プロローグ Ⅵ(前編)
お待たせしました。
『第6章 伝説の聖軍』が開幕です!
それは突然、レクセニル王国の北方で始まった。
生存者の話では、最初に聞こえたのは地鳴りだったという。
その直後カタカタと物が揺れ、ついには家全体が震え始めた。
地震かと思い、机の下に隠れたが、音も揺れも止むことはない。
すると、窓の外が急に暗くなった。
雲が出てきたのかと思えば、そうではない。
突然、重い音を立て、窓の外に現れたのは足だった。
巨大な生物の足と思われるものが、隣家を踏みつぶしていく。
魔獣だ……。
生存者は顔を青くしながら、事態を察した。
慌てて床下の漬け物が入った壺を出して、そこに隠れる。
刹那、ガラガラと音を立て、家が潰れる。
梁が目の前に落ちてきたが、床下まで入ってくることなく、事なきを得たという。
生存者は崩れた我が家から抜け出し、周りを見た。
小さな村は破壊され、さらに人を食ったような痕跡があった。
生存者は怒りに震える。
魔獣への殺意に目覚めたが、ふと南の方を見た時、その炎はあっという間に消滅した。
砂埃の下に真っ黒な塊があった。
よく目を凝らすと、それは魔獣の軍勢である。
生存者はまるで巨大な戦車に轢殺されたような村の中で、たった1人崩れ落ちるしかなかった
◆◇◆◇◆
魔獣の軍勢がレクセニル王国北方に突如出現した。
魔獣たちは周辺の村々を襲いながら、王都を目指しているという。
その数はおよそ1万。
魔獣戦線の規模と比べれば少ない。
だが、魔獣がこれほど大量に発生した例も少なかった。
レクセニル王国国王ムラドは、王国軍を派遣。
先遣隊として、レクセニル王国が誇る猛将グラーフ・ツェヘスが率いる騎士団を向かわせた。
その数は700。
1万の魔獣と戦うには、あまりに少ない数だろう。
しかし、騎馬に乗った騎士たちは楽観的だった。
「にひひひひ……。久しぶりの魔獣討伐だ! 【破壊王】の腕が鳴るってもんだ」
「イーニャさんよ。遠足じゃねぇんだ。もうちょっと緊張感をだな」
「なんだと、ウィラス! あたいに全戦全敗してるヤツが偉そうにいうな」
「あぁん! ざけんな! 俺は騎士団の副長だぞ」
「お兄様、副長というからには、もう少し言葉遣いを」
「黙れ、アンリ。そもそもお前を同行させる許可なんて出してないぞ」
「そうですよ。お兄様の許可はもらっていませんから、安心してください」
「安心できるか! おい、ダラス! リーマット! なんでこのじゃじゃ馬を引き留めない」
「も、申し訳ない」
「ははは……。それは無理な相談ですよ、リーマット殿。じゃじゃ馬をつなぎ止められるような頑丈な鎖があれば、とっくに使っています」
「2人揃ってお手上げなんて顔してんじゃねぇよ!!」
「ウィラス……!」
「は、はい!!」
「うるさいぞ、お前こそ集中しろ」
「わ、わりぃ、大将」
「忘れるなよ。ウィラス。俺はあくまで騎士団団長だ。指揮官ではない」
「それはわかっているんですが……。その指揮官はどこに?」
「………………だそうだ」
「はっ?」
「何度も言わせるな。下着を変えてから出陣するだそうだ」
「なんだ、そりゃ」
「知らん。願掛けか何かだろう」
「ケッ! あの田舎者め」
「そんなこといっちゃダメだよ、マダロー」
騎士団は進む。
すると、大きな街が出てきた。
すでに煙が立っている。
火事というわけではない。
一陣の風が吹く。
焦げたような匂いに混じって、獣臭、さらには血の匂いが鼻を突く。
途端、騎士たちの顔が引き締まった。
すでに戦闘は始まっていたのだ。
「行くぞ!!」
先頭のツェヘスが馬に鞭を入れる。
速度を上げると、レクセニル騎士団は街に突入した。
やはり街の中は戦場と化していた。
家がなぎ倒され、炎が立ち上り、そして魔獣の吠声が轟く。
人々はパニックを起こし、逃げまどっていた。
ツェヘスは一目で状況を理解し、下知を下す。
「マダロー! エルナンス!」
「「はっ!!」」
2人の若い騎士は背筋を伸ばした。
「2人の班で市民を誘導しろ。後方で退路を作れ」
「しっかりやれよ、お前ら。大事なことだからな」
ウィラスは付け加える。
マダローとエルナンスは敬礼し、早速命令に取りかかった。
一方、ウィラスはツェヘスと馬体を合わせる。
「指揮はしないんじゃなかったんですか、大将?」
「指揮官がいないんだ。仕方あるまい」
「へへ……。確かに……」
ウィラスは嬉しそうに槍を握ると、肩に置く。
「久しぶりに暴れるとするか。なあ、【破壊王】」
ウィラスは振り返る。
しかし、そこに小さな【破壊王】イーニャ・ヴォルホルンの姿はなかった。
「あ、あれ? イーニャは?」
「お兄様、あれを!」
アンリが指差す。
その方向を見た時、魔獣の咆哮もかくやという程の気勢が聞こえた。
「おらああああああああああああああああああああああ!!」
その小さな身体からひねり出されたとは、およそ思えない声だった。
瞬間、土柱が立ち上る。
大通りを抉り飛ばすと、大きな穴が空いた。
周辺には圧殺された魔獣の死体が転がっている。
「ふん!」
どんなもんだ、とばかりに息を吐いたのは、イーニャだった。
その手には鉄の塊のようなものが握られている。
【破壊王】イーニャの獲物だ。
「す、すげぇ…………って、ちげぇ! あれじゃあ、どっちが街を破壊しているかわかんねぇぞ!!」
ウィラスは逆立った頭髪を掻いた。
「そうなる前に制圧するぞ。ひるむな……」
行くぞ! レクセニル騎士団!!
ツェヘスが声を張り上げる。
同時に馬の腹を叩くと、騎士団は万の魔獣がいる戦場へと突入していった。
ブックマークが15000件突破しました!
ブクマしてくれた方ありがとうございます!
今後も更新頑張りますので、引き続き応援よろしくお願いします。
【宣伝】
『ゼロスキルの料理番』のコミカライズ版が、
ヤングエースUP様で好評配信中です。
ご興味のある方は、是非読んで下さい!