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第180話 なつかしい雰囲気

「そういうわけで、わたしはこのレクセニル王国の研究所に勤めることになったわけ――」


 レミニアは最後に締めくくった。


 ヴォルフは呆然としている。

 ぽかんと口を開けたまま固まっていた。


 ヴォルフはレミニアの父だ。

 しかし、レクセニル王国の魔導研究所に入所するのに、そんな経緯があったとは、全く知らなかった。

 てっきり、レミニアの才能を聞きつけたレクセニル王国の研究員が、娘をスカウトし、入所することになったのだと思っていたのである。


「パパ……。わたしだって驚いているのよ。まさかパパがラームと知り合いだったなんて」


「ほっほっほっ。わしは知っておったぞ。無茶をするところが、そっくりじゃわい」


 ラームは髭を撫でる。


 レミニアは目を輝かせた。

 ギュッとヴォルフの腕を抱きしめる。


「でしょ! だって、親子だもん! ね、パパ!」


「ああ!」


 親子は微笑む。

 その姿を見て、ラームはまた笑った。


「その絆を忘れるでないぞ」


「ラーム様」


 ぴしゃりと鞭打つような鋭い声が王宮前にこだました。


 ヴォルフ、レミニア、イーニャ、そしてラームが同時に振り返る。

 ラームに近づいてきたのは、レミニアと同い年ぐらいの少女だった。


 夜の闇が溶けたような黒髪。

 肩まで伸びた髪を、白いリボンで後ろに結んでいる。

 目は小さいが、黒目は鋭く光り、子どものように小顔でありながら、その態度は三賢者ラームの前にあっても、堂々としていた。


「そういえば、紹介したことがなかったな。弟子のアクシャルだ」


 アクシャルの背中を叩く。

 その弟子は毅然とした態度を崩さず、小さく頭を下げた。


「アクシャル・カーンと申します。よろしくお願いします」


「レミニアよ。よろしく。……まさかラームのおじいちゃんに弟子がいたなんてね。セクハラされてない?」


「こら。レミニア。三賢者のわしを前にして、なんてことを聞くのだ」


「多少……」


「アクシャル、お前も素直に答えなくてもよい」


 ラームは杖を振り上げ、ご立腹だ。

 その姿を見て、レミニアはくすくすと笑ったが、アクシャルは表情を変えなかった。

 表情筋を失ったかのように、ずっと同じ顔をしている。


「こっちはヴォルフだ。覚えておるか。盗賊ども相手に単身殴り込みに行った」


「ああ。あの時の――」


 そこで少しアクシャルの表情が変わる。


「俺を知っているんですか?」


「ラーム様を探しに、ちょうどそこにいたのです」


「そうでしたか」


「しかし――――」


「?」


 アクシャルはまるでヴォルフの心をのぞき見るように首を傾げた。

 どこか蠱惑的な仕草に、ヴォルフはドキリと心臓を鳴らす。


「あの時とは随分変わりましたね」


「え? あ、ああ……。なんかそう言ってもらえると、素直に嬉しいよ」


 ヴォルフは照れ隠しに頭を掻く。


 すると、アクシャルは頭を下げた


「では、これで。ラーム様」


「うむ」


 ラームを伴い、アクシャルは王宮の中に入っていった。


 その後ろ姿が見えなくなるまで、ヴォルフは呆然として2人を見送る。

 レミニアには、その態度がお気に召さなかったらしい。

 さらにヴォルフの腕に力を入れる。

 メキメキと骨が軋む音が聞こえてきた。


「れ、レミニア!」


「パパ! また鼻の下を伸ばして!!」


「べ、別に伸ばしてなんか……」


 と言いながら、ヴォルフは鼻の下を隠す。

 父の隠蔽疑惑に、レミニアはさらに怒りを露わにした。


「師匠は昔っから惚れっぽいところがあるからな」


「イーニャまで!」


「違うのかい? それにしたって、随分熱心に見てたじゃないか」


 イーニャは歯を見せ、ニヤニヤと笑う。

 弟子はからかい半分だったのだが、意外とヴォルフは深刻な表情を浮かべた。

 再びアクシャルが消えた王宮の方を見つめる。


「あのアクシャルって子――――」



 あの女と似ている……。



 ◆◇◆◇◆



 聖戦に関する初の全体会議が始まった。

 場所は王宮の中にある議場だ。

 普段はレクセニル王国の貴族や家臣達が、意見をぶつけ合う議場は異様な雰囲気に包まれている。


 各国の騎士や名のある冒険者が、纏う服装に国の威信や自分の矜恃を込めて、議場の椅子に座っていた。


 あまり統一感を感じられないのは、やはり服装のせいだろうか。

 すでに国同士の牽制が始まり、早くも口論するものが現れた。

 それでも、議場の監督役であるムラド王が登場すると、温かい拍手に包まれる。 挨拶を終え、ムラドは所定の位置に座った。


 次に登壇したのは、聖戦の参謀ともいえるレミニアである。


 その口から各部隊編成が告げられた。


 この時、小さな少女と侮るものは皆無であった。

 初見でレミニアが【大勇者(レジェンド)】だと信じるものは少ない。

 それほど、レミニアは幼く、そういう容姿をしている。


 だが、今日のレミニアはひと味違った。


「な、なんだ……」

「あの女の子」

「どうして?」

「なんで?」



「「「「あんなに怒っているのだろうか……」」」」



 出席者の想いは1つにまとまる。

 名前と部隊名を告げるのに、呪いでも込めるかのように殺気を漲らせていた。


 議場のちょうど中央に座っていたヴォルフにもひしひしと伝わってくる。

 レミニアが何に怒っているか、父には一目瞭然だ。


「(まだアクシャルの件、怒っているんだな)」


 ヴォルフは苦笑いを浮かべる。

 後でもう1度謝ろうと、心に決めた。


 やがてレミニアの読み上げは終わりを告げる。


「総参謀レミニア・ミッドレス。そして総司令官ヴォルフ・ミッドレス。以上が聖戦の陣容よ。いかがかしら? これ以上の良いアイディアがあれば、挙手してほしいのだけど……」


 しん、と静まり返る。

 反論する者は皆無だった。

 それほど、レミニアの考えた陣容は適材適所をついていたのだ。


 ぐうの音も出ないとは、このことだろう。

 その頃になれば、各国から集った騎士や冒険者も、小さな【大勇者(レジェンド)】のことを認めつつあった。


 するり、と手を上げたものがいた。

 アンリである。

 ヴォルフのすぐ近くで陣容を聞いていた彼女は、レミニアに質問した。


「いい陣容だと思いますが、1点気になったことがあります」


「なに、お姫様?」


「【大勇者(レジェンド)】のレミニアさんが、王国の守りとして残るのは、理解できますが、どうしてドラ・アグマ王国の戦力をこちらの守りに入れるのでしょうか? カラミティ・エンド陛下はとても好戦的です。そしてお強い。不死者の力は、前線での大きな力になると思いますが」


 すると、ピクリと眉根を動かしたのは、当のカラミティであった。


 アンリも言ったが、カラミティの性格からいえば、真っ先に最前線に出向くはずである。

 しかし、蓋を開ければ、カラミティは遥か後方。レクセニルに待機だ。

 しかも黙って、それを受け入れている風にも感じる。


 カラミティをよく知る者なら、首を傾げずには入られない。

 謎の配置だった。


「それには理由があるわ」


 場内がざわつき始めたのを感じ、レミニアは声を張った。


「ヤツらの目的が、カラミティ陛下にあるからよ」


「カラミティがラーナール教団の目的?」


 ヴォルフは首を傾げる。

 説明を周囲に求めたが、誰も答えられるものはいない。

 おそらく何かを知っているのは、秘書ハシリーと苦虫をかみつぶしたような顔をしたカラミティぐらいなものだろう。


 レミニアはさらに言葉を続けた。


「彼女だけじゃないわ」


 自分の胸に手を置くと、レミニアは言い放った。


「おそらく彼らの最大の目的は、【大勇者(レジェンド)】たるこのわたし――」



 レミニア・ミッドレスよ。



 その名前を聞いた時、ヴォルフははっきりと音を立て、息を呑むのだった。


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