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第193話 静かな世界

「浄化の魔法ですか……。忌々しいですねぇ」


 メカールはひどく残念そうに顔を歪める。

 骨そのものが剥き出たような白く細い指を、ぐねぐねと動かした。

 たったそれだけの動作で、再びスケルトンが登場する。

 それも先ほどの倍の数を生み出していた。


「一瞬かよ!」


「あれは無詠唱呪文!」


 パーティーの中で比較的魔法に明るいイーニャとアンリが声を上げた。

 他の人間も、わずかな時間で倍のスケルトンを精製したメカールの手際に驚く。


「くくく……。メカールたちに光など無用にして、無駄。メカールが操る闇に生きる霊たちに、決して光は当たらないよ」


 メカールは指をクリッと動かした。

 まさしくその所作は『傀儡(ぐぐつ)使い』が傀儡を動かす動作に似ている。


「『傀儡使い(ソウルマスター)』メカールの【無限骸骨(スケルトンマーチ)】か……」


「イーニャ、なんだ? その物騒な名前の技は?」


「メカールは元々霊を引きつけやすい体質らしい」


「霊を?」


 子供の頃から、メカール・メーカルの側には常に霊がいた。

 それがある魔導士の目に止まり、メカールは様々な実験の材料にされてしまう。

 彼本来が持つ霊を引きつけやすい体質はさらに強化され、習得に数十年の月日を要する死霊術すらあっさりと体得してしまった。


 生まれたのが、最凶にして、最悪の『傀儡使い(ソウルマスター)』というわけだ。


「霊がほぼ無限に寄ってくるから、死霊術の材料に事欠かない。さらにその死霊術も世界最高レベルと来ている。あいつに出会って生きて帰ったものはいないって触れ込みだ」


「なるほどな。Sランク相当というのも伊達じゃないか」


 ヴォルフは顎に滴る汗を拭った。


 無限に精製できるスケルトンの(むれ)

 確かにあの死霊術なら、Sランク相当という触れ込みもおかしくはないだろう。

 【無限骸骨(スケルトンマーチ)】とはよく言ったものだ。


 ヴォルフの横で剣を振り上げたのは、アンリである。


「ともかく、もう1度浄化を……」


「待て待て。相手は無限に骸骨を精製できるんだ。魔法の打ち合いに付き合っていたら、魔力が尽きるぞ、アンリ」


 イーニャはアンリをたしなめる。


「しかし……」


「イーニャの言う通りだ、アンリ。ここで魔法を使い切れば、次のことに対処できなくなるぞ」


 ヴォルフは感じていた。

 この先に、まだ何かあることを。


 メカールは確かに世界最高といわれる殺し屋だろう。

 だが、【大英雄(パラディン)】の異名を持つガーファリアほどの圧は感じない。

 名前は『傀儡使い』でも、ガーファリアを傀儡にできる程の器量があるとは思えなかった。


 おそらく、この奥にガーファリアほどの逸材を震撼させる何かがあるのだ。


 ヴォルフは刀を握った。


 こんなところで止まっているわけには行かない。

 ヴォルフが向かうのは、この先などではない。

 ラーナール教団のアジトを見つけ、宗主ガダルフを倒し、世界の破壊を防ぐ。


 そして胸を張って、レクセニル王国に戻り、愛しい娘を抱きしめる。


 それがヴォルフが向かう先だ。


「行く道を退いてなどいられないのだ、俺は!!」


 【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】は吠えた。


 刀を鞘から討ち放つ。

 抜刀の勢いをそのまま地面と水平に薙いだ。

 鋭い剣圧が【無限骸骨(スケルトンマーチ)】に炸裂する。


 シャバババババババババババババババババババ!!


 あろうことかスケルトンたちが一瞬で浄化されていく。

 ヴォルフは二撃、三撃と加える度に、スケルトンたちが消滅していった。


「あれは?」


「ヴォルフ殿の武器に強い聖属性が……?」


「いや、それは違うでござるよ、アンリ殿」


 エミリが言った。

 アンリと同じく、表情こそ驚愕に歪んでいたが、頭は冷静に事態を分析していた。


「ヴォルフ殿は昔、聖樹リヴァラスを救ったことがあると聞いたでござるよ」


「聖樹リヴァラスを……」


『ああ……。あの水が泥みたいになってた事件かにゃ』


 ヴォルフが昔訪れたメンフィス川。

 その水源に生えているのが、聖樹リヴァラスだ。

 絶え間なく良質な聖水が湧き出る聖地であったが、あのガダルフの実験により、魔樹と化してしまった。


 それを救ったのが、レミニアに強化され、強い聖属性を纏ったヴォルフというわけである。


「その聖属性がまだ続いてるってわけやね」


「いくら師匠でも、幽霊は斬れねぇからな」


 仲間の称賛を背中に受けながら、ヴォルフは前進する。

 あっという間に【無限骸骨(スケルトンマーチ)】は3分の1にまで減っていた。

 残っているのは、メカールの後ろに控えるスケルトンだけだ。


「な、な、ななななんですか、あなた!! メカールのスケルトンを……。我が軍を、ボクの友達を!! なんてことしてくれるんですかああああああああ!!」


 この事態に一番取り乱していたのは、メカールであった。

 先ほどまでの道化師(よゆう)顔が消えている。

 口を大きく開けて、絶叫した。


 あの細く、骸骨のような指先を天高く掲げる。


 その瞬間、メカールの後ろに配していたスケルトンが飛んだ。

 まさしく火矢の如く打ち上がる。

 そしてヴォルフに向かって飛来した。


 ヴォルフは回避することもない。

 受けることもない。

 ただひたすら前進し、そして刀を振り続ける。


 そう――。


 それがヴォルフの道。

 【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】の歩んできた伝説への道だった。


「あれは……」


 息を飲んだのはイーニャだった。


 ヴォルフが進む道が、黄金色に輝いていたのだ。


(あの時と同じだ!)


 イーニャの脳裏に、【勇者】ルーハスとヴォルフの決闘した時の記憶が蘇る。


 あの時と同じヴォルフのヤバさ(ヽヽヽ)が今再び再現されていた。


 斬ッッッッッッッ!!


 ヴォルフの一振りが薄暗い地下回廊に閃いた。

 頭蓋、大腿骨、尺骨、肋骨、橈骨(とうこつ)

 あらゆる骨という骨が、バラバラに砕け散る。

 さらに聖属性が付与され、骨に乗り移った悪霊すら消し飛ばしていった。


 パラパラと屑が降ってくる。

 その中に立っていたのは、ヴォルフと目を見開いたメカールだった。


「ひっ!!」


 メカールは指を掲げる。

 さらに霊を呼び寄せようとしたのだ。

 だが、スケルトンは現れなかった。


 ふと気付けば、彼の周りにいつも漂っている霊がいない。

 いつも自分の耳朶の横で、冷たい声で囁く悪霊たちが消えていたのだ。


 メカールは突如、静かな世界に放り込まれる。

 世界が静止したように感じた。

 やがてメカールは喉が張り裂けんばかりに悲鳴を上げる。


「何故だ!! 何故出てこない!! 私の、ボクの、我の、メカールの!! どうしたんだよ! なんで? 何故? わからない? いつもお前達は、メカールの後ろにいるじゃないかあああああああああああああああ!!」


 それを説明できるものはいない。


 しかし、1つ説を上げるならば……。

 友情、主従、隷属――そんな関係性を超えて、霊たちは恐ろしかったのだろう。


 今、目の前にいる【剣狼(おおかみ)】が――――。


「覚悟しろ、と言いたいところだが教えろ、メカール……。お前に、ここの番人をさせたのは誰だ?」


「ひっ!?」


 ヴォルフの質問を聞いて、メカールの顔がさらに歪んだ。

 顔が青ざめていく。

 ヴォルフに対して、抱いた恐怖という感情。

 しかし、それ以上にメカールの心を沸き立たせているように見えた。


 それほどの存在だと言うことだ。


「教えろ!! メカール!!!!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」


 メカールは再び絶叫する。


 そして、ヴォルフに襲いかかった。

 スケルトンを亡くした死霊使いなど、たとえSランクであろうと恐るるに足りない。


 それがSSランク以上を目指す男になら、なおのことだ。


 メカールの正気は吹き飛んでいた。

 いや、最初から彼に正気などなかったのかもしれない。


「致し方なしか……」


 ヴォルフの刀が再び閃く。


 両者は骨の屑が舞い散る中で交差した。


 と、と、と、と……。

 転んだのは、メカールだ。

 そのまま砂像が崩れるように倒れる。

 口から血を吐き、そのまま絶命した。


 一方、ヴォルフは残心した後、綺麗に刀を納刀する。

 むろん無傷であった。


「見事……」


 エミリは呟く。


 Sランク相当の暗殺者を全く寄せ付けず、ヴォルフは完勝した。


 仲間は喜び、称賛の声を上げるのだった。


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