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第171話 司令官の腕相撲

 降参したボロネー騎士団の指揮官は、居住まいを正す。

 膝を突き、「ご勘弁を」とばかりに頭を下げた。


「きさ――あ、あなたは一体何者なんだ?」


「知らないで絡んでいたんですか?」


 門番はキョトンとした様子で、瞬きを繰り返した。


「この方こそ先の王国内乱、聖槍暴走事件――2度レクセニル王国をお救いになった英雄にして、今回の聖戦の総司令官、【剣狼(ソード・ヴォルバリア)】のヴォルフ・ミッドレス様です」


「な! こんなおっさ――――この方が!」


 おっさんと言いかけて、指揮官は慌てて言い換える。

 一方、そのヴォルフは言うと、照れくさそうに頭を掻いていた。


「遠路はるばるの助力感謝する。だが、ルールは守ってくれ。きちんとした手順を踏んでくれれば、俺は今回のことを不問にする。それでどうだ?」


「い、いいのか?」


「折角、遠いところから来てくれたんだ。何も成果無しに帰っては、あんたらも気まずいだろう。国のメンツにも関わるしな」


「わ、わかった」


「武器防具はこちらで用意しよう。ただし貸しだ。あとできっちり請求するから、そのつもりでな」


 ヴォルフが諭すと、指揮官から殺意が薄れていく。

 その心遣いに、すっかり骨抜きされたらしい。

 自分の心の狭さを反省するように項垂れた。


 マントをかけられ、とぼとぼと隊の中に帰っていく。

 ヴォルフの指示通り、ボロネー騎士団は最後尾へと騎馬を進めた。


 とりあえず、事件は一件落着した。

 かに思えた。


「おい。ヴォルフ・ミッドレスさんよ」


 ヴォルフは振り返る。

 冒険者や傭兵たちが、後ろに立っていた。

 先ほどの指揮官と同じく、殺気立っている。


 進み出たのは、山のような男だった。

 半裸姿で、そのたくましい筋肉を見せつけている。

 如何にも力自慢という風情だ。


「さっきの喧嘩……。オレにも噛ませてくれよ」


「つまりは、あれか? 俺に勝ったらってヤツか……」


「話がわかるじゃねぇか」


「いいだろう。ずっと並んでいるのも退屈だろうからな。みなの暇つぶしぐらいにはなるだろう」


 すると、ヴォルフは腕を出した。


 山男はピクリと眉を動かす。


「なんだ、それは?」


「腕相撲だ……。知らんのか?」


「それはわかる。……まさかそれで決着を付けるとか言うんじゃないだろうな」


「そのまさかだ。俺は手加減が苦手でな。戦ったら、あんたらの武器防具を壊しかねん」


「言うじゃねぇか。はっ! いいぜ。オレはここを通してくれれば、なんでもいい」


 山男は腕をまくった。

 近くにいた魔導士が土属性魔法を使い、即席のテーブルを作り上げる。

 その上に、ヴォルフと山男の腕が置かれた。

 腕の太さだけを鑑みれば、実力差は明確だ。


 ヴォルフも筋肉がないわけではない。

 だが、山男の腕は豚の胴体よりも大きい。

 筋肉量だけを見れば、山男の方に分があるように思えた。


 対戦者の貧相な筋肉を見て、山男はにやりと笑う。


「おいおい。最初から勝負が決まってんじゃないの?」


「やってみないとわからないだろう」


「勝負方法を変えてもいいんだぜ。そうだな。お手玉とかでどうだ?」


「それはこっちの台詞だよ」


 どこからともなく審判が現れる。

 周りには人だかりが出来、騒いでいた。

 賭け事が始まり、予想屋の気前のいい言葉が飛ぶ。


 そんな周りの喧騒など耳に入らない様子で、2人の対戦者は睨み合った。


 山男が「ぐふふふ」と笑えば、ヴォルフも薄く笑う。


 やがて組んだ手に審判の手が置かれた。

 肘の置き方を修正した後、一気に手を離す。


「はじめ!!」



 バタンッッッッッッッ!!



 勝負は一瞬だった。

 倒れていた。

 手ではない。


 山男の巨体が地面に倒されていたのである。

 当然、その手の甲は地面に着いていた。


「あ、あら……」


 と言ったのも、山男ではない。

 そもそも山男は頭を強打し、気絶していた。

 白目を剥いて、大の字で豪快に伏している。


 ヴォルフは頭を掻いた。


「しまった……。またやり過ぎた」


 呑気な声が、しんと静まり返った城門前に響き渡った。


 みなの顔が青くなる。

 予想屋もここまで予想していなかったらしい。

 巻き上げた貨幣をぽろりと取り落としていた。


 ヴォルフは顔を上げる。


「他にいるか?」


 ぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶる!


 冒険者や傭兵は首を振った。

 強いということはわかっていた。

 それでも、他の勝負となれば勝てるという目算が、彼らにはあったらしい。


 だが、結局それすらヴォルフには通じなかった。


「やり過ぎですよ、司令官」


 そんなヴォルフを叱ったのは、門兵だった。

 ヴォルフには馴染みの門兵で、冒険者を引退する前に入隊してきた。

 その頃はピカピカの新人だったのだが、時は移ろい、今や警備隊長をやっているらしい。


「す、すまん」


「それにどこへ行っていたんですか? 城を抜け出して」


「ちょっと狩りにな。西の方に変な気配があったから偵察に……」


「そういうのは、我々兵士の仕事です。いくら司令官といえど、越権行為ですよ。我々の仕事を取らないで下さい」


「も、申し訳ない」


 ずけずけとヴォルフに物言う警備隊長を見て、また周りは目を丸くしている。


「それで、何か見つかりましたか?」


「ああ……。そうだ」


 ヴォルフは懐に手を伸ばす。

 出したのは1枚の巾着だった。

 ただの巾着ではない。

 レミニアお手製の巾着で、何でも入ってしまう魔法の袋なのだ。


 ヴォルフは巾着を開けて、手を突っ込む。

 ニュッと現れたのは、何か巨大なものらしい。

 巾着の入口を目一杯広げながら、ヴォルフは取り出した。


「「「「「うわああああああああああ!!」」」」」


 悲鳴が上がる。

 無理もないことだろう。

 それは巨大な翼だった。


 皆が口を開けて、ヴォルフが取り出した翼を見つめている。

 その大きさもそうだが、そんなものを軽々と片手で持ち上げているヴォルフもまた異様だった。


「ちょ! ヴォルフさん、それ――――」


 あの警備隊長ですら、腰を抜かしている。


「ああ。グランドドラゴンの翼だ。さっきレクセニル王国国境付近に入ろうとしていたから、狩ってきた」



「「「「ぐ、グランドドラゴォォォォオオオオンンンン!!」」」」



 門番を含めた周囲が、また悲鳴を上げるのだった。


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