいるのは、引退から復帰した冒険者ではない。

 聖戦の総司令官に任じられた【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】の姿があった。


「行こう! ルドワン湖へ」


 紺碧の瞳が獲物を捕捉したかのように閃くのだった。




 早々にバロシュトラス魔法帝国の帝都を辞し、ヴォルフたちは一路西へと向かう。


 皇帝やその部下たちに見送られるという、盛大なものだった。

 地平の彼方に、その門が消えるのを見て、クロエがまず口を開く。


「ヴォルフはん」


「なんだ、クロエ」


「あんはんは、あのガーファリアという方はどう思いました?」


「いい君主であると同時に、求道者っていうイメージがあるけど」


「なるほど。確かにな」


 クロエは微笑む。

 それを聞いて、先頭を行くイーニャがムスッとした顔を後ろに向けた。


「なんだよ、クロエ。なんか含みがある言い方じゃねぇか」


「イーニャはんには、わからんかったみたいやねぇ」


「はあ??」


「うちはあのガーファリアという御方が心底怖かったわ。あの人から聞こえる人間の音は、どこかあまりに人間から離れすぎてる」


「ガーファリアがとんでもなく強いってのは認めるけど……」


「いや、そうやない。化け物というなら、ヴォルフはんやレミニアちゃんの方がよっぽどお化けや……。そうやないんよ。ガーファリアはんから聞こえてきた、あの音は……」


「なんだよ。わかりづれぇ言い方だな。陛下が一体なんだって言いたいんだよ」


「正直にいうと、うちにもわからん。ただなあ。覚えてるか、ヴォルフはん。ガーファリアはんが言ったあの台詞」


「もしかして――」



『まあ、お前とはその前に会いそうな気がするがな』



 別れてからも、ヴォルフはずっと気になっていた。

 ガーファリアの言葉には、嘘も真もない。

 言葉の1文字1文字が超越しているというか。

 そういう雰囲気を放つ君主だ。


 しかし、あの台詞だけは違う。

 人間じみていたというか。

 気付きにくいガーファリアの感情を唯一垣間見たような気がした。


 一方、クロエには何か別のものが聞こえていたようである。


「その言葉を言った時な。ガーファリアはんの心音は普通やった。なんも変わらへん。それは穏やかなもんや。けどな。横のハッサルさんは隠せんかったようやな。一瞬やけど、心音が跳ね上がってた」


「気のせい――じゃないんだな」


「それはうちを信じてもらわんとあかんやろねぇ……。ただヴォルフはん。うちが言いたいのは、この一言や」



 皇帝陛下(ガーファリア)を信じたら、あかんで……。


これにて『魔法帝國篇』は終了です。

ここまで読んでくれた方ありがとうございます。

いよいよ次回からは『異世界魔獣篇』が始まる予定です。

魔獣優位の世界で、ヴォルフたちがどんな活躍をするのか、

どんな理不尽を目の当たりにするのか、お楽しみに!


別件の原稿のお仕事があって、当分の間こちらはお休みをさせていただきます。

なるべく早めに戻ってくるので、今しばらくお待ち下さい。


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